四歩目 崖上
フワワ達の行先である山麓の街フラトゥスを拠点としているアーリャが、『魔』に逃げられて巻き込みそうになった「お詫び」として、案内をすると申し出た
道とは呼べない森の中を迷いなく突き進むアーリャは、軽々とネスタの身長ほどの崖を風を自らに纏わせて跳んで越えて行く。
そうして崖上から振り返ったアーリャがひらりと手をあげた。
「登れない子はうちが釣り上げるよ~」
「釣り上げる?」
「んー。こんな感じ」
言葉で説明をしようとして諦めたのか、わずかな間を開けて不思議そうなフワワに向けて手を差し伸べるように動かした。
「へ」
足元から巻き上がるような風にフワワが驚きの声を上げるよりも先に、身体が風によって上へと押される。
一瞬で森を見下ろす視界に空高くに飛ばされた事を察したフワワは身を固くする。
「きゃああああああぁぁぁっ!!」
最高点に到達した身体が落下する感覚に悲鳴を上げるフワワには「わはー、釣り上げ過ぎた~」とのんびりしているアーリャの声は届かない。
ほどなくして落下を和らげるような風の感覚とともに目の前に広げられた両手が翳される。
ぱっちりと開いた翡翠色の瞳が安心させるように笑う。
「はーい、足下ろすよ~」
「へ、わ、わぁ」
ゆっくりと纏わりつくような風によって空中で立っている体勢に戻ったフワワの足が地面に触れる。
風が消えて、ふわふわと浮いた感覚もなくなって、フワワは呆けた顔で固まる。
「ごめんねぇ。うち、自分以外だと加減が苦手なの忘れてた~」
ひらひらとフワワの顔の前で片手を振ったアーリャは「怪我はさせてないと思うんだけど」と呆けているフワワの周りをくるりと一周回って確認する。
「――― ……はっ! だ、大丈夫です! ビックリしてしました!」
「わかる~。うちも初めての時はビビったもん」
アーリャはけらけらと笑って、それからフワワの後ろの方を見る。
カナカが先に自力で跳んで上がり、ネスタが持つ盾を中間点のジャンプ台代わりにして跳んだソノラの足りない分を手を取って引っ張り上げる。
そうしてネスタの武器を二人が上で預かって、ネスタも自力で崖を越えて行く。
カナカがネスタに武器を返してフワワの方に近寄る。
「怪我は?」
「ビックリしたけど大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。カナカくん」
「別に。ならいい」
いつも通りぶっきらぼうに返したカナカと、にこにこと嬉しそうに笑うフワワ。
フワワの進言通りに問題はなさそうだと眺めたソノラはアーリャを見る。
「アーリャさんのパーティーはさっきみたいに越えられるんですか?」
「そうそう。うちのパーティーはウェントゥス王国だけって言われてるけど実際は山の討伐担当だからさ~」
「フラトゥスと北部大都市までの山ですか?」
ソノラもあまり聞きなれない『山の討伐担当』という説明に重ねて問えばアーリャは首を横に振る。
「ううん。ウェントゥスの山。全部」
「山」
「全部」
あっさりと言ったアーリャの言葉を思わずソノラとフワワで繰り返してしまう。
アーリャはその様子に気が付いているのかいないのか、慣れているのか、「こっちだよぉ」とまた道案内を始める為に動いた。
「よ、よくわからないけど、すごい、ね……?」
「そうですね……。たぶん、ものすごく」
それに続くように後を追いながらフワワとソノラがひっそりとそう言っていた。
カナカは踏みしめる足場の悪い道とも言えない道と、その周囲の更に足場の悪い環境を見て「めんどそう」と感想を零していた。
カナカの感想が聞こえたネスタは「あぁ、すごいな」と朗らかに笑った。
アーリャはそんな会話が聞こえているのかいないのか、均されていないでこぼこの道などお構いなしにくるりと振り返って後ろ向きに歩き始める。
「うちのパーティーは全員フラトゥス出身でねぇ、昔から山の『魔』討伐の大変さは身をもって知ってるからなー。山には慣れてるし、自信あるし、ってことで山の討伐請け負ってるぜ~。一応平地とかでの討伐も慣れるかって事で大都市とかもうろちょろしてるけど、大体山で討伐してるんだー」
「なるほど。専門の方が居ると安心ですね」
「そっか、専門家! アーリャちゃん、格好いいです!」
「わはー。そんな褒められると照れるぜー」
言葉通りに頬を染めて恥ずかしそうにしたアーリャが顔を隠すようにくるりと前に向き直す。
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