表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/28

十九歩目 花




 まだ夜闇が覆っていないにも関わらず、見える世界が暗く感じるほどに大きく広がっている闇色が蠢いている。


 人間を軽く蹴散らせてしまえそうなサイズの大輪の花を模した巨大な『魔』が腕の代わりたくさんの葉のような部分を上から横からと花を守るために蔓のように振り回し、根のような細い糸状の部分が足のように花を動かしている。


 「綺麗な花には毒があるだの言うが、こんな目に毒なのは初めてだよ! こんちくしょう!」


 振り回される葉を手にした槍で対応している中級3のパーティー《烈火の星》のリーダーを担っているドミは悪態を吐く。

 穂先に爆ぜる炎は葉を押し返せても傷つける事は出来ない。

 これは単純にドミ自身の力が『魔』の強さに及ばないせいだ。


 「ドミさんにしてはとても言い回しが綺麗だと思いますよ」


 細い剣で斬っても傷がつかないのならと代わりに突き刺す形に変えて押し返す事を選びながらドミへと称賛めいた嫌味ったらしい言葉を贈ったのは、先日中級3に上がったばかりのパーティー《涼風の陽》のリーダー、ヒューイだった。


 「ははぁ、まーったく傷がつきませんね。まだ来ないんでしょうか?」

 上から叩き潰そうとする葉は後方のウィザードの攻撃が弾き、盾を持つタンクとナイトはパーティーメンバーと組んで振り回される葉を凌いでいる。


 ――― そう、凌いでいるだけだ。


 中級3になりたてのヒューイのパーティーだけでなく、ドミのところも目の前の『魔』にかすり傷は負わせても決定打など一生つける事ができそうにない。

 ステイタスの攻撃力は中級3のパーティーとして問題がないのだから、単純にチェッカーが判断した通り、目の前の花型の『魔』は中級2以上の攻撃が通る最低ラインという事だ。

 ドミは冷や汗をかきながらも胡散臭そうな笑顔を浮かべているヒューイに、思い切り苦虫を噛み潰した。


 「『魔』もうぜぇ! お前もうぜぇ! なぁんでこんな面倒くさい目に……! ミリカちゃん!」

 二枚の葉を勢いよく弾き返して、一番後方、ウィザードに庇われているギルド職員の名を叫ぶ。

 外向きに跳ねた薄黄色の髪に華やかなオレンジ色の目の少女は、ドミに呼ばれてぱっちりと開いた目をウィザード達の隙間から覗かせる。


 「そろそろつくはずだよー!」


 音に搔き消されないように張り上げる少女、ミリカの手に握られているのはギルドと連絡を取るための連絡装置だ。

 「さっきも聞いたんだがっ!!」

 くそっ、と悪態を吐きながら槍で葉を弾き返すドミの視界がひっくり返る。

 「ドミさん!!」


 逆さに見下ろすヒューイの焦った姿に宙づりだと気が付いてバッと引っ張りあげられている足を見れば細い根が絡んでいた。

 見止めた瞬間には掴まれた足を振り回されて後方に放り投げられる。


 「ざっけんなっ! 足癖ワリィぞ、クソっ花ぁぁぁっ!!」

 「元気じゃないですか」


 宙に投げ飛ばされながら暴言を吐いたドミに、大丈夫だと判断したヒューイはけれど後退を余儀なくされる。

 急遽組まされた二つのパーティーの主軸は悪態を吐くアタッカーのドミだ。


 同じアタッカーであってもヒューイではドミが抑えていた分を背負える事は出来ず、無理に残ったとしても勝機はない。

 後方からウィザードの攻撃が雨のように降り注ぎ、ヒューイ達が下がる隙を作ろうとしていた。

 けれど今が狙い目だと分かるのかヒューイに向かってくる葉が三枚。

 背を向けて逃げれば重症を負うと判断して足を止めたヒューイの横を熱風が走る。


 「――― え」


 零れた声が落ち切る間に、瞬きを終える前に。


 炎の筋が全ての葉を搔い潜り、花弁を散らす。


 絶叫と怒号の合間のような唸りを上げて攻撃が鈍った『魔』の前に、瞬きを終えたヒューイの視界にいつの間にか火を纏う短剣を握った小柄な少年 ――― カナカが映っていた。

 斬りつけてすぐさま背後のパーティーを振り返ったカナカは、上に跳ぶ。


 「ぶっ飛ばせ、ネスタ!」

 「あぁ、わかった」


 カナカの短い指示に応じる声を掻き消すような雷の音が鳴り響いた。

 直線的な一瞬の移動に絞ればアタッカーのカナカにも勝れる、ギフトスキル『俊足』でもって一直線に駆け抜けたネスタは、本来ナイトが選ぶには大きすぎる盾を持った腕を思い切り突き出した。


 ドンッ、と。


 落雷のような鈍い音を残して『魔』がカナカの要望通りにぶっ飛ばされた。

 殴り終えて掲げられていた盾と腕を下ろして横に着地したカナカにネスタはどこか満足そうな表情で見下ろす。


 「これでいいだろうか」

 「あぁ……」

 ちらりと後方を振り返って、ネスタによって引き離された『魔』との距離を見たカナカはネスタに視線を戻す。


 「十分」


 満足気に表情をやわらげたカナカにネスタは安心したような笑顔を浮かべる。

 二人の元に慌てて駆け寄って来るフワワと、ヒューイと何かを話し終えたソノラがその後に少しだけ遅れて集まった。

 「ソノラとフワワはこの位置から横の邪魔なやつ狙え」

 アレ、とネスタにぶっ飛ばされて地面に落ちていた葉が再び蠢いているのをカナカは指さした。


 「わかりました。フワワ、さっき言った通り、私がいるから絶対にあたります。ただ撃てばいいんですよ」

 「う、うん! 頑張るね、カナカくん」


 ソノラの言葉に緊張気味に頷いたフワワは、カナカを見てそう言って杖を握り締める。

 「当たんなくても別にいーんだよ」

 素っ気なく返すカナカが唸りながらこちらににじり寄って来る『魔』を視界に捉えながら、小さく笑った。


 「俺が倒すから」


 言葉を残してカナカが飛び出していく。

 元より足の速いカナカに、ネスタのパーティーメンバーに対しても効果を発揮する『俊足』のギフトスキルが加わっているため、カナカ自身も一瞬眩むほどの速度が出る。

 短剣を構えるカナカをどこで見ているのか分からない花型の『魔』が葉を振るう。

 それを邪魔するために杖の先にためた風を身に着けたばかりの刃の感覚でフワワは放つ。


 ソノラは手に持っていた分厚い本を開いた。その中にはめくるページなど存在せず青色の魔石をいくつも合わせてページを模しただけの中身が広がるだけだ。

 輝いた本の中身に呼応するように浮かび上がった水の塊が空中を激流の如く、幾筋にも分かれて流れていく。

 先に放たれたフワワの風の刃が手前に迫る葉を一呼吸だけ留め、次いで流れて来た激流がカナカが走る道を開くように左右に弾いていく。

 取りこぼされて、カナカを通り過ぎた葉はネスタが盾で受け止め、剣で斬り返している。


 カナカを追って行く激流が上から、横から振り回される葉に傷をつける事は出来ずとも勢いよくぶつかって逸らしていく。

 フワワもソノラの言葉を信じて出来る限り風を放っていく。

 多少狙いが甘くてもまるで引き寄せられるように風が葉にぶつかるのは、ソノラのギフトスキルに因るものだった。


 ネスタのギフトスキルと同じでパーティーメンバーに対しても効果を発する『必中』はその意味通り必ず攻撃が当たるようになる。

 アタッカーやナイトなどの前衛が自分で狙うのは当然であり、ウィザードもある程度の距離の個人差はあれど基本的には自分の感覚で命中させるから今まで特に求められてこなかったギフトスキルだった。

 けれどまだまだ狙いもうまく定められない新人のフワワが実力よりはるか上の、倒す役割を負っていない状況で求められている「攻撃を当てるだけ」という現状ならば、ソノラのギフトスキルはこの上なく輝いていた。


 いつもと違って後ろからの援護のお陰で武器に集めたエレメントを散らさずに済む。

 威力を上げたければ質の良い武器にエレメントを集中させればいい。

 分かっていても難しいばかりの場面になるのを、主にソノラの技量がそれを可能とさせている。


 だからカナカは「よく辞められたな」とソノラの話を聞いた時に言ったのだ。


 威力を突き詰めて上げられる杖以外を武器として扱うウィザードは、それだけで本来重宝されてしかるべきだ。

 接近すればするほど危険度が増す討伐に置いて、ギフトスキルの恩恵が多分にあっても超遠距離からアタッカーほどの一撃を放てるのはパーティーを多いに助けるのに。


 おそらく辞めさせたリーダーは落ち着いて謝罪の場でも設ければ元通りになるとでも思っていたのだろう。

 そう勘違いさせるくらいにソノラはソノラなりに我慢して、する必要のない謝罪をしてきたのだ。




御覧くださりありがとうございます。

次話の更新は12/11(木)を予定しております。

気が向いたら、お付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ