第83話 南北朝時代
1547年(天文16年→豊新元年)5月上旬 春日山城
「旦那様、この【豊新】(ほうしん)の元号にも漸く、慣れてまいりましたわ。」
「私は、この新たな元号好きですわ。」
「豊で新たなる時代で【豊新】で御座いますか、これからの時代にぴったりですわ。」
即位の礼より一月が経ち、忙しい事は相変わらずではあるが即位の礼と、その後の服属を願う大名や国衆達との面談を終えた事により多少の余裕が出てきた所だ。
先の、即位の礼にて諸国に大々的に、日ノ本に新たな政権が誕生した事と、それに伴い新たに【天文】から【豊新】への改元を大々的に発表した。
この時代、改元は室町幕府と朝廷による協議により決められるのが慣例であったのだが、此度の改元は完全に長尾家の主導の元に行われたのだ。諸国の大名達も日本に長尾家と云う、新たな支配者が誕生した事を思い知った事だろう。
とは言っても、東北、東海の東日本の大名達は長尾家に服属の動きを見せてはいるが、畿内・中国・九州等の西日本の大名家の動きは鈍い。
その最大の要因は
「それにしても、堺に新たな南朝の誕生ですか?本当にうまくいくと思っているのでしょうか?」
「上手くいくかどうかより、最早それしか道が無かったのでは?」
「今なら、簡単にすり潰せますけど、新様潰しますか?」
数日前、情報局から齎された報告によるとかつての、南朝の皇族の遠縁を擁立し堺にて新たなる朝廷を立ち上げる計画が大詰めを迎えているらしい。
その主犯は、室町幕府13代将軍・足利義晴と細川氏綱等の取り巻きに、五摂家筆頭の近衛 稙家を中心とする越後に下向しなかった幕府寄りの貴族達が働き掛けた形だ。
「まあ、放置でいいだろ。こちらは、少なくとも後1〜2年は内政で足元を固めて置きたい。長尾家は急速に大きく成りすぎた。暫くは、内政に力を注ぐ。そもそも……」
「今の状況を見れば、とても纏まらぬでしょうね。」
「踏み潰すのは、簡単ですわ。」
「時を掛ければ掛ける程に敵方との実力差は広がります。此方は、焦る必要は有りませんね。」
現状の畿内の争乱の根は深く、その根は複雑に絡み合っている。とても、諸勢力が一枚岩で纏まるとは思えないし、既に天下の趨勢が決まりつつ有る中、それは単なる悪あがきに過ぎない。
というか、将軍も先頃の戦の醜態で大きくその威信を下げ、将軍派の貴族達も朝廷に見捨てられて窮した結果、取れる手立てがこのくらいしか無かったのが現状であろう。
こちらとしては正当な帝を担いでドンと構えていれば、問題は無さそうだと思っている。
寧ろ、敵対勢力の炙り出しや討伐の名目に役立ってくれるのではと、期待しているぐらいだ。
この状況って、後世の教科書では【新南北朝時代】とでも呼ぶのかな?それとも【越後春日山時代】か?
まあ、どちらでもいいか。
こちらは、シッカリと足元を固めて置けば、諏訪ちゃんの言う通り、その力の差は開くばかりだ。
長尾家の急拡大による組織の再編、新組織の立ち上げも、徐々に軌道に乗り始めている。既存の政務局・財務局等に加え新たに街道整備や駅馬車、治水等を担当する国土開発局、新貨幣の発行流通を管理する造幣局、その貨幣偽造を取り締まる偽造対策局、技術局、芸術文化局、主として開発の遅れている出羽を含めた奥州の内政・開発を主導する奥州局、そして東南アジア地域への進出、交易、開発を進める南方局、等が新たに開設される事となった。
国土開発局・局長には信濃川の改修工事を順調に進めている水越勝重を抜擢させてもらった。政治力よりも治水や街道整備などの土木知識や経験が生きる職である。多くの難工事をこなしてきた、勝重は適任といえる。
先にも述べたが造幣局長と偽造対策局・局長には、それぞれ織田信秀、斎藤道三を任命させて貰う。2人共にこの時代には稀な、経済感覚に優れた武将である。
こちらも、適任だと俺は思っている。
なんとか、やっていってくれるはずだ。
俺は二十年以内に日本で産業革命を起こすつもりでいるが、その為に立ち上げたのが技術局だ。
産業を成功させるには、資本の蓄積、市場の確保、労働力の確保、そしてそれらを効率的に運用するための技術革新が必要だ。
その技術革新を目標に立ち上げた技術局の初代局長に任命したのは平岡玄葉、工房叩き上げの生粋の技術者である。
現在は蒸気機関や電気等、科学技術の基礎研究を行っている。産業革命を目指すならば、様々な基礎技術の発展は産業の裾野を広げる事は必須となる。長期間に渡る計画となるだろうが、是非にも達成してもらいたい所だ。
また俺は、乱世を本当の意味で終わらせるには、武力だけでは足りないと思っている。経済を発展させ人々を豊かにすると同時に、荒んだ心を癒す為の多様な芸術文化も今後は必要となってくる。その振興を後押しするのが、芸術文化局である。
初代局長には朝倉孝景、副局長に浅井久政
を任命した。両者共にこの時代において珍しい芸術文化に造詣の深い者達だ。元お隣さん同士、仲良くやってくれ。
そして、此度の人事でおそらくは一番の貧乏くじを引いたと思われるのが初代・奥州局長に任命された、安東 舜季じゃないだろうか。
内政は、ほぼ手つかずの広大な奥州地域、その内政を一手に引き受ける形となりますが……どうか、ご無事で。
本人も、この抜擢に
『有難き幸せ!必ずや御期待に応えて見せます!』
と、喜んでいたし一応、安東家は屋形号を持つ奥州の名家だ……健闘を祈っている。
南方局の局長については、この時代海外の知識を知るものが少なく、その選任は難航したが、琉球総督を任せていた北条幻庵を任命する事とした。
幻庵は、東南アジア各国との折衝を上手く纏めてくれた実績が有る。その経験を、生かして欲しいものだか。空席となった琉球総督には副総督の飯富虎昌を昇進させ、副総督に元近習の斎藤朝信を抜擢した。朝信も平八の下で経験と実績を積んで成長してくれた、もう重責を任せても大丈夫だろう。
先頃の戦での大幅な領国の拡大に伴い、軍事体制についても、その大幅な見直しを迫られる事となった。
先ずは、広大な長尾領を六つの軍団に再編する事となった
◯北國軍
軍団区域;越後・越中・信濃・能登・
加賀・甲斐・越前・佐渡
総石高;300万石
正規兵;7万
予備役;10万
軍長;長尾為景 長尾千代 武田晴信
朝倉宗滴 柿崎景家 六角定頼
副軍長;千坂 景長 岡部元信 鬼庭良直 酒井忠次 相馬盛胤 斎藤義龍
甲信越地域を軍管区とする、長尾家の本軍
となる軍団だ。兵の質から指揮官の質まで長尾家の最強を誇る軍団で、軍団長は俺だ。
◯奥州軍
軍団区域;奥州・出羽
総石高;190万石
正規兵;3万
予備役;3万
軍団長;村上義清
軍長;伊達晴宗 蘆名盛舜
副軍長;横田高松 色部勝長
奥州は、今や外敵に襲われる可能性は低い。
とりあえず、街道整備や治水に励んでください。お願いします。
◯関東軍
軍団区域;武蔵・相模・上野・下野・下総・上総・常陸・安房
総石高;290万石
正規兵;5万
予備役;7万
軍団長;北条綱成
軍長;武田信虎 長野業正 南部晴政
副軍長;太田資正 多目元忠 笠原康勝
関東軍は、関八州を軍管区とする軍団で
軍団長は名将・北条綱成、ちゃんとジジイ達の手綱も握っておいてくれよ。
◯東海軍
軍団区域;尾張・美濃・三河・遠江・
駿河・伊豆・北伊勢
総石高;200万石
正規兵;5万
予備役;6万
軍団長;古賀京志郎
軍長;今川義元 太原雪斎
副軍長;柴田勝家 稲葉一鉄 穴沢俊光
尾張・美濃は地勢的に畿内の敵対勢力に対する上で重要な位置を占める。
その為、領国化を急ぎ、多少無理をして東海軍に組み込んだ。
そんな重要な地を護る軍団長は、古賀京志郎、うちの古株で俺が最も信頼を寄せる男だ。
◯近江軍
軍団区域;近江・若狭・丹後・伊賀・
山城北部
総石高;110万石
正規兵;3万
予備役;5万
軍団長;北条氏康
軍長;内藤昌豊 武田信繁 馬場信春
副軍長;蒲生定秀 滝川一益 不破光治
敵対勢力との最前線となる近江軍の軍団長には、軍事だけでは無く、新領を纏める政治力と統率力も必要となってくる。臨時で任せていた氏康を、そのまま軍団長として任命する事とした。氏康なら荒事から敵勢力との折衝まで無難に、こなしてくれるだろう。
◯南方軍(南方水軍)
軍団区域;琉球及び南西諸島・高山国(台湾)
総石高;35万石
正規兵;1万
水軍; 1万
軍団長;鈴木重家
軍長;里見義堯
副軍長;秋山信友 矢沢頼綱 正木時茂
そして、発展が著しく今後重要性が増すであろう琉球、高山国の兵権を統一し新たに
南方軍を設立した。東シナ海の制海権を握る要となる、この南方軍の初代軍団長には鈴木重家を任命した。山賊の様な見掛けによらず、中々器用な男である。俺の意を汲んで臨機応変に対応してくれるだろう。
因みにだが、俺の弟分であるノッブのたっての希望で、この南方軍にノッブとその愉快な悪餓鬼達を、派遣する事が決定した。ノッブの他に、丹羽長秀、池田恒興、前田利家等、何処かで聞いた事が有る連中である。
重家、子守は頼んだ。
こうして、戦国乱世は新たな局面を迎える事となったのだった。




