柘榴
僕は……間違っていたのかな。
僕は……生まれてきてはいけなかったのかな。
僕は……どうして、みんなと違うのかな。
分からない……分からないけど……、僕は……間違ってなかったはずなんだ。
背後には醜悪な笑みを浮かべる男子達。
……クラスメイトの松澤、後藤、清水。
早くしろと足踏みをしながら手を叩く。
その顔に浮かぶのは楽しさだろうか、それとも愉悦なのか。
物怖じして二の足を踏む僕を煽るように、後藤が手摺を強く蹴り、ガンガンと大きな音を立てる。
……僕が手摺を握っている手を狙って蹴っているんだ。
「おいはやくしろよ!!つまんねーな!」
「てつだってやろうか?おらっ!ヒーローがたすけに来るんだべ?」
心臓が痛いほどドキドキしている。息も苦しくって……苦しくって……。
でも、本当に、これをしたら、楽になるのかな。
「3秒でいけよ!カウントダウン!!」
「さーん!にー!いーち!!」
背後から誰かが走って近付く音が聞こえて来る。きっと松沢のお得意の飛び蹴りが僕の背を押すのだろう。
軽快な足音が途切れ、タンッと床を飛んだ音がした時——。
不意に目の前をアゲハ蝶が通り過ぎた。綺麗なアゲハ蝶。ひらりふわりと自由に空を飛んでいる。
僕は、身を翻らせた。
「ちょっ!?」
蹴るはずの僕が不意に横へずれた事で、松沢の飛び蹴りは宙を切り、手摺の隙間へと足が通り過ぎ、股間を強打させる。
「いってえ……ああああ、っくぉ……!?」
手摺を飛び越えた僕は、股間を押さえて悶絶する松沢へと殴りかかった。
「ヒーローは!負けない!」
初めて僕の拳が松沢の頬を捉えた。
アニメやまんがで見るような歯が飛び散ったり口から血を吹き出すこともない。でも、確かに僕の手はジンジンとしびれていた。
殴られた痛みからか、松沢の目にじわっと涙が浮かぶ。
それを見て……胸の奥がスッと軽くなった。……とても気持ち良かった。
――だから、殴るのをやめたくなかった。
「僕がっ!何をしたんだよっ!!悪いのはっ!全部女子じゃないかっ!!」
「やめっ!やめろっ!!たすけっ!?誰かっ!!?」
笑いながら松沢を殴る僕を、後藤と清水が戸惑いながらもいつものように左右から取り押さえてサンドバッグにしようと近付いてくる。
でも、今の僕なら勝てる。
何だってできる気がした。
「ああああああっ!!」
思い浮かべるのは怪獣の動き。滅茶苦茶な、全てを壊して暴れる恐竜のような、金ぴかのロボットのような、手加減も何もない体当たり。
幼稚園の頃からずっと憧れていた、テレビの向こう側の光の巨人。
彼の真似をしていても、いつも負けてしまった。
僕の良心がどうしても拳を振りぬく事を許さなかった。
でも、もう限界なんだ。
体当たりで転んだ後藤を捨て置いて、清水の顔を狙って何度も拳を、爪を立てた。
清水からもパンチが飛んできた。でも、今の僕はいつもの僕じゃない。
嗤え、嗤うんだ。
「あははははははは!!!」
心から楽しそうに僕は笑った。だって、楽しかった。今まで僕をいじめていた三人が、涙を流しているんだ。
僕は、勝っているんだ。
「あはははは!!!」
だから、僕は蹴った。転んだ清水の顔を、胸を、お腹を。
何度も、何度も何度も何度も何度も。
ずっと、僕がされてきた事だ。自分だって同じ目に合えばどんな気持ちか分かるだろう。
ついに清水も泣きじゃくりながら頭を抱えて丸くなってしまった。
じゃあ、次だ。
僕は後藤へ目標を定めた。
後藤はさっきの僕の体当たりで頭を打ったのか、後頭部を抱えながら泣きじゃくっている。
後藤は僕と同じ幼稚園だった。一緒に遊んだこともあった。家にだって遊びに行った。
……なのに。どうして。
だから、思いっきり蹴った。もう上履きの先っぽがずっと痛い。痛いけど、蹴るたびに気持ち良くなったんだ。
清水、後藤は負けを認めた。
「ごめんなさい」「許して」「助けて」「死んじゃう」
僕が何度も何度も、この一年間ずっと彼等に懇願した言葉。
でも、彼等は笑っていた。楽しそうに。……心底楽しそうに。
僕はもう一度、松沢を見た。
彼はまだ股間と顔を押さえて泣いていた。でも、足りない。
僕は蹴った。お腹を踏みつけた。指先も踏んだ。
全部全部、僕がやられたことをやり返したかった。
明日になったら、僕はまた彼等にサンドバッグにされるだろう。
だったら……いっその事……。
その時、必死だった僕は屋上のドアが少し開いているのにようやく気付いた。
ドアの隙間から誰かが見ていた。
目が合った時、すぐにドアが閉まった。
僕は走った。そして階段を猛烈な勢いで駆け下りて、走って逃げていく女子。小林を見つけた。
全力で走って追いかける僕に気付いたのか、小林は悲鳴を上げながら教室へと戻っていく。
昼休みで廊下も教室も他の生徒でざわついていた。そんな中、必死に逃げる女子とそれを追いかける笑顔のいじめられっ子。
野次馬が何だ何だとついてくる中、僕は自分のクラス、6年3組へと戻ってきた。
「キモ!来ないでよ!!」
「最悪、めっちゃキモイんだけど!あのが泣いてるじゃん、さいてー!」
先に教室についていた小林が女子グループへと合流して、リーダー格の瀬山へと泣きついていた。
いつもの僕ならきっと、ここで引き下がった。だって、女の子相手だし、人気者の彼女等の機嫌を損ねたら、同じ人気者の男子が僕をやっつけに来る。
でも、もう知ったことか。
僕は全速力で女子グループへ突っ込んだ。女子だろうが何だ、お前達が全ての元凶だろう!
小林のお腹を勢いのまま蹴りつけた。
そのまま瀬山も、加藤も、森も、浜崎も、みんな殴ってやった。
女子相手に大立ち回りをした僕を、他のクラスの男子達が力尽くで止めようと迫ってくる。
「どけ!!まだ終わってない!!!僕の復讐は終わってないんだ!!」
髪を引っ張り、腕をつねり、首を絞める腕に爪を立てる。今の僕は、誰にも止められない。
遠巻きに僕を見ていた、授業中に消しゴムを投げ続けた林も、防災頭巾の座布団カバーに画びょうを仕込んでいた赤崎も、教科書を破り捨てた新山も。
「絶対に許さない!!!」
だが、僕の暴れまわれる時間はあっけなく終わりを告げた。
怖いと評判の男性教師、ハゲの丸田が騒ぎを聞いて飛んできたのだ。
「何やってるんだ!!!」
最後まで僕に危害を加えていたクラスメイトを狙って体当たりを繰り出そうとしていた僕は、丸田の太く逞しい腕で持ち上げられて、無力化されてしまった。
きっと丸田の眼鏡を狙って殴ってやればまだ暴れられるだろう。でも、急激に僕は冷静さを取り戻していた。
「……ごめんなさい」
「何だ、何があったんだ!」
「……女子に虐められてました。ずっと。でも、担任の阿久津先生は知っていたのに、何もしてくれませんでした。だから、やりました。自分の手で」
頭に鋭い痛みと、ガチンっと歯同士がぶつかり合い痛みが同時に二か所へ走る。
丸田に殴られたのだ。
「たとえ理由があっても女子を殴っちゃいけない。女の子なんだから!」
「……女の子だからって、全部が許されるんですかっ!!」
「そういうわけじゃない、でも」
「女の子だから!!人に死ねって、キモイってッ……何しても……何言っても……いいの……?」
悔しかった。僕の復讐はもっと長く、もっと大勢にこの悔しさを、苦しさを味合わせたかった。
* * *
事の発端は、阿久津先生が二年連続で同じ担任だった。ただそれだけのつまらない事。
そんなつまらない、くだらない事でクラスの一軍女子が騒ぎ立てたんだ。
多くの生徒に人気の先生が良かった。せめて別の先生が良かった。二年連続であいつは嫌。
悪ノリが過ぎたのだろう、女子が体操着に着替える空き教室の壁に『阿久津死ね』と落書きが発見された。
同じ3組の女子が密告したのだ。すぐに学級裁判が始まった。
油性ペンで書かれたその落書きは、今も消えずに残っているらしい。
書いた犯人は何人も目撃しているが、密告した女子以外誰も口を割らず、それどころか落書きを確認しに誰も居ない時に空き教室へ入った阿久津教師が一軍女子たちから変態・痴漢だと騒ぎ立てられ、それに一軍男子、彼等の顔色をうかがう二軍三軍と同調し、学級崩壊が始まった。
そこからは陰湿な教師への虐めが始まった。
クラス全体が教師の敵だった。
誰も彼の話を聞かず、注意を聞かず、実力行使に出ようものなら大騒ぎし、女子は触られたと泣きじゃくる。
次第に阿久津教師は担任としての職務を、最低限の事以外果たさなくなっていった。
そんなある日だった。給食当番が校内にある給食センターへ受け取りに行っている間、教室にゴキブリが現れた。
すぐに男子達によって叩き潰された後、松沢が徐にそのゴキブリの死骸を塵取りにのせ、悪い笑みを浮かべた。
――あいつの給食に混ぜてやろうぜ。
僕は、許せなかった。幼い頃からずっと正義の味方が大好きだった。間違ったことは間違っている。正しい事をしていれば、きっと神様も見ていてくれる。
母からの教えだった。
彼等が教師のコッペパンをトングで穴だらけにしても、大おかずの器にチョークの粉を混ぜても、何も言えなかった。
声を上げるのが怖かったんだ。
でも、今回のはやり過ぎだ。
阿久津教師は給食の時もギリギリまで教室にはいない。それを狙って松沢が大おかずの器に潰れたゴキブリの死骸を投入し、その上から味噌汁を流し込み、教師席へと配膳した。
クラスメイトのほぼ全員が共犯者だ。
だから、僕は動いた。
職員室から教室へ戻ってくる阿久津教師へ密告した。
「先生、大おかずを食べないでください。ゴキブリが入っています」
教室中が「いただきます」の号令を終えた後、どこかニヤニヤした笑みを浮かべながら阿久津教師が汁物へ手を付ける瞬間を心待ちにしていた。
だが、彼は静かに食器を戻し、新しい食器で食缶から味噌汁を掬い、何事もなかったかのように食事を終え、何も言わずに職員室へと戻っていった。
その後の昼休み、松沢が言った。
「裏切者がいる」
僕は自ら名乗り出た。
「こんな事間違っている。担任がたまたま去年と同じだからって騒ぎすぎでしょ」
僕は甘かったんだ。
僕は、今まで良い人に囲まれて生きてきたんだ。
僕は、ヒーローに憧れ過ぎていたんだ。
次の日から、僕の日常は一変した。
朝、登校してきたら僕の机がなくなっていた。……廊下に出されていたんだ。
「誰だよー!もー!」
なんて笑いながら教室に戻して、元通りに並べて隣の席の女子との机とくっつけた。
でもあからさまに席を離された。
授業中には、どこからか消しゴムのカスが飛んでくるようになった。
フードのある服を着ていたら、フードの中に色々なゴミが詰められるようになった。
クラスの女子から、『キモイ』『KY』『〇〇菌』と呼ばれるようになり、目が合うだけで「キモ……」
と吐き捨てるように言われるようになった。
僕の机の中身が、女子トイレに散乱するようになった。
もちろん誰も助けてはくれない。
トイレに誰も居ない事を確認してから全速力で取って戻ろうとした。でも待ち受けていた男子達に女子トイレへと押し込まれた。
座布団カバーの内側から、無数の画びょうが飛び出るように設置され、座った瞬間飛び上がる事もあった。
机の上が彫刻刀でボロボロになった。
運動靴の片側がため池に投げ捨てられていた。
男子達から両腕を押さえられ、アニメや漫画の技を試させてもらうとサンドバッグになった。
給食のパンが穴だらけになり、食器には埃やチョークの粉がついていた。
いよいよ阿久津教師の前だろうと、いじめは続いていた。
でも、僕が助けたはずの阿久津教師は、何もしてくれなかった。
毎日傷だらけで、まだ新しいズボンを履いていった日に破いて帰ってくる僕を母は心配していた。
僕は、涙ながらに母へ訴えた。辛い、苦しい、もう学校へ行きたくないと。
母は学校へ電話を掛けた。連絡を受けた阿久津教師は、各生徒の家へ連絡して調査しますと電話を切った。
その日の夜、阿久津教師から電話があった。
電話を受けた母は少しずつ顔が曇っていき、最後は僕を睨みつけていた。
――僕が悪いらしい。
皆は口をそろえて言ったらしい。
僕が暴れるから仕方なく殴った。それは反省している。でもあいつが悪いと。
母は、僕を怒った。あんたが悪いんじゃないかと。
あんなに夕方には話を聞いてくれたのに、電話の後は僕の話を聞いてくれなかった。
大人は、大人の話しか信じないんだ。
だから、僕は大人を頼る事をやめた。もう何があっても、決して相談する事はない。
翌日、僕は学校を休もうと思った。このままじゃ、あいつらに殺されちゃうと。
でも、母は決して許してくれなかった。
僕には兄がいた。
僕と違って、とっても優秀で、テストはいつも100点。成績はいつもAばかりが並ぶ。ピアノはコンクールで入賞、スポーツも運動会ではアンカーを務めるほど足も速い。
でも、絵だけは下手だった。
兄も、隣の女子から眼鏡をかけている事を揶揄われた事があった。
でも兄は頭が良かったから、学力でねじ伏せた。
「僕より馬鹿な奴に馬鹿にされたくないね。テスト何点?僕はいつも100点だよ?」
兄は、優秀だった。友人も多かった。教師等からの評判もすこぶる良かった。
でも……僕は違った。
成績表はBに、時々AとCが混ざる。テストも良くて90点。
体育は苦手ではないが、得手不得手がはっきりしている。ペアで行う内容は、いつも独りぼっちだった。
兄と同じように習っていたピアノも並み。
母は兄を見習えと日々口にしていた。
見習えと言われた兄は、僕を冷ややかに見て、馬鹿にしていた。
僕には……居場所がなかった。
* * *
いつの日か、僕は殴られることに馴れていた。
身体を殴られることが多かったが、時々顔に飛んでくるのだけは勘弁してほしかった。
いつも口の中は鉄の味と切れた皮で荒れていた。
僕は負けたくなかった。間違った事がまかり通る世界が嫌だった。
幼い頃に見たあんぱんの戦士だって、光の巨人だって、バイク乗りの戦士だって、どんなピンチからでも立ち上がってきた。
正義は最後に勝つのだ。
僕は、あの時の判断は間違ったことをしていないと今でも胸を張って言える。
間違っているのは、この世界だ。
悪に満ちた、この世界が悪いんだ。
だから、どんなに辛くても、どんなに悲しくっても、どんなに身体が痛くても、学校は休まなかった。
……休ませてもらえなかった。
そんな中、僕は一羽の希望を見つけていた。飼育小屋に買われていた一羽の茶色いチャボだ。
ミルクと名付けられたその子は大人しく、いつも僕は膝にミルクを乗せて撫でて休み時間を過ごしていた。
いつしか、ミルクの方から僕を見つけて寄ってきてくれるようになった。
撫でるとクゥクゥと甘えるように鳴いてくれていた。
とても……とても可愛いチャボだった。
でも、ある日。ミルクがいなくなった。
同じ色のチャボはいるが、トサカの形と、微妙に違う顔付き。それに数えてもやっぱり一羽足りていない。
授業が始まる前の僅かな予鈴の後、丸田教師が小さな段ボールとスコップを手に裏庭へと歩いていくのが窓から見えた。
思わず僕はそれを目で追った。裏庭の、草の生い茂る一角に、丸田がスコップで地面を掘り返し、何かを埋めた。
その場所はクラスで飼育されていた死んだ金魚やメダカを埋めている墓地のある場所だった。
そして、ある噂が聞こえてきてしまった。
別のクラスの男子がチャボを一羽殺したと。
次の休み時間、僕はその男子の元へと向かった。
小学校6年生の中で、間違いなく一番マッチョだと言える、全身筋肉質な男子だった。
彼は乱雑な人間だった。
チャボを殺したのは君かと問えば、嗤いながら答えた。
「ああ、俺。なんか、死んじゃった」
僕は悔しかった。あの子が、ミルクがこんな奴に酷い目にあわされている時に、助ける事が出来なかった。気付く事が出来なかったと。
すぐに僕は裏庭へと走った。
丸田が何かを埋めていた場所へ行くと、まだ手を付けられたばかりの小さな土山が出来ていた。
僕は……その山へと枝を折って十字を作り、目印として、簡素な墓標を立てた。
僕は、静かに泣いた。
* * *
僕は心が折れてしまった。
だからだろうか、ぼんやりと松沢達に宣戦布告のように、昼休みに屋上から飛び降りると宣言した。
彼らは笑っていた。
僕は折り紙に汚い字で『い書』を書き残した。
『もう辛いです 悲しいです 苦しいです さようなら たくじ』
そうして、最後のチャイムが鳴り、最後の給食が始まった。
昼休みになった後、屋上に出るドアの鍵が開いている事を知っていた僕は、一人屋上に立っていた。
秋の涼しげな風が吹き抜ける屋上。一歩一歩、落下防止のために囲われている手摺へと近付いていく。
低学年なら乗り越えるのが難しいだろう手摺も、高学年、6年生の男子の身体なら問題ない。
手摺を乗り越える為に手をかけて身を乗り出すと、遥か下の地面が小さく見えて、胸がキュッと痛みを訴える。
最低でも4階の高さはある。
落ちたら……運が良ければ大けが、悪ければ死は避けられない……。
自然と荒くなる息を吐きながら、震える手足に無理やり力を込めて手摺を乗り越え、僅かなスペースしかない外側へと降り立つ。
下を見てしまえば、ガクガクと無意識のうちに足が震えてしまう。
怖い。怖い怖い怖い怖い。
その時、屋上のドアが開く音がした。
「よおー、飛ぶんだろ?見せてみろよ」
松沢達因縁の相手がやってきた。
物怖じして二の足を踏む僕を煽るように、後藤が手摺を強く蹴り、ガンガンと大きな音を立てる。
……僕が手摺を握っている手を狙って蹴っているんだ。
「おいはやくしろよ!!つまんねーな!」
「てつだってやろうか?おらっ!ヒーローがたすけに来るんだべ?」
心臓が痛いほどドキドキしている。息も苦しくって……苦しくって……。
でも、本当に、これをしたら、楽になるのかな。
「3秒でいけよ!カウントダウン!!」
「さーん!にー!いーち!!」
背後から誰かが走って近付く音が聞こえて来る。きっと松沢のお得意の飛び蹴りが僕の背を押すのだろう。
軽快な足音が途切れ、タンッと床を飛んだ音がした時——。
僕は、手摺を握っていた手を離していた。
「は……?」
「うそっ!?」
僕の身体は宙を舞った。光の戦士が宇宙へと帰る時のように。
両手両足をまっすぐ伸ばして、どこまでも遠く遥かな空へ空へと飛んでいけるように。
不意に目の前をアゲハ蝶が通り過ぎた。綺麗なアゲハ蝶。ひらりふわりと自由に空を飛んでいる。
僕が……勇気を出せていたら、もしかしたら……。あのちょうちょみたいに。
小学生のいじめというのは、無邪気で加減を知らない分、苛烈な事が多い。
陰湿な中高生や社会人の物と比べると、容赦ない肉体的なもの精神的なものが多いのではないでしょうか
今般、いじめを苦にして命を諦めてしまう人が大勢います。 大人も子供も変わらずです。
子は親が思う以上に敏感です。親を心配させまいとずっと黙って抱えたまま、衝動的にいってしまう子もいます。
いじめは子供同士の喧嘩ではありません。歴とした犯罪です。
不祥事だと隠す前に、大人であるなら大人としての役目を果たしましょう。
誰かが庇えば、その庇った人が次の標的となる。 数多くの創作物でもそうであるように、人はどこまでも業の深い生き物です。
集団として団結するには、必ず何かしらの共通する敵が必要なのです。
この先、どれだけ頑張っても、人間が人間である限りいじめはなくならないでしょう。
動物でも、魚でも変わらず起こる現象です。
もし今悩んでいる人がいたならば
一人で抱え込まずに、誰か一人。友達でも家族でも、顔見知りのおじさんおばさんでも。
何なら私でも構わない。
相談してみてください。
あなたは一人ではないですよ たとえ、人でなくてもあなたに寄り添ってくれる味方は必ずいます。
忘れないで。
ツキカゲ ルイ




