ニネアさんの忙しき日々のはじまり・後
「今は、人手足りてるのでごめんなさい」
「まだ新しい人を育てる余裕なくて。すみません」
「自分がまだ未熟で、新人さんを引き受けるのは荷が重いかなって」
やんわりとしたお断りとしては十分だった。
暗雲を背負っているも同然に落ち込み、きらきらとしていた瞳を潤ませているフワワに、三つ目のパーティーのリーダーを見送ったニネアは慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫です! まだまだ他のパーティーにお声がけしますので! ウェルテクスギルドを拠点としている信頼できるパーティーがいくつもいらっしゃるんですが、今日は討伐に出ていらっしゃって、その、お声がけできなくて!」
「は、はい……」
落ち込んでいるフワワの手を取って、ニネアは必死に見つめる。
フワワのジョブはニネアも初めて見るバランサーだった。
おとぎ話や作り話のジョブだと言われているものを与えられたのがフワワだ。
特筆して高い数値もない、まさにバランス良く伸びているステイタスの数値は、だからこそニネア厳選のパーティーの三つともがやんわりと断るものだった。
パーティーに迎え入れる以上、新人に教育という時間をかける以上、どうしても釣り合う成果が欲しいと思うのは仕方がない事だ。
エレメンターの戦闘員は慈善活動ではない。
それぞれに与えられた役割をこなして『魔』を討伐してその報酬を当分して生活を送っている。
ただ育てるだけではない。
最終的にパーティーの戦力として、作戦に入ってもらえなくてはいけない。
そしてフワワのステイタスはバランスが良く伸びるだろうが、やはり特化した武器を持つ新人の方がパーティーとしては望ましい。
アタッカーが花形と言われているのは、その攻撃特化のステイタス値故に一番『魔』の討伐に貢献し続けているからだ。
名を馳せているパーティーはどれも花形のアタッカーの活躍が最も目覚ましい。
「きっと、必ずフワワさんを必要としてくださるパーティーがありますから。大丈夫ですよ」
その言葉がフワワに少しも響いていないことはニネアにもわかる。
落ち込んでいるフワワは元々エレメンターとしてギルドに登録できる12歳の時点で、ステイタスのどれも規定値を満たさず、結果一年ほど遅れてようやく規定値になったという。
遅くても半年以内には規定値を満たすのに、一年かかっている。
ニネアとしては戦闘員よりも、ニネアと同じギルド職員の道を勧めたい。
でもそれを決めるのは、フワワ自身であるべきだと、分かっている。
「討伐に出られているパーティーに聞いてみますから。もうちょっとだけ待っていてください。絶対に、絶対に見つけてみせますから」
「……ありがとうございます。ニネアさん」
力なく笑うフワワに、ニネアは笑い返す事しかできなかった。
(《唸る風》アーリャさんは依頼で移動しちゃってる。《迸る雷》ワルドさんが帰ってくるのは三日後か……。今居るパーティーでギルドお墨付きなのは《烈火の星》ドミさん)
トボトボとギルドを出て行ったフワワの背中を見送って大慌てで現在ウェルテクスをメインとして活動しているエレメンターの一覧を見返しながら、ニネアは頭を悩ませる。
《烈火の星》ドミならばフワワのジョブを聞いてもなんだかんだと世話を焼いてくれそうだとニネアは思う。一月ほど前にこの街をメインに活動を始めたが、三日と経たず街の人、主に酒場の人間から親しげに声をかけられるほどに馴染むのが早い。そのパーティーメンバー達も世話焼きだったり人好きのするタイプが多い。
預け先としては最有力候補ではあるが、全体的に年齢差があり、その点でドミ側が渋るかもしれない。
特に決まりはないが年齢が近い者と組んだ方が活動方針で困らないからだ。
あとは、どうしても年が離れている事で大人側が心配をして過保護にし過ぎて経験を積みにくくなってしまう、という事もある。ドミの場合はおそらく自分を含めたパーティーメンバーの性格的にそこを一番気にしてしまうだろう。
分かっていても気にかけてしまうのがドミの性分であり、良い所だ。
(あとは《涼風の陽》ヒューイさんだけど……ここはタンクのリリンさんとの相性によるかな)
《涼風の陽》ヒューイは先日ようやく中級2に上がっており、ドミより少し遅れてこの街に来たが先に居たドミとは気が合うのか合わないのか、お互いに憎まれ口のようなものを叩きつつ酒場で飲み比べをしていたりする。
優男とドミが悪態を吐くように優しく温厚な見た目をしているし、年下に威圧的に接する事はないだろう。
ただ問題はヒューイのパーティーメンバーの最年少であるリリンという少女だ。
やる気のなさそうなまったりとした口調と、リーダーであるヒューイに対しても生意気と言ってもいいような事を言い放つが、それが許されるほどにリリンは優秀な防御の要となるパーティーのタンクだった。
優秀故に厳しい事を言い放つか、気が合って仲良くするか、どちらになるか判別がつくほどニネアはリリンと接したことはなかった。
「ニネア。休憩中は休憩しないとだめだよ~」
思考に耽っていたニネアにかかった声にパッと顔を上げれば同期のユチーナがジュースを片手にニネアの前にある資料をパラリとめくっていた。
「ユチーナ。それが、新人さんを引き受けてくれるパーティーが見つかんないのよ~」
「えぇ~? そんなにアレな子なの?」
驚いて、声をひそめて尋ねるユチーナにニネアは首を振る。
「その、ちょっと平均よりステイタスが低めで……。あと」
あんまり言いふらすものではないが、ニネアがよく知らないパーティーをユチーナが知っている場合もある。
そこにはもしかしたらフワワを受け入れてくれるところがあるかもしれない。
少しだけ迷ったニネアは、同期を信じて声をひそめながら打ち明ける。
「ジョブがバランサーなの」
「んぐっ!!」
口に含んだジュースを噴出さないように留めたユチーナから苦しそうな音が零れる。
少し雑にジュースをテーブルに置くユチーナの噎せる背中をニネアは「大丈夫?」と撫でた。
しばらくして疲れたように息を吐いたユチーナがニネアを見て、顔を引きつらせる。
「―――― からかったぁ~?」
「すっごく真剣な本当の話よ」
「うわぁ~……。あー、それは、まぁ、渋るよねぇ。エレメンターも命かかってるし、生活あるし」
「そうなのよぉ。で、ユチーナの担当で良さそうなパーティーない?」
一番聞きたかった事をニネアが尋ねれば、ユチーナは「それが目的かぁ」と苦笑し、少し考えてそっと肩を竦める。
そうして達観した目でニネアの肩に手を置いた。
「ギルド長に相談した方がいいよぉ~」
駄目だったか、とニネアは手の置かれた肩をがくりと落とす。
「いつもなら真っ先にギルド長に相談してるけど、副ギルド長もティナの件任されて大忙しだし、今日に限って初めてのパーティー来てるし、私が担当するパーティーの優しいリーダーさん達からもやさしくお断りされちゃって……! あんなに良い子なのに!」
「ステイタス低いなら危険だし、ギルド職員とか勧めた方がいいんじゃない~?」
「さりげなくしたんだけど、その新人のフワワさん、エレメンターに憧れの人が居るみたいなのよ。昔助けてくれた人みたいになりたいんです、って、きらきらの笑顔で言われたら……………」
「ニネア、そういうところ弱いよねぇ~。普段はお節介とかうるさいとか散々な事言われるくらい説明細かいのに~」
ユチーナの言葉にニネアは返す言葉もなく項垂れる。
頭では止めるべきだと分かっているのに、結局ニネアはフワワを止める事は出来ずに「パーティーを探すから待ってくれ」とまで言ってしまった。
項垂れるニネアに、よしよ~し、と慰めるように軽く頭に手を置いたユチーナは、ふと聞こえて来た音に顔を動かした。
それはニネアも同様で、忙しない足音が聞こえて休憩室の入口を見る。
「ニネア!!」
ほどなくして音の正体であったミリカが血相を変えて休憩室に駆け込み、姿を見るや否や叫ぶようにニネアを呼んだ。
「ミ、ミリカ? どう……」
「大変! 大変なの! ニネアが担当した新人さんが!!」
「何かあったの!?」
バッと立ち上がって、ミリカと変わらないほどに顔色を悪くしたニネアが叫び返す。
それに構わずミリカがニネアの両肩に手を置いた。
「うちが勝手にお断りした天才少年とパーティーの手続きに来たのっ!」
「へぁ」
神妙な顔のミリカが告げたのはニネアがおかしな声を出すのも仕方がないような、おそらくギルド長だろうと予測が出来ない話だった。
ニネアはまだ知らない。
ニネアが心底心配する事になる新人さんと天才少年が組んだ「お子ちゃま」パーティーが、チェッカーが見つけられなかった強力な『魔』をほぼソロで討伐し、パーティーに理不尽に置いて行かれた行き倒れのナイトとパーティーメンバーとの不和で脱退したウィザードを仲間に加え、ウィザードの前パーティーによって発生した討伐依頼を電光石火で片付けて、怒涛のように街を去って行くことを。
その後に残される、とんでもない量の仕事を。
この時のニネアはそんなことなど全く知らずに、一体全体どういう状況でそうなったのかと頭を悩ませつつ大慌てで担当している新人エレメンター・フワワの話を聞くために、受付へと走ったのだった。
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