第88話 呂宋
1547年(豊新元年)8月13日 台湾海峡
「私は、熱いお茶が好きだと言わなかったかしら?。ほんと役にたたない、ヒゲ豚ですね。」
「……へい。すいやせん…」
「なにかしら、その気の抜けた返事は?返事もまともに出来ない豚には、、また躾が必要かしら。」
「!?はい!はい!はい!どうか躾は、ご勘弁を奥方様!」
「返事は3度も要らないわ。何度言っても理解出来ない豚には、お仕置きね。」
「ひぃ〜〜〜〜〜どうか、ご勘弁を〜〜〜」
先日の宴にて行われた飲み比べにて、俺の予想通り美雪に完敗した、哀れな奴隷の悲痛な叫びが響く。
うん。さすが美雪さん…容赦ねぇーな。
まあ、平八には良い薬になるだろうし、美雪もそのうち飽きるだろ。
俺達は現在、新北での補給と休息を終えて、船は一路フィリピン諸島最大の島であるルソン島に向けての航海の最中である。
台湾からルソン島迄は、速ければ2日とそれ程の距離ではない。このまま行けば明日にはルソン島が見えて来るだろう。その後は、うちの戦力を見せ付ける為に幾つかの港に寄港しながら南下し、フィリピン諸島のほぼ中央にあるセブ島を目指す予定だ。
セブ島の南部フィリピン諸島南西部に位置し、ミンダナオ島とボルネオ島との間に位置するスールー海に浮かぶホロ島が、フィリピン諸島の住民や商人達から【海賊国家】と恐れられているスールー王国の本拠地である。
その、ホロ島の海賊の殲滅がこの出征の最終目的となる訳だ。
せっかく、こんな所まできたのだ。早くケリを付けて、南の島でバカンスと洒落込みたい所だな。
「相変わらずですな、美雪様は…」
苦笑いを浮かべながら、話し掛けて来たのは、現在では南方軍の副軍長を務めている、元近習の秋山信友だ。
近習時代のトラウマの為か、若干顔色が悪い様に見えるが、信友も幾つもの戦に参戦し軍務をこなす事で経験を積み立派な武将に育ってくれた。
名前:秋山信友 男
・統率:75/83
・武力:82/88
・知略:78/81
・政治:67/75
・器用:72/80
・魅力:70/75
適性:騎馬 突撃 土木 築城 水軍
火器
史実では【甲斐の猛牛】と渾名された男の割には、武力だけで無く知略も政治も高く、適性も多彩で有る。間違い無く将来の軍長候補だな。
信友の後ろには、見習いとして此度の出征にも同行しているノッブと、その子分達である丹羽長秀、池田恒興、前田利家、佐々成政達の姿も見られる。
どうやら、悪餓鬼達も真面目にやっている様だ。
皆真っ黒に日焼けして精悍な顔付きとなって、その能力にも成長の跡がみられる。
名前:丹羽長秀 男
・統率:57/83
・武力:27/70
・知略:52/88
・政治:48/88
・器用:45/75
・魅力:40/75
適性:政務 建築 補給
名前:池田恒興 男
・統率:37/75
・武力:32/72
・知略:38/71
・政治:12/72
・器用:35/92
・魅力:32/72
適性:弓 職人 土木 水軍
名前:前田利家 男
・統率:31/82
・武力:25/83
・知略:41/75
・政治:12/88
・器用:35/78
・魅力:15/80
適性:槍 幸運
名前:佐々成政 男
・統率:38/81
・武力:38/87
・知略:45/80
・政治:11/65
・器用:38/82
・魅力:35/75
適性:火器 騎馬
流石、信長の手足となって信長の天下取りを助け後世にまで名を残した武将達だ。
皆、無事に成長すれば、これからの長尾家、日本を代表する武将達に成ってくれるだろう。
ノッブも含めて皆、十台も前半である。
若い内から世界を知り苦労するのは、良い事だと思うから、頑張ってくれよ。
この出征は、俺の近習達にも良い刺激になると思っている。俺は、なにも南国でのバカンスを求めて此処まで来た訳じゃないからな!
若者の成長を願っての事だと、その辺は理解しておいて欲しい。
1547年(豊新元年)8月17日 マニラ沖
「クククク。あちらの使者殿は、随分と青い顔で帰って行きおったな。」
「フフフ。この大艦隊を見せ付けられたなら、致し方有るまい」
「あちらの警備の者は、千はおりますまい。此方がその気になれば、あっという間に蹂躙出来ましょうな。」
「此処では戦になりそうにありませぬか…」
大殿、宗滴、武田信虎、長野業正、4人の軍長が愉快そうに話しているのが聞こえる。
ルソン島北部の拠点・亜巴里に到着し、ルソン島周辺の拠点防衛に付いていた里見義堯の艦隊と合流した後に、艦隊を二手に分けた。
鈴木重家率いる南方水軍と春日将次郎率いる東海水軍はルソン島を東周りで南下しセブ島を目指し、残る俺達、越後水軍は西廻りにてルソン島の最大都市のマニラを経て南下していく予定となっている。
この7000以上もの島々からなるフィリピン諸島には、後にスペインが進出する迄は、統一勢力は生まれず、文化・宗教・言語すらも異なる20以上の中小の王国が存在し、中にはどの国家にも属さない民がジャングルや山岳地帯、多くの島々に点在して暮らしている。そのフィリピンの中小国家は商人、海賊が集まって規模が大きくなってそれぞれ国家化していったものが殆どだが、その中の一つが今俺達の船が停泊している、国際貿易港マニラを支配するマニラ王国だ。
此度の出征において、通商関係に有るフィリピンの各王国には、一応は
『周辺海域の海賊討伐の為に艦隊を派遣する』
と云う通知は送ってあるのだが、王国が思っていた以上にこちらの戦力が多かった様で、一時マニラの街は蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。
マニラ周辺でも、海賊が頻繁に現れているようだし民からみたら、海賊船かどうかなんかは、ぱっと見では判らんからな。
恐る恐る船を訪れた、マニラ王国の使者には改めて来訪の目的を告げると共に、友好の証と言って大量の陶磁器、硝子製品、絹、北海の産物等を渡しておいた。
その代わりに、明日の交渉では自由貿易と神道と仏教の宣教師の滞在と布教を認めさせるつもりでいる。
このマニラには、5日程滞在する予定だ。
此処まで来ると、海賊の本拠地であるパラワン島も近い。
少し策を弄しておきたいし、せっかく積んできた大量の交易品を売り捌かないとな。
タップリと、稼がせて貰うとしようか。
1547年(豊新元年)8月19日 マニラ市街裏町
日が落ち、闇がすべてを覆い尽くすと、マニラの裏路地はさらに危険な顔を見せる。家々から漏れる松明の頼りない光だけが、わずかに道を照らす。闇の奥からは、不審な物音や、何やら言い争う喧噪が聞こえてくる。
そんなマニラの裏路地のあばら屋に、真っ黒に日焼けした、一目見ただけで暴力を生業にして生きている男だと判る、2人の屈強そうな男達が話し込んでいた。
「おい、聞いたか?」
「ああ。なんでもジパングから、大船団がやって来たらしいな。」
「そうだ。それが、随分と気前の良い連中らしいぞ。」
「ほう…。」
「なんでも、マニラ王に大層な進物を献上したそうな。その、豪華さに王も随分と驚いていたそうだ。」
「奴等の交易品は、うちの国でも高値で取り引きされていたな。」
「ああ。商いでも、かなり儲けているだろうな…」
「随分と旨そうな獲物では有るが……」
「奴等は大軍の上、武装もしておる。狙うなら、此方も被害は覚悟せねばなるまいな。」
「それがな、あの船団の一部が先行してセブに向かうらしいぞ。セブ王に献上する豪華な献上品と共にな。」
「なに!?その話は、確かなのか?」
「たらし込んでいる、港の衛士から聞いた話よ。間違いねぇ。」
「でかした!ボスに報告すりゃ、きっと褒美がでるぜ。セブ王への献上品ともなれば分け前も相当なもんになる。俺等も、王国の正規兵も夢じゃないかもな。」
「だろ?王国の正規兵ともなりゃ、女も酒も食い物も好きな様に略奪出来るぜ。」
「へへへ、その為にゃあもう少し、詳細な情報が欲しい所だな。」
「あぁ。ボスに報告する前にもう少し裏取りしたい。」
その言葉を最後に、男達は路地の暗闇に消えて行った。




