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エデンズエレメンター  作者: 雪梅るり
二章 山麓の街フラトゥス

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三歩目 唸る風



 ようやく見えてきた人影はさっきよりもはっきりとして、纏う風は普段フワワが攻撃で放つものよりもずっと荒々しい。

 逆光で顔立ちが良く見えないその人が声を上げる。



 「にーーげーーんーーなぁーーーーー!!!」



 張り上げた言葉とともにその腕が振り下ろされる。

 長い、長い鞭のように繋がった矢じりのような幾つもの刃が唸り声をあげて中空を泳ぐ風に沿って走る。

 あっという間に猪に絡んだそれを引き寄せるように腕を動かした人物は、武器を持っていない腕を思い切り引いた。


 「手間ぁ、かけさせやがってぇ~~っ!!」


 声音でよくわかるほどに怒り心頭らしい人物が武器で絞めつけながら引き寄せた『魔』に、思い切り風を纏った拳を打ち付けた。

 鈍く短い、苦悶のような音を叩きだしてそのまま『魔』が地面に盛大に叩きつけられる。

 軽い腕の動きでなおのこと武器で『魔』を絞めた瞬間に、黒い塊が霧のように散る。


 そうして緑色の魔石が少し窪んだ地面に落ちた。

 唸るような風を鳴らしてその人物の武器が手元に戻っていき、纏まった鞭の部分を分厚いグローブの手で掴む。


 「時間かかったぜ~。まじついてなーい」


 ウェーブのかかった浅葱色のセミロングを耳の下あたりの高さでツインテールにし、アタッカーらしい背中までの長さの短いマントを揺らした少女が、ギュッと危ない武器の鞭部分を握りしめながらそう零す。

 きらりと、マントについている翡翠色の花を模した小さなバッジが輝いた。



 「やっぱり、あれは」

 「ネスタ。知り合いですか?」

 「いや、知っているだけだ。あれはウェントゥス王国で有名なパーティーの一つで……」


 『魔』が落下し、エレメンターの攻撃らしい荒々しい風圧を凌いだネスタの盾から顔を出したソノラは、聞こえていた声で察していたが自分と変わらない年ごろの少女の姿に少しだけ驚いた顔をした。

 振り返った少女の鮮やかな翡翠色の瞳を見て、カナカとソノラに遅れて盾から顔を出したフワワは目を輝かせた。


 「――― 《唸る風》のアーリャだ」


 白の模様が入った柔らかい緑地の支給服は太ももまでの丈をしており、その下に動きやすそうなショートパンツを着用している。白の腰ベルトに取り付けられるようになっているのか纏めた武器をそこにぶら下げた。

 黒いタイツがわずかにのぞく程度に長い黄緑色の紐の薄いグレーのロングブーツを履いている。



 「ええっと。どもども~。急に降って来てすいませーん」


 さっと魔石を回収して、居心地悪そうにはにかみながらそう言った少女に、ぱちぱちと手を打つ音が鳴る。

 カナカとソノラが振り返り、ネスタも盾を下ろして肩越しに振り返る。

 頬を紅潮させて、目を輝かせて、喜色満面のフワワが拍手をしていた。

 それに少女もきょとりと目を瞬かせる。


 「すっごい! 格好いいです!!」

 「わはー。褒められた~。照れる~」

 真っ直ぐに目を向けられて言われた少女が恥ずかしそうに頬を染めながらも、嬉しそうに笑った。

 カナカはどことなく不満げにしたものの、元々口数が多いわけでもない為何も言わずに口を引き結んだ。


 「はじめまして! あの、私はフワワって言います!」

 「――― おー、はじめましてー。うちは、《唸る風》のアーリャ。アーリャちゃんでいいぜ~」

 「はい! アーリャちゃん!」

 一瞬だけきょとりとしたアーリャは、一度上から下までさっとフワワを見てから、なにかに納得したように挨拶を返す。

 それに苦笑をしたのはソノラで、フワワに耳打つためにそっと顔を近づける。


 「フワワ、名乗る時は信憑性のために名前だけでも【神の雫】で見せるのがマナーですよ」

 「……あっ!! わ、忘れてたっ!」

 「あはー。いいよいいよ~。新人さんなのわかるし、最初は慣れないよねー」

 「すみません。ありがとうございます」

 「ご、ごめんなさい。ありがとうございますっ!」

 ソノラに倣って謝ってから頭を下げて礼を言うフワワに、いいよ、と言う代わりに軽く手を振ったアーリャが、胸元に揺れる【神の雫】に触れる。

 そうして半透明の曇りガラスがかかった枠が現れる。


 「改めまして。うちは《唸る風》のアーリャ。よろしく」


 にこりと笑うその顔の横に浮かんだ枠の中にはアーリャの名前と《称号》が記載されていた。





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