二十四歩目 おやすみ
一連の会話が落ち着いて、カナカが零れそうになった欠伸をかみ殺す。
「……とりあえず、ステイタス確認もしたし。明日からの事だけど」
カナカの言葉に三人の視線が向いて、それに少しだけ居心地悪そうに眉を顰めながら続ける。
「できれば次の街に移動したい」
「理由を伺っても?」
カナカが言えば、いいよ、と言いそうなフワワでもなく、ほぼ無一文で決定権をカナカに委ねているネスタでもなく、ソノラがそう問いかける。
ソノラとしても面倒な前のパーティーメンバーと顔を突き合わせたくないのでカナカの提案には頷きたいところだが、理由も聞かずに頷くのは良くないと思って尋ねた。
そんなソノラへと金色の目が向けられる。
「明日の昼以降、要請された上級パーティーが来るだろ。理由はどうあれ結果的には依頼の横取りだし、面倒に巻き込まれたくないんだよ。こっちだって折角来たのに一回は無駄足にされて気分悪いし」
「なるほど。私たちがいなければギルドが相手しなくてはいけませんね。……私としても《煌めく月》の居る街からは離れたいとは思っていますし、理由にも納得できます。移動には賛成です」
そう言ったソノラに、カナカが目を向ける。
「結局お前はどうするんだよ。一応お試しなんだろ」
「あぁ」
カナカの言葉に、そういえばそうだったとソノラは思い出す。
細かい状況説明はギルドがしているだろうが、事情はどうであれ前のパーティー《煌めく月》は何かしらの処罰を受けるだろう。
喧嘩別れと言っていいのかわからないが、急に抜けたソノラとしては八つ当たりやまかり間違っても連帯責任なんてものを背負わされても困る。
ソノラが急に辞めたことによる作戦変更の指示は引き止めなかったリーダーの責任だし、直接的ではないにしろパーティー《夕焼け空》の一員として後始末はした
「問題なければ正式に、このパーティーに入れてもらえませんか?」
「わ、私はソノラちゃんが居ると嬉しい!」
「ありがとうございます」
きらきらと輝いた表情でそう言うフワワにソノラは本当に嬉しそうに笑った。
ソノラとしては面倒な人間関係がなさそうなパーティーというのもあるが、なによりもフワワの存在が居る事が一番の魅力だった。
ことあるごとに嫉妬してくるセーレと、その味方にばかりつくディックと、毎回のように謝って終わらせるソノラの味方にはならなかったパーティーメンバー。
ソノラの味方はソノラだけしかいなかった。
「あの馬鹿な人達に傷つけられへこまされてしまった、すごく頑張り屋で物知りで優秀な私の自尊心をフワワに癒されながら元気になっていきたいと思っています」
「元気だろ」
「へこんでる……のか?」
十分すぎるほど自尊心に満ちていそうな発言をするソノラの澄んだ目を見返しながらカナカは呆れた目を向け、ネスタは困惑した。
「私もいっぱい頑張るよ! それにソノラちゃんはすごく頼りになるし、物知りだし、優しくて美人さんで、一緒に居るとすっごく楽しいからパーティーに居てくれると嬉しいよ!」
「そうでしょう。そうなんですよ。よくわかってくれて嬉しいです。フワワ」
よしよし、と自然な流れでフワワの頭を撫でるソノラは上機嫌に笑っている。
「ネスタくんも、あんなに大きな『魔』をバーンって飛ばしてすごかった! 私もいつかネスタくんやソノラちゃんみたいに、カナカくんの手助けできるようにたくさん頑張るから、このみんなで一緒がいい。だ、だめかな……?」
両手を組んで縋るような眼差しでカナカを見つめるフワワに、う、と小さく声を零したカナカは気まずそうに目を逸らす。
その間も「お願い」と言っているも同然のフワワに、口を開いたり閉じたりを少し繰り返して、意を決したように顔を背ける。
「別に駄目とか言ってない! 確認しただけだ!」
「カナカくんがいいよって! 良かったね、ソノラちゃん!」
「なるほど。ありがとうございます。それから、これからよろしくお願いしますね。カナカ、フワワ、ネスタ」
「うん! よろしくね、ソノラちゃん!」
「あぁ。改めてよろしく。ソノラ」
「………おう」
本当に嬉しそうなフワワに、ソノラはまたその頭を撫でる。
癖になっているな、と思いながらネスタも笑みを浮かべ、カナカはふてくされたような表情で短く応じる。
「あ、明日移動する前に、ニネアさんにはお世話になったし挨拶できたらしたいなって思うんだけど」
「それなら午前中に行けば大丈夫なはずです。私も、ギルド長には直接言えなくともお礼を言いたいと思ってましたから」
ギルドに入った途端に始まったいつものセーレの『言いがかり』を一蹴して黙らせたのが急ぎの状況だったからだとしても、ソノラは勝手に感謝してしまっていた。
そんなソノラに「じゃあ、一緒に行こう」とフワワは嬉しそうに笑う。
「移動する先によるけど食料とか必要なものを買わないといけないな」
「じゃあ俺とネスタで買ってる間に挨拶に行けばいい」
「カナカくんとネスタくんは挨拶しなくていいの?」
「しない。そもそも感謝されても俺が礼を言うことないし」
「俺もあまり関わってないから。……あぁ、でも、《燃え盛る陽》の話をした時、自分のことのように怒ってくれてありがとう、とは伝えてほしい」
「えぇ。伝えておきます」
仕事の一環だったとしても、感情をむき出しにして憤慨していたニネアを思い出して、ネスタは少しだけ恥ずかしそうに笑った。
カナカは一度背けた顔を少しだけ戻して、言い難そうに視線だけは誰にも向けずに口を開く。
「……回復薬は足りてるって、伝えておいたらうるさくないだろ」
「うん! いっぱい心配してくれてたもんね。私、絶対に伝えるよ!」
「どうせまた言うからそう返しておけってだけだから!」
「はぁい!」
嬉しそうな笑顔でいいお返事をするフワワに赤くなった顔を見られないように体ごと向きを変えたカナカが声を張り上げる。
「とりあえず方針は決まっただろ! もう眠いし休むから!」
「そうですね。特にカナカは中級2相当の『魔』をほぼソロで討伐していますし、明日に備えて早く休みましょう」
「あ、椅子は俺が戻しておくからいい」
「……じゃあ、お願いします。ありがとうございます」
「ありがとう、ネスタくん」
言って、下から持ってきた椅子を片付けて出ようとしたソノラ達にかけたネスタの言葉に甘えて二人はそのまま部屋を出て行く。
「――― おやすみなさい。カナカくん、ネスタくん」
扉が閉まる前に顔をのぞかせたフワワがそう言って、そっぽを向いたままのカナカにも向けて手をひらひらと振って去っていく。
フワワに手を軽く振り返してから椅子を二つ持ち上げたネスタに、カナカが動こうとするのに気が付いて、大丈夫だ、と言葉で止める。
「これくらい軽いし……疲れているのは本当だろう? 先にシャワーでも浴びて休んでくれ」
「……急に年上みたいなこというなよ」
「俺は一応年上のはず、だ……」
言いながらカナカの方がしっかりしているな、とでも思ったのか自信なさそうに発言するネスタの耳に小さな笑い声が聞こえる。
それに釣られるようにネスタも小さく笑った。




