二歩目 陸路
「いい加減行くぞ」
「うん。カナカくん」
そうして先を歩きだしたカナカに続いてフワワ達はすぐ側の森に沿って、その先にある街 ――― もっと正確に言うならば、おそらく『村』になる ――― を目指していた。
森からは低い山が覗き、その向こうには更にいくつもの高い山が見えていた。
フワワ達が目指すのはウェントゥス王国の北部大都市テンペスタースになるが、ウェントゥス王国の北部を目指すには険しい山々が難所となっている。
山越えを避けるには一度ウェントゥス王国の東に隣接するトニトゥルス王国を経由する順路か、西側の海路。
あるいはフワワ達のように北部に最も近い山麓の街フラトゥスを経由する陸路が一番最短になる。
「すごいね。私の住んでいたところも山があったけどこんなに高くなかったよ」
「そうですね。山越えの難所と言えば、で上がる場所ですし。壮観ですね」
「壮観だが………本当に大丈夫だろうか」
不安そうに零すネスタに誰も肯定も否定もできなかった。
元々北を目指したのはカナカの出身が南にあるイグニス王国だった事で南部方面を却下したため、逆側の北へと向かうことになったのだ。
そして一番無難なトニトゥルス王国経由の順路を目指す途中で寄った街のギルドにて、ネスタが所属し、一方的に脱退させられたパーティー《燃え盛る陽》がトニトゥルス王国に向かった話を聞いて面倒を避けるために断念した。
次に安全だが時間とお金のかかる西側を目指すかと相談している途中で巨大な『魔』が海路で発生した事を聞いたのだ。
海に現れる『魔』は討伐する為にどうしても優れた水のエレメンターが必要であり、海上という戦闘条件において最も手慣れているのは海を四方に囲まれたたくさんの島を擁するアクウァ王国に常在している。
つまり、どうしても討伐までに時間がかかる。
結果、最も最短で、最も面倒である中央突破 ――― 山麓の街フラトゥス経由になったのだ。
「たしかフラトゥスの人に道案内を頼むか、道順を教えてもらうんだよね?」
「そうですね。まぁ、案内してもらえるのが一番だそうですけど」
「じゃあ……」
フワワが何かを言おうとして、驚いたように目を見開いて空を仰ぐ。
「『魔』の気配が近づいてる! う、上から!」
フワワの言葉にそれぞれが警戒するように武器を構えて上を見上げる。
山から弾き飛ばされるような勢いで何かが飛び出して、太陽にかかって影を作る。
その点が徐々に大きくなってくるのと同時に感じ取った気配に、フワワがカナカへと視線を向けながら言った。
「あ。あと、エレメンターの人も、居る、みたい」
――― 空に?
と、口にしなくても不思議そうにするソノラとカナカに対して、あ、と何かに思い至ったらしいネスタが盾を構える。
空に浮かぶ太陽にかかった影が大きくなって丸々とした輪郭が分かる。
その輪郭がふわふわとした毛のように細かく揺れて、くるくると回る途中で見えた球体ではない輪郭にフワワが、あっ、と思い至る。
「猪だ」
見えた『魔』の形は猪を模している。
それと同時にようやく、その後ろに人らしい影を見つけた。
風を身に纏って猪を追っているような体勢に、カナカは素早くネスタの後ろに下がる。
「カナカくん?」
「別パーティーの討伐対象だ」
「こういう場合要請が無い限り手出ししちゃ駄目なんですよ。フワワは一番後ろに居てください。念のため後ろから『魔』が来ないか、感知をお願いしますね」
「うん! わかった」
構えを解いてネスタの後ろに下がったカナカに首を傾げたフワワに手早く説明したソノラの言葉に頷いて、フワワはギュッと杖を握りしめて空を仰ぐ。
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