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十六歩目 準備



 異論はない。

 けれどそれよりもカナカにとっては大事なことがある。


 「他パーティーと被らないのが優先だな」

 「大事だね!」

 「大事なんですか?」

 「大事だよ! ……カナカくんのやる気が変わっちゃうからね」

 「あぁ、なるほど……」


 胡乱気に聞いたソノラにはっきりと頷いたフワワが付け足すように困った笑顔で言えばネスタは納得する。

 選ぶ道も店も、なにもかも人ごみを避けたがっているカナカの様子にはネスタも気がついていた。むしろ隠す気もせずに人の多さに舌を打っているし、ギルド職員やネスタたちに対しても極力喋りかけないところを見るに、カナカはソロに慣れきっているのだろう。

 それでも初心者のド新人であるフワワとパーティーを組み、必要な説明はきちんと行っている様子を見る限り根は悪くないだろうとソノラは思う。

 カナカの目は純粋に面倒くさそうだった。


 「まぁ、花形さんのやる気は大事ですものね。私はそれでも構わないです」

 「カナカがアタッカーだし、俺もそれでいいよ」

 「わぁ! アタッカーってやっぱりパーティーでも重要なの?」


 エレメンターの花形、アタッカーというジョブに未だ憧れてやまないフワワが目を輝かせて二人に問えばソノラは肩を竦める。

 「結局『魔』の討伐数が多いのは攻撃力の高いアタッカーですから。どこのパーティーでも戦闘の要のやる気は大事にしていると思います」

 「それにカナカはソロでこなしていた実力もあるし、リーダーとかアタッカーとか関係なく意見は通していいと思う」

 「やっぱりカナカくんってすごいんだね!」

 二人の言葉に更に瞳を輝かせたフワワが両手を合わせてカナカに笑みを向ける。

 弾んだ声と、衒いもない称賛にカナカが小さな呻きを零して眉を顰めた。そうしてバッと勢いよく顔を誰もいない方へと逸らす。


 「………方針は決まったし他になんか決める事あんのかよ!」


 フワワがどうかしたのだろうかと声をかける前に怒ったように口を開いたカナカの声にソノラが口元を手で押さえて笑いが零れないように努め、ネスタは微笑ましそうに目元を緩めていた。

 フワワも疑問符を頭の上に浮かべていたがほぼ正面に居るフワワに顔を見られないように逸らされているカナカの耳が赤く色づいているのが見えて、機嫌が悪いわけではないとひとまず胸をなでおろした。

 「えぇ、決める事、ですね。ふふ。……あ、お金に関してですけど、私は自分で管理したいんですが構いませんか?」

 「勝手にしろ」

 視線だけを向けたカナカの目が笑っている事を咎めるように鋭いが、見えている肌が薄紅色に色づいている事にソノラは全く恐ろしさを感じなかったためにこりと笑い返した。

 「ありがとうございます」

 「それなら俺は等分されたものをそのまま借金返済に…………。あ、いや、もしよければ俺の分もカナカに任せていいだろうか」

 「お前本当に年上か?」

 「やめてくれ。悲しくなる……」

 怒りも同情もない、もはや純粋な疑問を投げかけたカナカに明るかった表情を青くしてネスタは項垂れる。


 「ネスタくん。私とお揃いだよ!」

 「なに? 年齢が?」

 「あら、私って最年長だったんですねぇ」

 落ち込まないで、と励ますように努めて明るく言い放つフワワにすかさずカナカが冗談交じりに言い放てばソノラがそれに乗っかる。


 「ふ、二人ともダメだよ! ネスタくんはいっぱい頑張ってるんだから!」

 「それはフォローか?」

 「フワワだから悪意がないだけで、普通の人が言っていたら喧嘩売ってるのかと思いますよ」

 「えぇ!? ご、ごめんね。ネスタくん。そんなつもりじゃ!」

 「大丈夫だ、フワワ……。これからいっぱい頑張るよ」


 力なく笑うネスタの言葉に「ごめんなさーい!」とフワワが謝罪をもう一度上げた。

 その様子にくすくすと笑ったソノラは、逡巡するように視線を泳がせた。

 けれどすぐに迷いを打ち消すようにカナカへと目を向ける。


 「あの、回復薬はどうするんですか?」


 賑わっていた場を鎮めるような、落ち着いた問いに視線を向けられたカナカが真っ直ぐに見返す。

 「装飾品を買う前に確認したとき買い物の必要はないって言ってましたよね? でもギルド職員の方が回復薬を買ったかと心配されていて、気になったんですが」

 「あ、それは……」


 フワワが何かを言おうとする前にポーチに手を入れたカナカが小瓶を二つ取り出した。

 どちらも同じ容器に透き通った輝く液体が入っていた。

 話題に上がっていた回復薬だ。


 きらきらと透き通った輝く液体は最高品質の回復薬の証明であり、小瓶にたっぷり入っているという事はネスタが買った武器二つよりも小瓶一つの方がよっぽど高いとソノラとネスタには一目で分かった。


 その二つをカナカは気負いもなく放り投げた。

 ソノラとネスタに向けて、放り投げたのだった。


 「きゃあっ!?」

 「うわああぁ!?」


 各々悲鳴を上げながらもきちんと小瓶を受け止めた二人は、一瞬で爆発的に高鳴った鼓動とひやりと浮かんだ冷や汗にしばらく硬直した。


 「し、信じられない……! もっと丁重に渡してくださいよ! 最高品質で最高額の回復薬だって知らないわけじゃないでしょう!?」

 「できれば二度と投げないでほしい……」


 椅子から立ち上がって大事そう両手で小瓶を持ちながら叫ぶソノラの目には若干涙が浮かんでいたし、ネスタは今にも死にそうなほどの青い顔で力なく抗議した。

 フワワはもはや苦笑しかできない。


 「とりあえずそれ一個で死ななくて済むだろ。はぐれた時とか使え」

 「使えるわけないでしょう……。回復薬なら中級品のものを持ってます。それあげますから、これは買った人が持っててください」

 「今渡したら割るぞ」

 「二人とも諦めて鞄に仕舞っておこう。カナカくんは絶対割るよ」

 「肝が冷えるってこういうことなんだな……」


 冗談ではないカナカの言葉にフワワが苦笑したままそういう。

 フワワがそういうならばカナカは絶対に割るのだろう。

 ネスタたちよりもカナカをわかっていそうなフワワの言葉と、言い方が雑な時はあるものの基本的に偽らないカナカに冗談ではないのだろうとネスタはさっさと諦めた。

 手に持っている方が怖いため少しふらついた足取りで買ったばかりのポーチの中に回復薬をしまった。

 ソノラはどっと疲れた様子で椅子に座り、両手で大事そうに小瓶を持った。

 ネスタが元通り座ったのを見て、カナカは口を開く。


 「あとはジョブとかギフトとか……ステイタスの確認だろ。俺とフワワはお互いのは知ってるけど、お前たちはどうすんの?」

 「あぁ、そうですね。私は全開示でも構いませんけど、先に謝っておきますがあまり役立たないギフトスキルです」

 「俺は……もしかしたら役に立つときはあるかもしれないな。俺も全開示で構わない」


 あっさりと頷いた二人から視線を動かしたカナカに見られたフワワは、一瞬ぎくりと肩を揺らした。

 それから居心地悪そうな表情で少しだけ俯いた。

 その様子にネスタとソノラは顔を見合わせ、すぐにソノラがフワワへと笑いかける。


 「フワワ。別に言いたくないならいいのよ。パーティーメンバーだからってステイタス全開示しなきゃいけないきまりないんですから」

 「あ……えっと、その………」

 ソノラの言葉に言い難そうに口を開いたフワワは、けれどどう言おうか悩んだ様子で一度口を閉じてしまったが、きゅっと一度目を瞑ってから意を決したように顔を上げる。


 「わ、私、すごく弱いの! エレメンターになれる基準になるのも一年遅かったし、ニネアさんが紹介してくれた三つのパーティーから断られちゃうくらいすっごく弱くて……。ハズレなんだ」

 フワワは落ち込んだ様子を誤魔化そうと最後にへらりと笑った。


 「本当はちゃんと言わなきゃって思ってたんだけど」

 「フワワ……」

 努めて明るく言おうとしているフワワにソノラが声をかけようと口を開いた。


 けれどそれを止めるようにカナカが手で制する。


 「カナカくん……?」

 黙って耳を澄ませるように窓の外を睨んでいるカナカを不思議そうにフワワが見つめる中、立ち上がったカナカが窓際に寄る。

 窓の外を窺うカナカに続いて、ネスタも何かに気が付いたように立ち上がって武器を括っていた鎖を外す。

 その様子にソノラも立ち上がってフワワの近くに寄り添うように立った。

 心配そうに見上げたフワワににこりとだけ笑って安心させるように軽く肩を叩く。


 「外が騒がしい。何かあったな」


 言うが早いか外していたマントを手に取ってつけ始めたカナカに続き、準備を整えていたネスタもうなずく。

 「様子を見に行こう。二人は準備をして、下で待っていてくれ」

 「わかりました」

 盾を手に取ったネスタがそう言って先に動き始めたカナカに続いて部屋を出て行くのを見送りながら頷いたソノラがフワワに手を差し出す。


 「私たちも部屋に戻って装備を取りましょう」

 「え、でも何かあったなら今すぐ行った方がいいんじゃ……」

 「ダメよ。装備が整っていないのに様子見だけで行って無事でいられる保証なんてないんですから。たとえどんなに些細なことでも万全の状態で動くべきです」

 「う、うん。わかった」

 きっぱりと言い切ったソノラの強さに押されるように頷いたフワワは立ち上がり、ともに部屋を出て隣の部屋に戻る。


 「こういう時は慌てて忘れ物しやすいから、確認は怠らないように。最初から気にせずにすると習慣付いちゃうから、焦らず丁寧に、ですよ」

 「はい」


 まるで先生のような口調のソノラに思わず敬語で頷き返してしまったフワワは、真剣な顔で急ぎつつも自分に必要なものを頭の中で必死に思い浮かべながら準備をしていく。

 マントと杖はもちろんのこと買ったばかりの装飾品もきちんと身に着けているかを確認し、鎖を外して鞄を背負う。


 準備ができたと思ったところでフワワがソノラを見れば凛と背筋を伸ばしているいつも通りのソノラが既に準備を終えて立っていた。

 ふわりと髪を後ろに払ったソノラがフワワに気づいた。

 「準備できました?」

 「うん。大丈夫!」

 「まずは下に降りましょう」


 ソノラの言葉にフワワは頷き不安に高鳴る鼓動と逸る気持ちに足がもつれないように気を付けながら、部屋を後にする。




御覧くださりありがとうございます。

次話の更新は12/4(木)を予定しております。

お気に召しましたら、お付き合いください。

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