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第13章 絆



 検視結果の映像が消えても、誰もすぐには動けなかった。




 最初に口を開いたのは、ユウトだった。




「……なあ」




 ぎこちない笑顔で言う




「お前らさ」


「何と戦ってんだよ……」




 誰に向けた言葉なのか、自分でも分かっていない声だった。




「EBSの適合者って、世界に6人しかいないって話だろ」


「そのうちの二人が、もう間接的にでもお前らに接触してきてるの、俺たち見ちゃったし」




 ユウトは、リオを見る。


 次に、アイラを見る。




「正直さ……」


「高校生が首突っ込んでいいスケールじゃねえよ、これ」




 セナは黙っていた。


 いつもなら、先に感情を爆発させるはずなのに。




 しばらくして、ぽつりと呟く。




「……俺さ」




 視線を落としたまま。




「昨日のこと、まだ全然整理できてない」


「アイラとリオが退学って言われて、理由もよく分からなくて」


「それで今日、ここ来たらさ」




「適合者が、勧誘しに来るとか」


「親父さんの死にしたって、、、」


「検視結果を、エレナ本人が動画で説明するとか」




 小さく笑った。




「俺、エレナの大ファンだったんだぞ」




「……全部が現実感ないんだよ」




 ユウトが、ため息混じりに続ける。




「でさ」


「昨日の放課後な」




 その言葉に、アイラが顔を上げた。




「お前らが退学になった日の放課後」


「クラスに通達があった」




「通達?」


 アイラが聞き返す。




「ああ」


「担任じゃない」


「適合者から、直接」




 ユウトは、少し言いづらそうに口を歪めた。




「レオンって名前、聞いたことあるだろ」


「情報と教育を握ってる適合者」




 リオの指が、わずかに動いた。




「内容はさ」


「一見、普通の“特別学習”だった」




 ユウトは、記憶をなぞるように話す。




「ロボットの個人所有がどれだけ重罪か、とか」


「人体実験の歴史とか」


「人間の一部をロボットに移植する行為が、どれだけ危険か、とか」




「……そんなの、今まで習ったことなかっただろ?」




 セナが、唇を噛む。




「担任はさ」


「ORPHEUSの教育方針的に、“知っておくべき知識”だって補足してた」




 ユウトは、首を横に振った。




「でもさ」


「タイミングも、内容も、どう考えてもおかしい」








アイラの喉が、ひくりと鳴った。




「……待って」




ユウトの言葉を遮る。




「人間の一部をロボットに、移植……?」




室内の空気が、一段冷える。




「それって……」




アイラは、ゆっくりリオを見る。




「……お父さんの、脳の一部がリオに移されてるってこと?」




声が、わずかに震えた。




「私、そんな話……初めて聞いた……」




否定してほしい、というより


確認してしまった声音だった。




リオは、すぐには答えなかった。




一歩、前に出る。




「……それだけを聞かされてたらそう思うのも、無理はない」







リオは、アイラから目を逸らさなかった。




「父さんはEBSの副作用を、誰よりも分かってた」




「自分が壊れる可能性も、家族が巻き込まれる未来も」




静かに、言葉を選ぶ。




「だから、もしもの時に、残るものを作った」




「支配のためじゃない、逃げるためでもない」




「……対抗するためだ」




アイラの唇が、わずかに開く。




「じゃあ、私は……」








リオは、少しだけ声を落とす。


「言うタイミングが来なかっただけだ」





沈黙。




セナが、気まずそうに頭を掻いた。




「……今の、」


「まさに向こうの思う壺ってやつだよな」




ユウトが、苦笑する。




「知識だけ投げて勝手に疑わせる」


「ほんと、性格悪い」




アイラは、目を伏せたまま、息を整えた。




そして、小さく言った。




「……ごめん一瞬、疑った」




リオは、首を振る。




「疑っていいよ、その権利はある」




「だから今は一緒に考えよう」


「信じるかどうかはその後でいい」






 その言葉に、アイラは何も返さなかった。


 ただ、ゆっくりと息を吐いた。




 張りつめていた何かが、ほんの少しだけ緩む。




 沈黙を破ったのは、セナだった。




「……なあ」




 空気を壊さないように、けれど誤魔化さない声。




「確認していい?」




 リオを見る。




「結局さ」


「リオは……ロボット、なんだよな」




 一瞬の間。




 リオは、頷いた。




「うん」




 それだけだった。




 セナは目を瞬かせて、


 次に、ふっと笑った。




「……そっか」




 ユウトが、半拍遅れて続く。




「じゃあさ」




 椅子にもたれ、天井を見る。




「世界に六人しかいない化け物みたいな大人たちが」


「インフラ全部握って、互いに牽制し合ってて」




「その全員が」


「“欲しい”って思うレベルのロボットってことだろ、お前」




 セナが、素直に言った。




「……すげぇな」




 憧れに近い響きだった。




「俺さ」


「適合者って、英雄だと思ってた」




「社会を支える、選ばれた人間で」


「正しいことをする存在だって」




 ユウトが肩をすくめる。




「でも、今日見たのはさ」


「勧誘と脅しと、情報操作ばっかだ」




「学校も怪しい」


「警察も怪しい」


「正しい場所なんて、もうどこにも無い」




 アイラが、顔を上げた。




「……それでも」




 声はまだ不安定だった。




「二人を、これ以上巻き込めない」


「これは……私たちの問題だから」




 すぐに、セナが首を振る。




「それ、違う」




 珍しく、即答だった。




「もう巻き込まれてる」




 ユウトも頷く。




「俺たち、見ちまったからな」


「適合者が家に来るとこも」


「検視の動画も」


「学校の異常な通達も」




「知らなかったことには、戻れない」




 少し間を置いて、セナが続ける。




「それにさ」




 笑う。




「アイラとリオがいなかったら」


「俺たち、こんな世界の歪みに一生気づかなかった」




「気づかせてくれたんだ」


「お礼しかねぇよ」




 アイラの目が、揺れた。




「……一緒に、逃げる?」




 その言葉は、確認だった。




 ユウトが、即座に言う。




「当たり前だろ」




「学校も信用できない」


「大人も信用できない」


「だったら、自分たちで選ぶしかない」




 セナが、拳を軽く握る。




「どこに行くかは、これから考えりゃいい」




「でもさ」


「このまま、檻の中で選ばされるより」




 リオを見る。




「自分で逃げ道選ぶ方が、よっぽどマシだ」




 リオは、しばらく黙っていた。




 それから、小さく息を吐く。




「……危険だよ」




「俺と一緒にいる限り」


「必ず、狙われる」




 セナが、笑った。




「今さらだろ」




 ユウトも、肩をすくめる。




「もう後戻りできないとこまで来てる」




 一拍。




 アイラが、静かに言った。




「じゃあ……」




「一緒に逃げよう」




 その瞬間、


 部屋の中にあった不安は、消えた。




 四人は、その夜いったん解散することにした。


 二日後。

 黒川が再び来るまでに。


 それぞれが、

 世界と決別する準備をするために。



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