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二十三歩目 ステイタス



 カナカは手で遊んでいた短剣を腰のホルダーに仕舞う。


 「さっき見せた俺のギフト魔法……、俺自身に纏うように炎が出るんだけど、攻撃力が異常なまでに高くて、使った後は高級品の回復薬が要るような火傷になる面倒なやつでさ」

 鞄の底に仕舞っていた、焼け落ちたグローブの予備を着けた手を閉じて開くカナカはそっと、どこかうんざりしたように息を吐く。

 「あぁ、凄かったな」


 カナカに『魔』の攻撃が振り下ろされるよりも早く、瞬きの間に炎が『魔』を焼き尽くしていった光景を思い出してネスタは納得する。

 その後に見た火傷と呼ぶには焼け爛れ過ぎていた左手の状態は、カナカの言う通り高級品質の回復薬一個がなければ、たくさんの回復薬を使わなければ治らないほどに酷い状態だった。


 「カナカにとってはフワワのギフト魔法は、バランサーってジョブだろうと関係ないくらい必要不可欠ってことですね」


 ソノラの言葉にカナカははっきりと頷く。

 「装備は高いのだろうとすぐ溶ける。回復薬まで買ってたらもっと金がかかるだろ」


 耐火性能を施された白いグローブや支給服は、それでもそれを容易く上回ってしまうギフト魔法の熱量に焼け落ちてしまう。

 支給服はその名の通りあまり値段を張らないとしても、手を保護するグローブや武器はどれほど耐火性能を施してもらっても意味がないほどにすぐに焼けてなくなってしまうものだから、カナカはそれに関してだけは最高品質から少し落としたものにしている。

 本当ならば最高品質で揃えたいところだが、攻撃をする以上一番魔法を集中させるグローブはどうしてもすぐに交換することになり、替えの利かない最高品質にするのは金銭的に不可能だった。

 それでも普通の耐火性ではさらに値の張る回復薬の数を増やしてしまうため、品質を落とし過ぎるわけにもいかない。


 「武器は無理だけど怪我なら私が治せるから」

 「攻撃はからきしだけど俺が倒せるし」

 「のんびりになるかもだけどカナカくんと組んで、ゆっくり成長しようってなったんだ!」


 さらりと現実的な評価をいれられたにも関わらずフワワは前向きにそう言って明るく笑う。

 思わず涙が零れそうなほどの健気さにソノラはまたフワワの頭を撫でた。


 「そう考えるとカナカはよくソロでやってこれましたね」

 「むしろソロじゃねぇと無理だろ。ほぼ戦闘の度に高級品の回復薬が要るような、馬鹿みたいに金のかかるやつ入れたがらないし、高級品レベルの治癒が出来るヒーラーなんて一握りだろ」

 「言われて見るととんだ金食い虫ですねぇ」

 感心したように改めて言うソノラに思わずカナカが睨むように見つめてしまう。


 その視線に「失礼」と不躾な発言を軽く謝罪したソノラは、気を取り直すようにもう一度フワワのステイタスを見る。

 「まぁ、ギフトスキルを見て、パーティーメンバーの補佐がバランサーの立ち回りって感じしますよね」


 そうして見つめる先にあるギフトスキルの部分には『縁の下の力持ち(W)』とあった。

 補足されるように『攻撃と防御のステイタス値上昇』と記載されている。

 「ギフトスキルの横の文字を見る限りパーティーメンバー全員に効果があるやつだな」

 「私の『必中』とネスタの『俊足』と同じですね。カナカのは自分自身だけに効果があるやつでしたっけ?」

 ソノラの問いかけに返事をするより見せる方が早いと思ったらしいカナカが【神の雫】で自身のステイタスを見せる。

 先ほど説明された通りのギフト魔法の下にあるギフトスキルは『誇り高き闘志(M)』とあり、補足の文言は『攻撃力大幅上昇、防御力上昇、戦闘意欲によって効果の変動あり』と記載されていた。


 「すごく……アタッカーらしいですね」

 「カナカの元のステイタスで攻撃力がだいぶ高いのにさらにこれで上がるのか」

 「カナカくんのはどれも強そうだね!」

 「まぁ。あとは速度があがってるくらい」

 「速度?」

 カナカの言葉に自分とカナカのステイタスの表示を見てから、フワワは首を傾げる。


 「どこにあるの?」

 「あれ、教えてないんですか?」


 フワワの言葉にソノラがカナカに問えば、あー、と言い難そうに声を零したカナカが眉を顰める。

 「そっちまで低かったら、俺にフォローできそうにないし」

 カナカの言い分に、あぁ……、と納得の声を零したソノラは一つ咳払いした。

 そうして浮かんでいるステイタスの下の方を示す。


 「実は見ようと思わないと出てこないステイタスがあるんです。こっちは基本的にはあんまり戦闘に直接必要ないかもしれない、って言われているんですけどその中に一つ、まぁ、面白いステイタス値があって。運試しみたいな感じでパーティー内で教え合う事があるんですよ」

 「面白いステイタス? なあに、それ」

 「とりあえず見てみましょう。ステイタスの下の方に意識を向けてみてください」

 「わかった」

 ソノラの言葉に目を輝かせてステイタスの下の方を見つめてる。

 じぃっと真っ直ぐに見つめているフワワの視界の中で、新たな表示が下方に付け加えられた。


 「わ! 本当だ!」

 「でしょう? それでこの……え?」

 「? どうしたんだ?」


 喜ぶフワワにいつかの自分自身にもあった驚きを思い出したソノラは微笑ましそうに表情を緩めて、横から覗き込んだ新しく付け加えられたステイタスの一部を見て動きを止めた。

 一度、二度、瞬きをして見直すように頭を振って。

 それでも変わらない表示に驚いているソノラに、フワワはまたステイタスが散々なのだろうかと不安になる。

 一瞬だけ、ステイタスが付け加えられた瞬間だけ、フワワはわずかに喜んだのだが間違いだったのだろうか、と。


 「こ、これだけ高いけど、もしかしてまた低いの?」


 おそるおそると指し示して尋ねるフワワに、驚いて固まったままのソノラはそれでもゆっくりと首を左右に振って否定だけした。

 その様子を不思議に思ったネスタとカナカも横から覗き込む。


 「幸運20…!?」

 「二桁まであがんの、これ」

 「聞いたことありません」

 「え? え? なに、どういう事?」


 衝撃に固まるネスタと、驚きながらも冷静に尋ねるカナカにソノラは首を振って応える。

 その中で三人の反応がわからずフワワは視線を忙しなく三人へと順に向けるのに、ソノラが少しだけ困ったようにしながらも口を開いた。


 「ええとね、面白いステイタスって言ったのがこの幸運のところなんですけど。ここって平均的な数値が5って言われているくらいまったく上がらないステイタス値なんです。二桁超えてるのは、たぶん初めてなんじゃないかしら……」

 「そ、そうなの?」

 ソノラの説明に確認するようにネスタとカナカを見るフワワに、二人も頷いた。


 「俺は気が付いたら5になっていた」

 「私は4になってからまったく上がらないですねぇ」

 「………だ」

 「うん? ネスタくんはなんて?」

 言い難そうに零したネスタの声が拾えずに尋ね返したフワワに、ネスタは俯いて額に手を当てることで三人の視線から逃れるようにして、震える声を発した。


 「俺は……1だ」

 「低すぎ」

 「運なさすぎでしょ」


 間髪入れないカナカとソノラの発言に、うぐ、と苦しそうなネスタのうめき声が上がる。

 「そそそ、そんなことないよ! これからあがるんだよ、ネスタくん!」

 大丈夫だよ、と慌ててフォローを入れるフワワにネスタは消えそうなほど小さな声で「ありがとう」と返すので精一杯だった。


 「ていうかこんだけ高いとバランサーが一番上がりやすいのってコレだろ」

 「そうですね。全体の補助をするから、運がないとダメってことでしょうか……?」

 バランサーのジョブを与えられる者自体が多くないうえに、ステイタス値の低さからエレメンターを目指すことを諦めてギルド職員やエレメンター関係以外の仕事を選んでいたため、見ようとしなければ出てこない数値の方は確認されてこなかったのだろう。

 ギルド職員になって必要とされるのはチェッカーやプロテクターなどのジョブであり、それ以外のジョブで、戦闘に関わらないギルド職員のステイタスを確認したがる者などそういないだろう。

 いたとしてもメインの方のステイタスだけだ。


 「普通は幸運値を見て誰が一番幸運だったーっていうおあそび程度のやりとりをするだけなんですけど、こうなると残酷すぎる差が出来てしまいましたね」

 ちらりと心配そうにネスタを見るソノラの視線がいたたまれず、ネスタは顔を俯かせる。

 「1って全然上がったことないってことだよな」

 「最初からまったく……」

 「えっと、大丈夫だよ! 私が、なんか、とにかく頑張るよ! ネスタくん!」

 慰めるようにフワワが力強く声をかければ、落ち込んでいたネスタは薄く微笑んだ。


 「ありがとう、フワワ。……とりあえず俺は貴重品の一切を持ち歩かない方向でいいだろうか」

 「安心しろ。頼まれても持たせねぇよ」

 「もしくはフワワに『貴重品だから頼む』って預けてください」

 「私の鞄いっぱい入るから大丈夫だよ。任せてね」


 すでに無一文で放り出されてしまった程度の運の持ち主であるネスタの提案にカナカは力強く肯定し、ソノラもそれとなく持たないことを推奨し、フワワは一切の悪意なく受け入れた。





御覧くださりありがとうございます。

次話の更新は12/20(土)になります。

引き続いて御覧いただけると嬉しいです。

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