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十歩目 装飾品



 「ありがとうございました」


 野太く、カナカよりももっとぶっきらぼうな声が見送る。

 「いいのが買えて良かったね。ネスタくん」


 フワワの杖を買った武器屋で大剣と盾を揃えたネスタは、買ったばかりの盾と背中に差した大剣を確認するように触れてから緩やかに微笑む。

 「あぁ……。ほんとうに有り難う。これなら頑張って働ける」


 気恥ずかしそうに、けれど真面目な顔で薄く笑みを形作る美貌はまるできらきらと輝くようにきらめいて見えた。

 フワワは内心で眩しい、と思いながらも両目を瞑って笑い返すことで堪えた。


 武器を見ながら打ち解けてきたネスタは二人より五つ上の十七歳だったが、お世話になっている立場だからと敬語や敬称はいらないと進言した。

 それに対しカナカは元より使っていないと言い切り、フワワは少し迷ったものの話しやすい口調で、とお願いするネスタに頷いた。

 なによりその方がパーティーとして仲良くなっている気がして、フワワも嬉しかった。


 「でも俺のだけ買ってもらったが、二人はいいのか? 他に装備していないように見えるが」


 買うならば高品質一択らしいカナカに言い切られ、相当な値段の盾と大剣を買ってもらったネスタは申し訳なさそうにフワワとカナカを見る。

 武器屋に向かう前に宿に寄って予備の短剣を調達したカナカと、変わらず大事そうに杖を握っているフワワ。

 二人の武器らしいものはそれだけだった。


 「装飾品はとりあえず試しで買うつもりだ。フワワに防御上げるやつ」

 「あぁ、それはいいな。ウィザードなら……、あとは距離を取りやすいように移動速度をあげられるやつがいいんだったかな」

 「それ結構扱い辛いんだろ。慣れるまで時間かかるやつ買うくらいなら確実な方がいい」

 「そう、だな。たしかに、その通りだ」

 カナカの言葉に相変わらずおっとりとしているネスタがゆっくりと頷く。


 「あ、えっと」

 少しだけ二人の会話についていけないフワワがおろおろとした様子を見せれば、ネスタが柔らかく微笑む。

 「フワワはエレメンターなりたてで攻撃速度があまりないなら、防御メインの方がよさそうだ」

 「な、なるほど。あ、じゃなくて」

 「とりあえず露店の安いやつで試すか」

 「あぁ、露店なら大通り近くだな」

 「……ど、どういうのが良いとか悪いとかあるの?」

 あっさりと決めたカナカの言葉に以前に何度かウェルテクスに来たことのあるネスタが方向を指し示す。

 それにカナカが迷いなく歩き始めたのにネスタも続き、少しだけ逡巡したのちに駆け足で続いたフワワが二人を見ながらそう尋ねた。


 「装飾品はエンチャンターの奴が作るんだけど、使いやすい使い難いが人によって違うんだよ」

 「装飾品によってエレメントを込めるタイミング? というのが違うらしくて。そのタイミングで使いやすさに個人差が出るらしい」

 「えぇと……じゃあ、ネックレスよりブレスレットの方が使いやすい人がいるーってこと?」

 「そうだな」

 頷いたネスタに、なるほど、とフワワは初めて聞く事に真面目な表情で頷き返す。


 「合うのは調べ方はあるんだよ。それ見つけても装飾品の効果を発揮できるかは個人差あるから、フワワが使うのが得意かどうか確かめるためにまずは安いやつで試す。得意そうなら高いのに変えればいい」

 「そうなんだね。ちなみに二人は何がいいの?」

 最高品質一択のカナカが「まずは安いやつ」と言ったことを不思議に思っていたフワワはその説明に納得する。


 たとえ良いものを買ったところで扱いきれなければ無意味になってしまう。

 そんな失敗を失くすための「まずは安いやつ」なのだ。


 「俺は指輪」

 グローブの付けた手を閉じたり開たりしてみせたカナカは言わなかっただけで指輪をつけているのだろう。


 「俺は、その、武器に付けるタイプのものが、相性が良くて」

 「だからまるっと持ってかれたのか」

 「あぁ……」


 ネスタが言い難そうに説明した事に納得したカナカは、つくづく運の無い奴だと言わんばかりの目でネスタを見る。

 分かりやすい目で見て来るカナカに言い返す言葉も思い浮かばず、ネスタは恥ずかしそうに俯いた。

 そんな二人にフワワは首を傾げる。


 「ええと、どういうこと……?」

 「曲がりなりにも身に着ける装飾品を剥ぎ取られそうになったら目が覚めるだろ。けどこいつの場合は武器にくっつけるタイプだったから、寝るときに抱いて眠れない大剣ごと持ってかれたんだよ」

 「あぁ! な、なるほど」

 納得してすぐにフワワは苦笑を零しそうになった。

 せめて身に着ける装飾品であれば、装飾品だけでもネスタの手元に残っただろうが、そうではなかったために本当に何一つとしてネスタには残らなかった。


 「そのタイプは取り外しが大変なの?」

 「いや、簡単だ」

 「じゃあ眠る時、それだけでも外して持って寝たら安心だね」

 「……たしかに。……あ、いや、でも」


 フワワの提案に納得したネスタはけれどすぐに何かに焦ったように表情を曇らせる。

 そうするとフワワとカナカを疑っているようで失礼にならないか、とネスタは気にしたが先を行くカナカが少しだけ振り返った。

 「ぼーっとしてるし、落としたの分かりやすいように鈴つけとけよ」

 「そんな取れやすいの!?」

 「そんな………いや、いいかもしれないな」

 「落とすなよ」

 冗談のつもりで言ったカナカは思いのほか真剣に検討し始めたネスタに前科を疑って目を細めた。

 その視線に否定をするでもなく逃げるようにネスタは顔を逸らす。

 そんな二人の様子には気が付かずにフワワが、あ、と声を弾ませた。


 「露店が見えたよ!」


 広い道の両端にひしめく露店と、行き交う人の群れ。

 指で示したフワワの明るい表情と対照的に人の多さにカナカは嫌そうに顔をしかめ、ネスタはギュッと買ったばかりの装備を抱きしめた。


 「ふ、二人とも、あんまり楽しみじゃないんだね」

 「あ、いや、大丈夫だ! 今度は盗まれない……!」

 「人多……」

 ネスタは盾を持つ手に力を込めて宣言し、カナカはそうぼやくように言うと深く息を吐いた。

 「や、やっぱりやめておく?」

 二人の様子を心配するように伺うフワワに少し鼻を鳴らしたカナカが足を動かす。


 「とっとと探して帰るぞ」

 「そうだな。長居するようなところでもないし」

 「うん! 楽しみだね!」

 「いや、それは別に」

 「あぁ、そうだな」

 両極端な返答を受けてフワワは思わず苦笑を零さずにはいられなかった。


 元々カナカは人の多い場所を歩くのを嫌がり、極端に避けている様子からこういう場所が好きじゃないのはフワワにもよく分かった。

 とにもかくにもさっさと終わらせたい様子のカナカが先を行き、露店をあちこち見てから装飾品を置いているところを見つけてフワワに目を向ける。

 その視線にフワワもカナカの方へと寄って、地面に布を広げた上に所せましと装飾品が置いてあるのを見た。


 パッと見て普通の装飾品と変わらない見た目をしているが、赤や青の宝石らしい飾りは全て魔石だと気がついた。

 「普通の宝石を使っているやつは違うの?」

 「魔石を使っているやつだけだな」


 「装飾品をお探しですか? うちはいいもの揃えてますよ~!」


 にこにことカナカとフワワに笑いかける店主らしき男にフワワは一度会釈した。

 カナカは一度じとりとした視線を送って返事もしなかった。

 「ネスタ。装飾品の安値、知ってるか?」

 「いや、俺はあんまり詳しくない……」

 カナカのひそめた声での問いに答えながら徐々に申し訳なさそうに表情を曇らせていくネスタ。

 そんなネスタには構わず睨め付けるように商品を見たカナカが、眉根を寄せた。


 フワワはどうしたものかと思いながらきょろきょろと視線をさ迷わながら、不思議とどの装飾品にも心が惹かれずに眉尻を下げた。

 そんな客に構わず、大きめの魔石のついた首飾りを取った男がフワワの前にそれを突き付けてきた。


 「これが一番おすすめだよ! 今ならもっとお安くするよ~!」

 「え、あ、いえ……」


 話しかけられたフワワが困って視線をカナカに向ければ、真一文字に閉じられていた唇が開こうとしていた。

 本心を迷いなく口にするカナカが喋ると喧嘩になるのでは、と心配したフワワがどうしようと焦り始めた瞬間。


 カナカの一音目が発生されるよりも先に。



 「――― もう! こんなところにいたのね!」


 後ろから涼やかな声が響いた。

 ぽん、と軽くフワワの肩に乗せられた手に驚いて振り返れば桃色の瞳と目が合った。

 白い肌に映える濃紺の真っ直ぐな長髪。

 ネスタを見ていなければあまりの綺麗な顔立ちに悲鳴をあげていたかもしれないほどの美少女が困った顔をして、フワワに微笑んでいた。




御覧くださりありがとうございます。

次話の更新は11/22(土)です。

よろしければ次話もお付き合いください。

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