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戦国日本を世界一豊かな国へ!  作者: わびさびわさび


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第92話 大帝

1548年(豊新2年)4月10日 越後 春日山城



「バブ〜〜、バ〜〜〜、キャハ」


「おおおぁ!!見たか虎?六郎が儂を見て、笑いおったぞ!」


「あなた、何を言っているのです?六郎は、私に微笑んだのですよ。そうですよね~六郎~」


大殿と、赤子を抱く虎御前の目尻がこれでもかというほど垂れ下がっている。口元は常に緩みっぱなしで、孫の顔を見ている間は、普段の疲れも、腰の痛みもどこへやら。孫が指を動かすだけで「おお、天才か!」と、まるで新たな世界を発見したかのように目を輝かせている。



何かと忙しかった豊新元年が終わり、新たな年を迎え、未だ遠くの山々には残雪の残る初春に千代が春日山城にて待望の男の子を出産した。


くりくりとした瞳が可愛い、元気な子だ。

千代の産後の経過も良好どころか、呂宋への出征時に千代に土産で買って来たアラブ馬の駿馬を、楽し気に乗り回すほどには回復している。


流石、軍神さん結構タフだ。


生まれた子は長男ににも関わらず、何故か六郎と名付けられた。

大殿が強硬に主張した為だが、大殿が言うには何でも、長尾家では生まれた嫡男には六郎と名付けるのが伝統があるらしく、大殿や先代・晴景の幼名も六郎だったらしい。

まぁ、元服したらどうせ改名するから、別にいいんだけどな。


それよりも、この大殿夫妻、六郎が生まれてから日を空かす事無く六郎の顔を見にやって来ては、デレデレしていくのだ。六郎を可愛がってくれるのは有り難いが、よく飽きないものだとは思うわ。


六郎の誕生には、帝からも祝いの言葉を賜ったし、家臣や領民も大いに喜んでくれた。領内では酒が振舞われた事もあり、一週間程はお祭り騒ぎだった。


「おい虎!お主ばかり抱いておらず、少しは儂にも抱かせぬか。」


「駄目ですよ。あなた、先日も六郎を泣かせたばかりでは有りませぬか。」


「父上は、加減を知りませぬから。それでは、六郎に嫌われますわ。」


「うむぅ〜〜。」


ジジイが、拗ねた顔で援軍を求める顔して此方を見てくるが、知らんわ。


「そういえば婿殿、南方は上手くいって居るのか?」


諦めた大殿が、あからさまに話題を変えた。


「旧スールー王国にて反乱未遂、保護国としたミンダナオ島ブトゥアン王国領にて隣国のマギンダナオ王国との小競り合いが起きましたが、大規模な戦闘には至ってはおりませぬ。やはり、一筋縄ではいきませぬな。ただ、呂宋北部・中部は比較的平穏で我等との経済的繋がりを求め、接触して来る国や部族も増えてきております。」


現状、呂宋には越後、東海水軍の一部、5千の水軍と武田信虎、長野業正、2人の軍長を残してきた。本格的な紛争にでもならない限りは大丈夫だろう。


「まぁ、概ねは順調と、いった所か。」


「そうなります。」


「にしても、もう10年も前になるか、あの時お主と初めて会った時に、儂は初めて世界を知った。それまでは、越後を纏める事ばかりに苦心し、世界所か日ノ本の事すら考える余裕など無かったわ。そんな儂が、まさか海を越え高山国、そして呂宋にまで赴く事となろうとは、お主とあそこで出会わねば、儂の世界は越後迄じゃたろうな。」


ん?大殿と初めて会ったと云えば…大殿が、日ノ本屋にアポ無しでいきなり押しかけて来た時の事か?

あの時は、酷い目に会った……が

考えてみると、あそこで大殿と出会ったお蔭で此処まで順調に来れたんだろうな。

少しは、感謝してやっても良いかもな。


「フフフフ。懐かしい話ですな、世界は広かったでしょう?」


「あぁ、想像以上に広く、多様性に満ち溢れておったわ。」


干物を肴に、チビチビと飲み始める大殿


「ほら、何をしておる。あ主も飲まぬか。」


ご機嫌に、俺にまで酒を注いでくる。


仕方ない、たまには付き合ってやるか。





1548年(豊新2年)4月10日 イスタンブール トプカプ宮殿



三方をボスポラス海峡とマルマラ海、金角湾に囲まれた丘に築かれた壮麗なトプカプ宮殿、オスマン帝国の君主が居住する帝国の富、権力と美の精髄を凝縮したこの宮殿は、一歩宮殿の内部へと足を踏み入れれば、そこには光と色彩が織りなす絢爛豪華な世界が広がっていた。

壁一面を埋め尽くす細密な絵柄のイズニク・タイルや、アラビア文字で書かれた荘厳なカリグラフィーは、差し込む光を受けてきらめき、見る者の目を奪う。

天井からは、異国情緒あふれる巨大なシャンデリアが吊り下がり、部屋全体を荘厳な輝きで満たしていた。金糸銀糸で織り込まれたクッションや、真珠と翡翠で飾られた螺鈿細工の箱、そしてペルシャから運ばれたであろう緻密なアラベスク模様の絨毯。一つ一つの調度品が、帝国の膨大な富と、世界中から集められた最高の職人たちの技を物語っていた。


この時代で最も壮大で豪奢な、この宮殿の現在の主は、第10代オスマン皇帝、"大帝"、"壮麗"の帝"、そして"立法帝"などと称えられ、幾度もヨーロッパ遠征を行いヨーロッパ中を恐怖に震え上がらせた男。その偉大なる名を世界に轟かせ帝国の黄金期を現出した名君と称えられるスレイマン1世となる。


この日、歴代皇帝内でも最も偉大な皇帝として称えられるスレイマン1世は、不機嫌そうに大宰相リュステム・パシャ・オプコヴィッチ からの報告を受けていた。


「現在、開戦中のサファヴィー朝(イランを中心としたイスラム王朝)との戦ですが、敵ゲリラと焦土戦術により、我軍は苦戦を強いられております。」


「自らの街や田畑を焼き払うとは、自らが首を絞めると同義ぞ。これだから、家無しの遊牧民共の相手は、面倒なのじゃ。奴等を草の根わけてでも探し出し、皆殺しにしてやれ!」


「とは申されましても陛下、砂漠に草など生えませぬ。」


「そんなもん、判っとるわ!比喩じゃ!お主、大帝舐めとんのか?舐めてるよな?」


「舐めてはおりません。陛下の無聊を慰め様とした、大宰相ジョ〜クで御座います。」


「慰められんわ!アホンダラ!………まあ…良いわ。それで、対応策は?」


「その前に、もう一つ御報告が御座います。」


「なんじゃ、まだなんか、問題があるのか?セラちゃんを待たせておるのじゃ、手短にな。」


「…このエロジジィ…(ボソッ)」


「ん?何か申したか?」


「いいえ、何も。現在東方にて、ポルトガル海上帝国の動きが活発化して来ておりまする。東方における香料貿易の重要な中継地、インドゴア、マラッカを占領しマラッカ以後、東南アジアから東アジアにまで貿易網を拡大し、東方地域の交易を掌握しつつあります。」


「目障りな、異教徒共よな。」


「そして、近年ではインドのグジャラート王国よりダマン、サルセット、ボンベイ、バセイン、ディーウの各都市を併合、グジャラート王国、マラッカのアチェ王国、そればかりか、その侵攻の矛先は南方のブルネイ、テルナテ、ティドレ王国に迄及び各国より救援を求める使者が頻繁に参っております。このままでは、イスラム世界の盟主たる帝国の威信に関わります。」


「そんな事を言うても、我が帝国海軍の主戦場は地中海よ。東方艦隊は先頃のポルトガルとの海戦での敗戦の傷は未だ癒えておらぬ。取り急ぎ船を増やそうにも、あの一帯は砂漠地帯じゃ、材料となる木材を探すのも一苦労ではないか。地中海や黒海の船を、陸を曳いて運べ等とは言うてくれるなよ。」


「その様な事は、申す心算はありませぬ。陛下スールー王国はご存知でしょうか?」


「ん?…確か、我が国に朝献しておった南方の国じゃな、周辺国へ海賊行為を行う無法国家として、周辺国から度々非難されておったの。なんじゃ、まさかスールーを使ってポルトガルを牽制するとでも?たしかに、船の数は多いやもしれぬが、その質はどうなのじゃ?上手く行くとも思えんが。」


「いえ、そのスールー王国ですが、先年滅亡致しました。」


「なに?何処に、滅ぼされた?」


「極東の島国、ジパングと申す国によって、滅ぼされた様です。何でも、ジパングの船を襲い海賊行為に及ぼうとした所を、逆に艦隊を殲滅され、その報復に王都を1日で攻め滅ぼされたと。」


「それは、完全なスールーの自業自得よな。それにしてもジパングとは、聞かぬ名よな…。そういえば、異教徒共が一時期【黄金の国】と騒いでおったのがジパングでは無かったか?」


「そうで御座います。どうやら、黄金の国と言うのは眉唾な話しの様ですが、ジパングの兵は随分と精強にして、船を巧みに操るとか。」


「ほう……それは、面白いな。ジパングを取り込めればポルトガルを牽制すると同時に、サファヴィー朝に東から圧力も掛ける事が出来るか。」


「はい。勿論、あちらもタダでは動かぬでしょうが。」


「そうじゃろうなぁ。取り敢えず使者を送るか。カピチュレーション(通商・居住の自由、租税免除、身体・財産・企業の安全などを保障する商業特権)位は、なんなら認めてやっても良い。」


「カピチュレーションまで与えるは、やり過ぎの様な気はしますが。交渉次第で御座いますかな。」


「東方の憂いを、2つも消せるとなれば安いモノじゃが。リュステム、そのジパングとやらがちゃんと使えるかどうかは、しっかりと吟味致せよ。それと…」


「ポルトガルに代わり、東方にて力持たれても厄介ですな。」


「判っておるなら良いわ。さあ、時間じゃ下がれ。」


そう言って、玉座を後にするスレイマン1世の後姿は、正に大帝と称えられるに相応しい威厳に満ち溢れたものだった。

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