二十二歩目 バランサー
「これは見事に……弱いですねぇ」
「よくエレメンターに、なれたな……」
「や、やっぱり弱いよねぇ~!」
ソノラとネスタの感心したような、驚いたような声にフワワも恥ずかしそうにしながらも、強く同意した。
三人が揃って覗き込んでいるのは【神の雫】で中空に映し出されたフワワのステイタスだった。
通常、挨拶とともに見せるのは名前やエレメント、ジョブくらいだが現在はステイタスの全てをそこに映し出している。
ちなみにすでに見た事のあるカナカは自身のエレメントに溶けて消えた短剣の代わりに買ったばかりの武器をくるくると、多めに所持している予備のグローブごと手に馴染ませるように弄んでいる。
花型の『魔』を討伐し終えてギルドに戻ったフワワ達パーティー《夕焼け空》 ――― というよりも主にカナカが、謝礼の言葉も称賛の声もぶった切って魔石の換金と依頼分の報酬の催促、そして後始末をすべてギルドに押し付けて強制的に終わらせた。
二日程度とは言えカナカの態度に慣れていたニネアが顔を引きつらせながらも報酬金の準備をすでに済ませており、ロドリーはカナカのぞんざいな物言いに対してもにこにこと笑顔で応じていたのが幸いだった。
そうして討伐完遂の宴会をしようと誘うドミを一蹴し、カナカは店仕舞いをしようとしていた武器屋へと入って予備分も含めた自分の武器を購入していた。
その間、フワワはおろおろと戸惑いながらもカナカの後をついていた。
ソノラはカナカ同様まだギルドに居残っている前のパーティー《煌めく月》に関わりたくない気持ちでいっぱいだったため早々に切り上げたカナカにむしろ好都合と大人しく従い、ネスタは何かを考えているかもしれないがまるで何も考えていないような顔で一番後ろに続いていた。
武器を買って戻った宿で待っていた出来る主人が食事の用意をしてくれており、ソノラはフワワの言った通りに美味しい食事に舌鼓を打って表情を緩める。
ネスタもその美味しさに笑みを零し、カナカも前日までよりも豪勢な点を除いて文句のない美味しい食事を平らげた。
疲れはしているがまだ少し騒がしい街の気配に休む気にはなれず、中断していた話し合いをするために食事を終えたフワワ達はカナカとネスタの部屋に集まったのだった。
そうして最初に口火を切ったのは、予想外にもフワワだった。
「私、ウィザードじゃないの」
意を決したように言ったフワワに対してソノラが最初に思ったのは「それはそうだろう」だった。
ネスタも口にしないものの同じ気持ちだっただろう。
けれどフワワが【神の雫】でステイタスを中空に映し出したのを見た事で「そうだろう」と思っていた気持ちが吹っ飛んでしまった。
ギフト魔法から勝手にフワワをヒーラーだと思い込んでしまったソノラは、ステイタスに表示されているジョブ名を見て驚愕の声を上げなかった自分を褒めたいくらいだった。
「私ね、バランサーなんだ」
見ているものを改めて口に出されてしまい、ソノラは呆然としてしまう。
ネスタもちらりとフワワを見て、それからもう一度まじまじとジョブ名の部分を見てしまう。
そこにはやはり、はっきりと記載されているバランサーというジョブがあった。
エレメンターのジョブの中で最も少ないと言われているのは怪我を癒せるヒーラーだと言われているが本来はそれよりもさらに少ない、本当に存在しているのか怪しいとまで言われるジョブがある。
それがバランサーだった。
ソノラにとっては噂話とおとぎ話の類で、ネスタは眉唾だと先輩から聞いたことのある、そんな認識のジョブを実際に与えられているのがフワワだった。
「ステイタスの上がりはバランス良いけど遅いし、パッとしないでしょう? バランサーってどこのジョブのフォローも出来るけど、じゃあ別にバランサーをあえていれなくてもいいなって……、それで三つもパーティーに断られちゃった」
えへへ、と恥ずかしそうに笑うフワワを、ソノラは眉尻を下げて見てしまう。
断ったパーティーの言い分も分からないものではない。
パーティーに入れる以上、成長を見込みたいのだから、不足を補えるかもしれないという者よりも明確に分かっている不足を補いたいだろう。
フワワのステイタスをもう一度見て、その低い数値につとめて重くなり過ぎないように頬へと手を当てたソノラは驚きはしたものの、どこか感心したように先ほどの言葉を選んで発したのだった。
それに乗っかったネスタの言葉に、改めて自身のステイタスから読み取れる弱さにフワワは恥ずかしさを通り越して納得する他なかった。
「けど、ギフト魔法はとっても良いのに断られたんですか?」
「それが、ジョブの珍しさにびっくりされちゃって……たぶん誰も気づいてなかったと思う。ニネアさんもジョブとステイタスを見て、それでも入れてくれそうな優しいパーティーを薦めてくれてたから、そっちに目がいっちゃったのかな」
そうして紹介してもらう側のフワワは新人だったこと、育った故郷がエレメンターギルドも無いような辺境だったこともあり、自分のギフト魔法がヒーラーと同等の働きをこなせるほどの上等なものだと知らず、結果ニネア厳選の人の良いパーティーに三連続でやんわりとお断りを入れられるという結果となったのだ。
「絶対に見つけますから!」と約束し、いろんなパーティーに掛け合うためにしばらく待っていてくれと言ったニネアの優しさに頷いたフワワは、想像していた以上に情けない自分に落ち込み、憧れていたエレメンターになれないかもしれないという悲しさを抱えたまま人気のない広場のベンチで泣いた。
そんなフワワの前を通りがかったのが、人ごみが嫌で人気のない場所を選んで通っていたカナカだった。
「カナカくんにステイタスを見せたら、誰もギフト魔法に気が付かなかったのかってびっくりされちゃったんだ」
その時点では同年代の男の子がなぜ驚いているのかフワワには分からず、その言葉にただ頷き返した。
フワワの言葉にネスタもソノラも、どちらかといえばカナカの気持ちがよく分かるというものだ。
バランサーというジョブがその名の通りバランスよくどのステイタスも横並びにゆっくりと成長する、万能型というには弱いジョブだとしても神が生まれながらに与えたギフト魔法は、エレメンターにとって最も重要な武器であり才能であり、切り札だ。
なんの修練も、イメージも持たずとも神が与えた魔法の名を口にするだけで、勝手に定められた結果を起こすギフト魔法を自身の切り札としてパーティーメンバーにすら伏せるような者まで居るほどに重要だった。
「カナカくんにギフト魔法の事言えば、むしろ向こうから誘ってくるって言われたんだけど………」
そう言って一度俯いたフワワは、その時の事を思い出して少しだけ悲しそうな顔をした。
けれど、その気持ちを吹き飛ばすように勢いよく顔をあげて、両手の拳を力強く握りしめる。
「断られた時の事がすっっっごく悲しくて! だから話を聞いてくれたカナカくんとパーティー組ませてってお願いして!」
「組んだ」
悲しくてのところを非情に力強く言ったフワワは、その言葉を口にして本当に吹っ切れたのか明るい笑顔を浮かべる。
流れるように言葉を加えたカナカは、その表情を見て小さく笑う。
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