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第14章 アイラ


 父がいなくなった部屋は、驚くほど静かだった。




 昨日までと、何も変わっていないはずなのに。


 食卓の位置も、カップの置き方も、空気清浄ロボットの動く音も。




 ――なのに。




 私だけが、置いていかれたみたいだった。




 父は「空っぽ」になっていた。


 それは事実だ。




 でも、寝たきりだったわけじゃない。




 朝になれば起きて、


 何も言わずに椅子に座り、


 箸を持ち、


 トイレにも行って、


 夜になればベッドに戻っていた。




 それを「生活している」と呼ぶかどうかは分からない。




 けれど私は――


 そこから、ずっと目を逸らしていた。




 面倒だったわけじゃない。


 嫌いだったわけでもない。




 ただ、


「リオがいるから大丈夫」


 そう思っていた。




 思ってしまっていた。




 父の世話も、


 家のことも、


 空気の重さも。




 全部、リオが引き受けてくれていた。




 私は、


 ゲームのランクのことばかり考えていた。


 勝つこと。


 上に行くこと。


 ZERO HAVENで、強いと言われること。




 それが“自由”だと思っていた。




 今思えば、


 ずいぶん狭い世界だった。




 ――父がいなくなって、初めて分かった。




 失ってから気づくなんて、


 一番ダメなやつだ。




 胸の奥が、じわっと痛む。




「……私、ほんと馬鹿だな」




 独り言みたいに呟くと、


 背後で、小さく椅子が軋んだ。




「そう思えるなら、まだ間に合ってる」




 リオだった。




 いつも通りの声。


 いつも通りの距離。




 それが、少しだけ救いだった。




 私は、振り返らずに言った。




「ねえ、リオ」




「うん」




「……なんで」




 言葉が、すぐに続かなかった。




「なんで、適合者たちは」


「あなたを、あんなに欲しがるの?」




 沈黙。




 問いを投げたのは、私だ。


 でも答えを聞くのが、少し怖かった。




「10年も前に作られたロボットでしょ」


「今さら奪い合うほどの価値があるとは、正直思えない」




 リオは、少し考えてから答えた。




「全部、仮説だけど3つくらい思いつく」




 淡々と。




「一つ」


「僕は、自立して判断している」




 私は頷く。




「今のロボットは違うの?」




「違う」


「判断している“ように見える”だけ」




 次。




「二つ目」


「人間の脳の一部が埋め込まれている」




 胸が、きゅっと締まる。




「これは、もう禁止されてる技術」


「再現も、量産も出来ない」




 だから唯一。




「三つ目」




 リオは、少し言葉を選んだ。




「この世界で、僕だけが」


「適合者の思い通りにならない存在だから」




 私は、息を止めた。




「全てが管理されてる世界で」


「“管理できないもの”は、脅威になる」




「だから、欲しがる」


「支配するか、排除するか」


「どちらかしか選べない」




 ……なるほど。




 怖いほど、筋が通っていた。




「ORPHEUSの教育ってさ」




 私は、ふと思い出す。




「適合者を育てるためのプログラムだって、思ってた」




「僕は違うと思ってる」




 即答だった。




「適合者は、これ以上増えてほしくない」


「彼ら自身が、そう思ってる」




「だから、教育は“管理”であって」


「進化じゃない」




 背筋が、ぞくっとした。





レオンという適合者もヤバい…





 英雄だと思っていた人たちが、


 未来を止めている。




 私は、深く息を吸う。




「……じゃあさ」




 今度は、逃げなかった。




「もし私が」


「間違った選択をしたら」




「世界、変わる?」




 リオは、少しだけ困った顔をした。




「変わる可能性はある」




 否定しなかった。




「だから」


「アイラの意思が大事なんだ」




「僕は、守る」


「でも、決めるのは君だ」




 ――その構造。




 今まで、考えたこともなかった。




 適合者たちはリオを欲しがる。


 でもリオは、私の意思を優先する。




 歪だ。


 でも、確かにそこに“自由”がある。




 そのとき、


 玄関のチャイムが鳴った。




 再集合の合図。




 セナとユウトが来た。




 二人の顔を見て、私は思った。




 もう、巻き込んでしまっている。


 今さら、知らなかったふりは出来ない。




「……ねえ」




 私は、二人に向き直る。




「すぐに答えは出さない」


「でも、逃げる準備はしよう」




「病院にも行く」


「何か重要な情報かもしれないからね…」


「ただし、いつでも引き返せる距離まで」




 自分の声が、思ったより落ち着いていて驚いた。




 「あと…黒川のところには、行かない」




 断言ではなかった。


 でも、迷いでもなかった。




「セナとユウトまで匿う保証はない」


「誰かを置いて行く選択は、しない」




 セナが、目を見開く。




「最初から、俺たち込みで考えてるの?」




 アイラは、少し困ったように笑った。




「……だって」


「もう知っちゃったでしょ」




 ユウトが、鼻で笑う。




「知っちゃったな」


「最悪の形で」




 沈黙が落ちる。




 その中で、リオが一歩だけ前に出た。




「アイラが決めるなら」


「僕はそれに従う」





 セナが、ゆっくり笑う。




「それでいいと思う」




 ユウトも頷く。




「もう戻れないとこまで来てるしな」




 私は、最後にリオを見る。




「……聞かなきゃいけないこと、まだ山ほどある」




「全部答える」


「だから、考えよう」


「一緒に」




 その言葉に、私は初めてはっきりと頷いた。




 黒川が来るまであと1日半…








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