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十四歩目 出会い



 装飾品を購入したフワワ達は、ひとまずネスタの前のパーティーでの事を報告しておこうとその足でギルドに向かうことに決めていた。

 入り口横の窓から見る限り、少しだけ混雑している様子はもうじきに日が暮れてくるからだろう。


 闇や影のような色を纏っているエレメンターが倒すべき『魔』は日が暮れて暗い闇夜の時間に活発になるため、街から街への移動を行っていない限りは極力戦闘を避け、街中に戻るようにしているパーティーがほとんどだった。

 移動の最中はパーティーメンバーで交代して寝ずの番をするのが決まりになっている。


 月明りが乏しい場所では影が蠢いているような見た目の『魔』を目視で捉えるのは難しい。

 単純に夜中の戦闘は『魔』を見失いやすいから推奨されていない。

 だからこそ、装備一式を奪ってネスタを置いて行った《燃え盛る陽》の行動は非人道的と言われても仕方がないものだった。


 少なくともエレメンターとして『魔』と対峙してきた者とは思えない行為。

 ネスタが無事に街に辿り着いたからと言って黙認されてはいけない代物だった。



 最初にフワワを担当した流れでフワワとカナカが結成したパーティーの担当になっているニネアは、心配だらけの『おこちゃま』パーティーに年若いながらも二人よりも年上のメンバーが加入した事を心から喜んだ。

 そして心底憤慨したのだった。



 「なんっですか!! そ、れっ!!!」



 一音一音丁寧に怒ってみせたニネアの怒りように、フワワがびくっと肩を震わせて隣に座っているカナカのマントを縋るように握った。

 ソノラは「元気な方ですね」と微笑み、ネスタは悪い事をしていないのにまるで申し訳が立たないように項垂れていた。

 そんな一同に気が付かず、ニネアは椅子から立ち上がった。


 「《称号》が気に喰わないから夜の森の中で装備一式奪って置き去りなんて最低じゃない! 非情! 非道! 極悪です! こんなのブラックリスト待ったなし! 要注意パーティー! 全員アウトよ!! 絶対許さない!!」


 傍らに置いていた本を勢いよく開き、何事かを素早く書き殴っていったニネアは大きな眼鏡の中の瞳に怒りの炎を燃やしていた。

 カナカはどうでも良さそうに欠伸を零す。


 「《燃え盛る陽》のビザルさん。えぇ、もう覚えましたよ。ウェルテクスに来た際は厳戒態勢で監視してさしあげますからね~!」

 書き殴った文字を見ながら、ふふふ、と黒い笑みを浮かべたニネアは音を立てて本を閉じると足早に入り口の方へと向かっていく。


 「あ、ミリカ。これ、急ぎでギルド長に届けてほしいの」

 「ほいほい? ギルド長ね。りょーっかい」


 そうしてフワワ達が声をかける間もなく扉を開けたニネアは、いつも通りの笑顔を浮かべながらちょうど前を通った同僚に先ほど書き殴った本を渡す。

 渡された同僚は本をひらひらと振って軽く了承すると、そのまま急ぎ足に去っていった。


 そっと扉を閉じたニネアはくるりと身を翻して、こほん、と気を取り直すように一息吐いた。

 その表情には先ほどまでの激憤はなく、熱が冷めて冷静になったために気恥ずかしさを覚えたようだった。

 「と、取り乱してしまい申し訳ありません」

 「あ、いや。大丈夫だ」

 呆然としたまま返すネスタに、礼を返すようにニネアは頭を下げる。

 そうして椅子を目指しながら口を開いた。


 「ええと。報告本当にありがとうございます。問題を起こしたパーティーと分かっていればギルド側も注意して見る事ができますから、教えてくださってとても助かりました」

 ニネアが席についてもう一度頭を下げる。

 正面に座っているネスタは少し居心地が悪そうに俯いた。


 「いや、俺は……。最初は報告もする気がなかったんだが、ソノラに言われて次は別の誰かが被害を受けるかもしれないと、思い至ったから」

 右隣に座るソノラに目を向けて薄く微笑んだネスタに視線を向けられた当人は何も返さずに肩を竦めるだけだった。

 「そうなんですね。ソノラさん、ありがとうございます」

 「いいえ。……それよりもあの後、《煌めく月》の人達は何も問題起こしませんでした?」

 「あ、はい。……ええと、その、とても普通に、出て行かれました」

 問題が起こっていないからこそ言い難そうにニネアが微妙な笑顔とも真顔とも取れない表情で告げると、ソノラは華やかな笑みを浮かべる。


 「あら。後腐れなくて素敵です」

 「……! はい! 私としても、二人パーティーのフワワさん達が気がかりでしたので、ソノラさんとネスタさんが加わってくださって安心しております!」

 ソノラの言葉にニネアも表情を明るくして笑顔になる。

 そうして晴れやかな表情のニネアがカナカを見る。


 「装飾品は買われたんですね?」

 「そー」

 「回復薬はどうです? 買いました?」

 「話終わったな。帰るぞ」


 面倒くさそうに立ち上がったカナカにテーブルに勢いよく手を打ち付けてニネアも立ち上がる。

 「回復薬、買ったんですよねっ?」

 「盾と大剣を見ろよ。最高品質だぞ」

 「どうして回復薬分を残さなかったんですかっ!!」

 もう、と拳を握り締めるニネアを意に介さず、カナカは部屋を出て行く。


 「あ、カナカくん待って! ニネアさん、ありがとうございました!」


 先を行くカナカを慌てて追いかけたフワワが扉の前で一礼して、さっさと出て行ってしまったカナカの後を追って走りだす。

 それにネスタは困ったようにしながらも立ち上がった。


 「それじゃあ、俺達も行こうか」

 「そうですね。宿もまだですし」

 「宿も、大事ですね……」

 悔しそうにしながらも回復薬の件を諦めた様子で項垂れたニネアはすぐに背筋を正してネスタとソノラを見つめる。

 丸眼鏡越しのぱっちり開かれた明るい茶色の瞳が緩やかに微笑んだ。


 「良き出会いでありますよう、僭越ながらお祈り申し上げております」


 前のパーティーに問題があった二人に向けて控えめに頭を下げる。

 カナカやフワワはまだ年若いという事で心配するのはニネアの中では当然だった。

 けれどネスタもソノラも、どちらも所属していたパーティーに恵まれていないという点では同じくニネアは心配だった。

 そうわかっていても決まりで口出しをできないからこそ、かけられる言葉はなんの足しにもならない祈りだけだ。


 「もう十分いい出会いだと思っています」

 「あぁ。気遣ってくれてありがとう」


 ソノラとネスタが笑って返した言葉にニネアはゆっくりと頭を下げていく。

 二人も軽く会釈をしながら扉を開けて出て行く。


 少し遠ざかる足音とともにネスタの「やっぱり相当働かないとだめだろうな……」という声にソノラが「あなた、今のところ借金しかないですねぇ」という軽い返答までがニネアに聞こえた会話だった。


 ゆっくりと頭を上げたニネアは、よし、と一人気合を入れた。




御覧くださりありがとうございます。

次話の更新は11/29(土)を予定しております。

話が遅々としており恐縮ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

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