閑話1 上級パーティー
まるで星のように煌めく金色の長い髪と熱い意志を宿すような紅色の瞳。
可憐な容姿に似合わない身の丈ほどの大剣を背負っている少女は、それで、と静かに目を細めた。
相対するニネアは恐縮した様子で姿勢を正しながらも、申し訳なさそうに頭を俯かせていた。
「こ、こちらの不手際で封印が解けてしまい、最初に依頼をした方が新しく組んだパーティーと急遽討伐していただきまして……。折角来ていただいたのに、申し訳ございません!」
勢いよく頭を下げるニネアは次いで飛んでくるだろう叱責を受ける覚悟でぎゅっと目を瞑った。
隣国とはいえ遠路遥々ウェントゥス王国の大都市の為に訪れたのに依頼が不手際で無くなったのだ。
ギルドの本意ではなかったとはいえ、予定よりも早く到着したのだから依頼の為に相当急いで来てくれたのだろうことはニネアにもわかる。
昨日の対応でギルド長のロドリーが席を外している事にすら、申し訳なさでいっぱいだった。
けれどニネアのつむじを見下ろしていた少女は。
真一文字に引き結んでいた口元をゆっくりと緩めた。
「そうなの! じゃあみんな無事なのね!」
ニネアが思わず前のめりに倒れる程、明るい声でそう言い放って、朗らかに笑った。
受付で聞いている他のギルド職員も、おお、と予想外の明るさに動揺していた。
ズレた眼鏡を直しながら下げていた頭を持ち上げたニネアに「あら、大丈夫?」と体勢を崩したことに驚いて心配する少女は、すぐにその表情を笑みへと変える。
「それで、討伐した人はどこにいるのかしら? 私からもお礼を言いたいわ!」
きょろきょろと視線をさ迷わせる少女の一切の含みのない「お礼」という言葉に、ニネアは少しだけ呆然としたもののすぐに気を引き締め直す。
「申し訳ありません。午前中に次の街に移動をされまして」
「あら、そうなの? でも、上級パーティーが必要な『魔』を倒すくらいだもの。依頼殺到してるわよね。中級1くらいの人でしょう?」
「あ、いえ。新しくパーティーを組み直されて、今回の討伐依頼の功績で下級2に昇格しています」
ニネアがそう言えば、そういえばそうだったわね、と少女は納得してまた笑う。
「じゃあ将来有望パーティーね。私も負けてられないわ」
「そんな……」
確かにカナカは元々「天才」とまで噂され、ソノラは選んでいる武器からしても優秀だろう。
ネスタは寡黙だがナイトらしく周囲を見て立ち回れるだろうし、《烈火の星》や《涼風の陽》のパーティーメンバー曰く巨大な『魔』を一撃で遠くに吹き飛ばしていたことからも実力がわかる。
目下、ニネアが心配なのは純粋で頑張り屋の新人・フワワだけである。
朗らかに笑っている目の前の少女は、カナカ同様にエレメンターに成りたての頃から名を馳せている有望株であり、実際周囲が期待した通り、若くして上級4のパーティーを率いるリーダーだ。
国の境なく、依頼があってもなくても『魔』が居れば稲妻のように駆け付ける。
今回の東部大都市ウェルテクスの依頼にも、即座に応じてくれたのだ。
「あ、ええと、来ていただいたのに申し訳ないのですが現在周辺で上級パーティーが必要な『魔』はいないんです」
「あら、じゃあ」
次の街に行こう、という言葉が来ると思っていたニネアは、呼んでしまったのに無駄足を踏ませた謝罪として急いで用意しておいたものを渡そうと持ってきた袋を取り、もう一度謝罪の言葉を口にする準備をした。
けれど、少女は握り拳を作って笑う。
「ちょっと周辺をお掃除しておくわね!」
「へぇっ!?」
ニネアのみならず他の職員からも思わず上がった素っ頓狂な声たちに構わず、応対したニネアへと軽く手を振って「行ってくるわ」と立ち去っていこうとする少女に、慌てて口を開く。
「ちょ、ちょっとお待ちください! そんな、無駄足を踏ませたうえ、上級の方に弱い『魔』の討伐なんてっ!」
「あら、だめなの?」
「駄目、といいますか……」
何と返せば分からず言葉に詰まるニネアに、少女は紅色の瞳を綺麗に微笑ませる。
「上級とか弱いとか関係ないわ。私たちは『魔』を討伐するためにエレメンターになったんだもの」
見惚れる程熱く少女の紅色の瞳が輝く。
「そこに『魔』がいるなら討伐するわ。そうしたら次の街に行くから、あまり気にしないで頂戴ね。ギルド長にもそう伝えておいて!」
「―――― せ、せめてこちらを!」
慌てて立ち去ろうと動き出す背中に声をかけてニネアは持っていた袋を差し出す。
きょとりとその袋を見て、少女はニネアを見つめる。
「微量ですが食料と上級品の回復薬です。ご足労頂いたお礼には拙いのですが、どうか受け取ってください」
「ありがとう。すっごく嬉しいわ」
ニネアの持つ袋に触れて少女はふんわりと微笑む。
安心させるようにニネアを見つめた少女は、するりと袋を受け取って、軽やかに手を振るとそのまま踵を返してギルドを去っていく。
その背中にニネア達ギルド職員は揃って深々と頭を下げて見送ったのだった。
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