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十一歩目 パーティー



 唐突に割って入ってきた美少女は、フワワやカナカの困惑に気付かないフリをして笑う。


 「リーダーが頼んだのはここじゃないでしょう。決まったお店があるから間違えちゃダメって教えたのに、やっぱり間違えましたね」


 もう、と言ってフワワの頬を細い人差し指で軽く突く。

 まるで本当に親しい人だと勘違いする自然な動作にただ驚いて見上げるフワワや、睨み上げるカナカを順に見て、にこにこと微笑んでいた少女は、その近くに困惑顔で立っているネスタを見て眉根を寄せた。

 「あなたねぇ、先輩が間違えちゃだめでしょう。本当、いつまでたってもうっかりしているんですから、困った人ですね」

 「え、あ……すまない?」

 全く見知らぬ赤の他人に叱られたのに反発もせずに大人しく謝罪をするネスタに、少女はくすりと親しげな笑みをすぐに浮かべる。


 「仕方ないですから、リーダーには内緒にしておいてあげます。ほら、商売の邪魔になるといけないから私が案内するわ。 ――― ごめんなさい、店主さん。冷やかした形になってしまって」

 「あ、あぁ……」

 にこりと。

 綺麗な笑みを浮かべた少女に見惚れて固まった店主に、今の内と言わんばかりに少女がフワワの腕を掴んで有無を言わさずに歩き出す。


 最初は引きずられるような形になったフワワは、けれどカナカが何も言わずに少女に付いて行くのを見て、自分の意思で少女の後を追うように足を動かした。

 ネスタも一礼を店主に向けて、少女を追う。


 何も言わずに黙々と人ごみを縫って、店主の視界から逃れた瞬間に店と店の隙間を縫って路地に突き進んだ少女にフワワが慌てる。


 「え、あの、どこに」


 戸惑う声を投げかけたものの、路地に入って大通りの喧噪がほんのわずかだけ遠ざかった場所ですぐに足を止めた少女があっさりとフワワから手を離した。

 そうして振り返った少女はどこか怒ったような顔を浮かべて、本を持っていない方の手を腰に当てた。


 「駄目ですよ。あの店、粗悪品ばかりだったでしょう」

 「そうなんですか!?」

 「気づかないってことはやっぱり新人さんでしたか」

 フワワの返しに腰に当てていた手を額に当てなおして、少女は息を吐いた。

 傍から見てもわかりやすいほど新品の支給服を着たフワワは格好のカモだったことだろうと、少女は内心で思う。


 そして後ろに追って来たカナカ、というよりもネスタを見て目を細めた。

 その視線にネスタがきょとりと目を丸くする。


 「あなた、先輩でしょう? 後輩に粗悪品を与えるなんて、どういう教育するつもりですか?」

 「あ、いや、俺は、そのっ」

 「そいつは見る目がないから無理」

 「……」


 少女の言葉をぶった切る率直さで言い切ったカナカの言葉に、少女に説教まがいの言葉をぶつけられたときよりも悲しそうな表情をしてネスタが俯く。

 少女は、割って入るように言い切ったカナカに目を向ける。


 「見る目がないって分かっているなら、もっと装飾品に詳しそうな先輩に頼んだ方がいいですよ」

 「いない」

 「あの、私たち三人パーティーで、組んだばかりなんです」


 素早い否定だけのカナカに付け加えるように言ったフワワに少女が驚いたように目を見張る。

 そうして三人を順に見て、腕を組んだ。


 「三人だけ? 本当に?」

 「はい! できたてほやほやパーティーです! あの、お姉さんはどうしてあの装飾品が粗悪品ってわかるんですかっ?」

 胡乱気に尋ねた少女に頷いたフワワが気になっていた事をそのまま尋ねれば、もの言いたげに口を噤んだ少女は諦めたように一つ息を零した。


 「装飾品の良し悪しは魔石の輝きを見るんですよ。きらきらと艶めいているものは上質、曇っているものは最低品質だから覚えてくださいね」

 「きらきら……。確かにあのお店のは全然きらきらしていませんでした」


 むしろ曇っているような気がする。


 おすすめだと言って差し出された首飾りについた魔石も大きさはそこそこあったものの輝きとは縁遠い代物だったのを思い出し、フワワは納得する。

 同時にだから心惹かれなかったのだと、フワワは気が付いた。

 装飾品の体を取って可愛いものもあったのに、不思議と魅力を感じなかったのは飾りのメインである魔石がくすんでいたからだ。


 「でしょう? 私が見た限りあの店は良くないわ。装飾品で安いお店を探しているなら、かなり歩いちゃうけどもう一つの露店通りの終わり近くにあるお婆さんのお店の方が良いですよ」

 品数は多くはないけどね、と付け加えて微笑む少女にフワワが目を輝かせた。

 「ありがとうございます!」

 フワワの笑顔に少女は困ったように笑って肩をすくめた。


 「……パーティーメンバーでもないのに口出ししすぎて怒られるの覚悟していたくらいだから、お礼は別にいいです。すごくマナー違反していますから」

 「そうなんですか? でも、すごく助かったので」

 ありがとうございます、ともう一度言ったフワワに少女は安心したように表情を緩める。

 けれどすぐに表情をきつくして、ネスタを見つめる。


 「マナー違反しちゃったついでに言いますけど、あなたもリーダーならこんな初歩的なことはきちんと覚えてないとだめでしょう? 新人の子は最初の教育が大切なのに」

 「う……。いや、俺は、その……俺も、知らなかった」

 「お前本当に見る目ないな」

 「カナカくん、ネスタくんのこと責めないであげて」

 「責めてねぇよ。もはや同情してる」


 がくりと肩を落とすネスタに対してカナカにしては珍しく全く厳しくない、生温かい目を向けていたため、本心からの言葉なのだろう。

 それが分かったフワワは勘違いしてカナカを責めるような発言をしたことを素直に謝ったのだった。

 カナカは「気にしてない」といつも通りそっぽを向く。


 「……よし、決めた」


 三人を順繰りに見た少女の呟きが聞こえたフワワ達が視線を向けた先で、凛と背筋を伸ばしたままの少女が意思の強い眼差しをネスタへと向けた。


 「私をパーティーにいれてください」

 「……え?」

 少女の発言に呆気に取られて首を傾げてしまったネスタに、少女は自らの胸に片手を当てて一歩近づいた。

 その迫力にネスタがわずかに身を引く。


 「私こう見えても新人教育任された事もありますし、その子、ウィザードでしょう? 同じウィザードなら教えやすいと思います」

 「え!? わ、私?」

 視線で示されたフワワが驚いて、狼狽える。

 「もしお金に余裕がないなら値切り交渉も任せてください。この街には初めて来てまだ詳しいと言えるほどではありませんが、市場価格とかは頭に入れてますからぼったくられたりもしません」

 「いや、あの」

 畳みかけるように言う少女に返す言葉もなく、いつの間にか距離を詰められている事に困り果てたネスタが視線を泳がせ、最終的にカナカへと助けを求めるように目を向けた。


 それに面倒くさい、という顔を隠さずにカナカが少女を見上げる。

 「お前、パーティーは?」

 「さっき抜けてきたところです」

 「さ、さっき……」

 あっけらかんと言い切った少女の様にフワワの方が反応に困ってしまう。

 カナカはふぅん、とだけ言って少女を見つめる。


 癖のないストレートロングの濃紺の髪に、ぱっちりと開いた桃色の目。

 ネスタを見ていなければまず間違いなくほとんどの人間は見惚れる綺麗な容姿に、なによりも綺麗な立ち振る舞いをしている、常に凛としている少女。


 ウィザードと言った通り防御に重きを置いた厚手の膝丈のマントに、同じく膝丈の袖広めなワンピースタイプの支給服は紺地に水色の模様が入っているもので、裾から覗くレースがわずかに見える素足をわずかに覆い隠し、後は白いロングブーツに包まれていた。

 マントの下には魔石がついた斜め掛けの鞄がある。

 物珍しいのは基本が杖を武器として選ぶ中、分厚い本の形を選んでいる事だろうか。


 「……よく抜けられたな?」


 本に視線を向けてそう言ったカナカに少しの間動きを止めた少女は、わずかに前のめりになっていた背筋を正して胸に当てていた手を離して中空でギュッと握りしめる。


 表情は綺麗に笑みを形作っているままだというのに、少女の桃色の瞳がまるで火花を散らすように煌めいていた。


 そのあまりの威圧感にフワワがカナカの背中に少しだけ身を隠し、マントをぎゅっと握りしめる。

 ネスタはそっと盾を視線を隠さないほどまで持ち上げて窺うように少女を見る。


 「よく聞いてくれました」


 ご機嫌とも不機嫌とも言えない表情で少女は笑う。

 ただ分かるのは苛烈に煌めく、煮えたぎるような激情を爆ぜさせている瞳がやけに印象的だということ。


 その眼差しを真っ直ぐに見つめ返したカナカは心の中で「面倒くさいことになった」と思っていたのだった。




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