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エデンズエレメンター  作者: 雪梅るり
二章 山麓の街フラトゥス

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一歩目 周辺警戒



 意識を向ける。

 辿り着くまでの道を思い浮かべる。

 それに沿うように光の粒が形を変えていく。


 「風よ!」


 呼応するように見えない風の刃が思い描いた道を綺麗になぞって目的の場所に辿り着く。

 暗闇のような漆黒の二つ頭の鳥もどきの『魔』の右翼を落とすように通った風の刃に、『魔』は耳が裂かれそうなほどの金切り声のような音を発して、霧散した。

 ぽとり、と石が草の上に落ちて少しだけ転がる。


 「…………でき、た?」


 実感がなさそうに呟いたフワワは、ぱちくりと青い目を瞬かせる。

 握りしめたままの杖を持つ手が小刻みに震えている中、『魔』を引き寄せて留めていたネスタが魔石を拾って、その色が良く見えるようにフワワに掲げる。


 魔石は倒したエレメントによって色が決まる。

 緑色は風のエレメントによって倒された証であり、フワワ達《夕焼け空》パーティーの風のエレメンターはフワワだけだ。

 「おめでとう。フワワ」

 ネスタの言葉に実感がぶわりと湧き上がったフワワが頬を染めて喜色ばんだ。


 「やったー! やったよ!」

 「ああ。やったな。フワワ」

 「ありがとう! ネスタくんが引き止めてくれたおかげだよ!」

 「諦めずにフワワが頑張ったからだ」


 嬉しさにほのかに涙を滲ませながら礼を述べるフワワに、ネスタは整った顔立ちを同じように嬉しそうに緩ませて笑い返す。

 喜んで駆け寄ったフワワにネスタは持っていた魔石を、フワワが倒した証である緑色の魔石を差し出す。

 それを両手で嬉しそうに受け取ったフワワは、パッと振り返る。


 「ソノラちゃん! できたよ!」

 「見た感じこの方向で合ってた」

 「お疲れ様です。ちょうど終わったところなのでパーティーに戻してください」

 「おう。距離はあるから移動は早い方がいい」

 「わかりました」


 喜んで振り返ったフワワは、ちょうど少し先の様子を確認しに行っていたカナカが戻って来て報告し、周辺を警戒していたソノラがそれを労っていた。


 現在、フワワの実力をあげようと、ソノラのパーティーメンバー全員に効果があるギフトスキルの『必中』を外すため、一時的にソノラをパーティーから外していた。

 最初からずっとソノラのギフトスキルに頼ると、いつまでもフワワの実力はあがらない。

 この先ずっとソノラと同じパーティーで居る、と決まっているわけではない。その仮定を持って教えないと、最終的に困るのは他でもないフワワだというフワワ以外の三人の意見が一致し、定期的にこうして練習の討伐を行っていた。


 手早く移動の準備に移るカナカが一度パーティーから外していたソノラを戻し、ソノラも警戒を解いてフワワを見る。

 「移動しますよ。フワワ、ネスタ」

 「わかった。 ――― フワワ、感知はどうだ?」

 「はっ! 今のところ周りには『魔』の気配はしないよ!」


 ソノラの言葉に頷いて二人の方へと向かいながらフワワにそう尋ねたネスタに、どことなくしょんぼりとしていたフワワは我に返ってそうはっきりと返す。

 それに「なら安全ですね」とソノラが笑う。

 急ぎ足でカナカ達の方に向かうフワワに、ソノラが少しだけ申し訳なさそうな表情をする。


 「フワワ。道中では?」

 「周辺警戒が大事!」

 「喜んだりするのは」

 「あ、安全な場所でする……! ごめんなさいっ! う、嬉しくてっ、忘れちゃって!」

 頭を下げるフワワにソノラはよしよし、と頭を撫でる。


 「水を差すのは承知で何度でも繰り返し言いますね。嫌になるだろうけど、大事な事ですよ。癖になって危ないのはフワワですから」

 「え? 嫌になんてならないよ。ソノラちゃんはいつも危なくないように考えてくれてるもん。私、もっと、気を引き締めるね!」

 握りこぶしを作ってきりっとした表情をしてソノラに宣言するフワワに、ソノラも安心したように笑い返した。

 「俺も、すまない。つい、一緒に喜んでしまった」

 「ネスタはナイトだから万が一攻撃受けても大丈夫だとは思いますけど、気を付けてくださいね」

 「あぁ。油断しないようにする」

 フワワが持って来た魔石を受け取って軽く「よかったな」と言ったカナカは、ソノラの注意にしっかりと頷いて宣言するネスタを見る。


 カナカが確認として単独行動に出る前からフワワが集中するための時間を稼ぎ、何度も『魔』を引き止めながら倒さないように守りに徹していたネスタは、全く疲れた様子もなければ、怪我も見当たらない。

 「ネスタって大分堅いよな。ステイタス値、攻撃も結構あったけど」

 「そうですね。タンク代わりもこなしてたんですか?」

 「――― あ、いや、その」

 もごもごと言い難そうに俯いたネスタは、なんとも言えない表情をしながら自らの頬を掻いた。


 「………前の、リーダーの攻撃がよくぶつかっていたから、その分、防御がどんどん上がっていた、な」


 恥ずかしそうにそう言うネスタに全員が一瞬動きを止める。

 戸惑ったように全員を見るネスタに、はぁ、とため息を吐いたソノラが口を開く。

 「そういえば防御のステイタス、高かったですね……。次の街に着いたらギルドに報告追加しましょう」

 「先に言っておけよ」

 「ネスタくん、い、痛かったよね? 怪我はない? 治すよ!」

 「だ、大丈夫だ! ありがとう! ………報告は、しよう。いつもの事で、変に慣れて、忘れていた」

 「もう最初から最後までどういう扱いだったか言っておいてください。たぶん、全部駄目だと思いますよ。前のリーダーの人」

 「そうだったかも、しれない」

 ネスタは柔らかく笑って、そう頷くだけだった。

 その様子にカナカは何とも言えなさそうな表情で何も言わずに前を向き、ソノラはどことなく困った様子でそっと息を吐く。


 「本当に大丈夫?」

 フワワは変わらず心配そうに見て、もう一度尋ねる。

 それに少しだけきょとりと不思議そうな顔をしたネスタは、それからすぐに笑い返した。

 「本当に、大丈夫だ」

 「なら、よかった」

 ネスタの笑顔を見て、フワワは安心したようにようやく笑った。

 その様子にソノラも表情を和らげて、近くのフワワの頭をよしよしと撫でる。





御覧くださりありがとうございます。

次話は3/14(土)に更新できればと思っております。

よろしければお付き合いくださると幸いです。

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