フーコの冒険2
フーコの冒険2
こんにちは。わたしはジリスのフーコ。アメリカ生まれの女の子です。今わたしは優しい飼い主さんのお家で幸せに暮らしているの。一度、家出しちゃって迷惑かけちゃったから、何か恩返しがしたいなと思いながら今、回し車を爆走しています。
それは別にして、実は今わたしはピンチ。ドキドキしている。飼い主のユウちゃんのお友達が旅行に行くので、その間ペットの面倒を見て下さいと頼まれてしまったようなのです。わたしがいるからと、ユウちゃんは断ったらしいけど、他に頼る人もいなかったみたいでそのお友達は強引に連れてきてしまったの。名前は、とらちゃん。大人しいから大丈夫と言い残して、とらちゃんをおいて行ってしまった。別にとらちゃんがわたしと同じジリスだったら良かったけど、とらちゃんは茶トラの雑種猫の男の子。今もわたしのケージの前で、回し車を爆走するわたしを眺めている。わたしは怖かったけどいつまでも自己紹介しないのもおかしいから回し車から降りてケージの透明な壁に近付き、とらちゃんに挨拶した。
「ピュー、ピュー 」
「シャァァーッ 」
とらちゃんはいきなり大きく口を開けてわたしを威嚇した。
ひいぃぃーーっ
わたしはびっくりしてケージの隅に置いてくれてある透明な箱に牧草を詰めた巣箱に、スタタッと逃げ込み巣箱の中の草を被って様子を見ていた。とらちゃんはわたしが巣箱に逃げてしまうと、寂しそうな顔になり、わたしの逃げ込んだ巣箱をじっと眺めている。
えっ、今の挨拶のつもりだったのかな 逃げたりして悪かったかな
わたしが巣箱から、そっと顔を出すととらちゃんは嬉しそうな顔になる。
嬉しいのかな、でもどういう意味で……
わたしはまたケージ越しにとらちゃんの前に立って挨拶した。
「ピュー、ピュー 」
今度はとらちゃんは、フニャッと答えてくれた。やっぱり、さっきのはとらちゃんなりの挨拶だったのかなとわたしは納得していた。
* * *
今日は飼い主のナオくんもユウちゃんも二人ともお仕事で不在だ。わたしがしっかりお留守番しないといけない。わたしは回し車を爆走し気合いを入れていた。とらちゃんはどこか部屋の隅っこに入って寝ているようだ。そう思うとわたしも眠くなってきちゃった。
巣穴で少しお昼寝しよう
わたしも巣箱の中に入り草を被ってウトウトしていると、カシャンという小さな音が聞こえた。わたし、耳はいいから小さな音でも聞き逃さないんだ。
なんだろう?聞いた事のない音だよ
わたしは、ごそごそと巣箱から出てみると、そこに見たことのない男の人が立っていた。
誰だろう?何か嫌な感じがする
わたしが警戒していると、その男の人はケージの蓋を開けてわたしを捕まえようとする。わたしはケージの中で逃げ回っていたけど、このままでは捕まっちゃうよ。わたしは逃げながら巣箱の上に乗り、えいっとジャンプする。そして、ケージの縁に掴まって外に逃げ出し、そのままベッドの下に潜り込んだ。外に出ればこっちのもの。わたしを良く知っているナオくんやユウちゃんでも、お部屋の中の追い駈けっこでは降参してくるのに、こんな男の人にわたしを捕まえられる筈がない。わたしはベッドの下で様子を伺いながら、ナオくんとユウちゃんが話していたお話しを思い出していた。
「最近、闇バイトで雇われた人が強盗とか平気でやるみたいで物騒だよね 」
「そこの角の家の山田さんもこの前入られたって、お巡りさんが来てたよ 」
「うちは取られるような物はないけど、フーコに何かあったら大変だからね 」
「もし、フーコに酷い事する人がいたら私絶対許さないから 」
ユウちゃんが拳を握りしめて強い口調で言っていたのを思い出した。
この男の人、靴のまま上がって来てるし絶対闇バイトだよ
わたしはどうしようかと考えていると、ベッドの上のマットレスがいつの間にか外されて、ベッドのすのこがバキッと折られていた。そして、男の人はわたしを捕まえようとする。その時、わたしは恐怖よりも怒りを覚えていた。
ナオくんとユウちゃんが大切に使っている家具を壊すなんて許せない
わたしはベッドの下からスタタッと走り出すと、男の人の足に爪をたてた。でも、全然効かなかったみたい。わたしは元々は穴を掘る為にけっこう鋭い爪を持っているんだけど、わたしの小さな体では駄目みたい。ダメージを与えられない。わたしは戦法を変えて、男の人の足の小指に思い切り噛みついた。
「いてぇっ 」
男の人が声を上げる。わたしの歯は本気を出せば木だって削れるんだから。わたしはグルルと声を出してチョロチョロとベッドやタンスの後ろを移動しながら、男の人に攻撃を加えていた。
「この、くそネズミ ぶっ殺してやる 」
だから、わたしはネズミさんじゃなくて、リスなのぉ
男の人は怒って近くにある物をわたしに向かって投げてきた。
うわあぁっ
わたしは初撃は避けられたけど続けてどんどん投げてくる物にぶつかってしまった。
痛あーいぃ
大きなゴミ箱が当たってわたしは動けなくなっていた。
こんな乱暴な事、脱走したわたしを捕まえる為だってナオくんやユウちゃんは絶対しないよ
わたしは男の人にむんずと捕まれてしまった。男の人は、そのままわたしをぎゅうーと握り潰すように力を入れてくる。
苦しいよぉ
「ピュー、ピュー 」
わたしは苦しくて声を出していた。
ごめんなさい、わたしお留守番も出来なかった
だんだん意識が薄れてくる。幸せだったけど、最後ナオくんとユウちゃんのお家を守れなかった事が悔しい。
「こんな小動物の分際でふざけやがって 」
男の人の手に力がさらに入った時、鋭い鳴き声が聞こえた。
「フギャーーッ!!」
男の人は顔を押さえてよろめき、わたしは男の人の手から解放されていた。
とらちゃん
わたしの前に茶トラの毛を逆立たせて尻尾を膨らませたとらちゃんがいた。男の人は、とらちゃんの一撃で警戒したように身構えている。とらちゃんはわたしを心配そうな目でチラッと見るので、わたしは大丈夫と頷いた。とらちゃんも、にっこりと頷くと男の人に向かって走っていき、ジャンプすると再び爪を立てる。
「うわっ 」
男の人はまた顔を押さえて棒立ちになっていた。とらちゃんが、どや顔でわたしを振り返る。
さすが、とらちゃん
そこへ、カチャッと鍵が開く音が聞こえた。
「ただいまぁ 」
ナオくんの声だ。わたしはピューピューと大きく鳴いて早く来てとナオくんを呼ぶ。そして、何事かと慌てて部屋に入ってきて惨状を見たナオくんは、すぐにとらちゃんに攻撃されている男の人に飛びかかっていった。
「とらっ、どいてっ 」
とらちゃんがパッと横に飛び退くとナオくんは、男の人に強烈なタックルを浴びせていた。ラグビーをやっていたナオくんのタックルを浴びて男の人は呆気なくのびてしまっていた。
やったーっ
わたしととらちゃんは喝采を上げていた。
「フーコ、とら、大丈夫? 」
男の人を取り押さえながらナオくんはわたしたちを振り向く。
「ピュー、ピュー 」
「ニャゴ、ニャゴ 」
わたしととらちゃんは顔を見合わせて大丈夫と答えていた。そして、一緒に帰ってきていたユウちゃんがすぐに警察に通報し男の人は逮捕された。
* * *
それから、3日が過ぎてとらちゃんの帰る日がきた。とらちゃんは飼い主さんが持参した移動用のケージに入っていく。そして、わたしの方を振り向くと、ニャーッと鳴いてパチンとウインクした。
「ピュー、ピュー 」
わたしもとらちゃんにウインクしたけど、間違って両目瞑っちゃった。でも、とらちゃんには伝わったみたい。とらちゃんはニッコリと微笑んでくれた。そして、とらちゃんは飼い主さんに連れられて帰っていった。
とらちゃんが帰っていったドアを見つめているうちに、何故かわたしは寂しくなってナオくんとユウちゃんに甘えていた。ナオくんとユウちゃんも、今まで以上にわたしを可愛がってくれた。二人もとらちゃんがいなくなって寂しかったのかも知れないよ。わたしは、ユウちゃんに抱っこされなでなでされながら、またいつかとらちゃんに会いたいなと思っていた。
お読みくださりありがとうございます。
感想頂けると嬉しいです。
リアクション機能というものも実装されたようなので、それも使ってみて下さい。
よろしくお願い致します。