第82話 馬揃え
1547年(天文16年)4月1日 越後 春日山城
「中々、見応えある式でしたわね中将様……いえ、大将様とお呼びした方が?」
「いや、今までのままでいいさ。やっと即位の礼も終わったな。後は…」
日本国内の諸侯に留まらず、琉球の王族・蝦夷のアイヌの代表、台湾の有力部族の酋長から貿易上長尾家と親密な関係を築きつつあるタイのアユタヤ王朝、ビルマのタウングー王朝、ベトナムの大越等各国からの使者を招いて春日山城下で新たに建設された内裏にて行われた【即位の礼】その参列者数、費やされた費用、その規模は間違い無く歴代の帝の中で最大のものとなったであろう。
この即位の礼に対しては、俺は金は出したが口はそれ程出しては居ない。
公家達がやけに張り切っていたし、宮中行事の事など俺にはさっぱりだからな、基本公家達に丸投げした状態だ。
スポンサーの俺としては、即位の礼の名目で呼び寄せた諸侯や海外の参列者達に長尾家の経済力とその武威を見せ付ける事が出来れば、それで満足だ。この式を通して随分と長尾家の威信も高まった事だろう。
これだけの力を見せ付けておけば、余程愚かでは無い限りは当家と敵対しようとは思わないだろうが……念の為に参列者達にもう一押し、して置こうと思っている。
それが
「中将様、間もなく馬揃えが始まりますわ。」
帝や公家達や多くの参列者や民が見守る中行われる馬揃え、長尾家の精鋭達が参加する大規模な軍の閲覧式、現代で言う軍事パレードだ。
「う〜〜〜。私も参加したかったですわ。中将様!」
そんな事言っても、あんた馬にマトモに乗れないやん。
諏訪ちゃんは頭は良いが、運動系は苦手な文化系なんだよな。
もろに体育会系の2人の嫁は、しっかりとおめかししてパレードに参加予定だ。
【越後戦記】で一躍、日本中で有名になった彼女達をその眼で見る為に遥々越後までやって来た熱心なファンも多い。2人は、このパレードの主役と言っても過言では無い。
俺は?俺は、閲兵する側だからな、今日は諏訪ちゃんと一緒に観覧席にて見物だ。
「次の馬揃えまでには、馬に乗れる様に頑張りますわ。今日は、お姉様方を応援すると致します。あら、始まりましたね⋯」
大きな声援を受けながら先陣を飾るは、
うちの古株とも云える信濃軍長・古賀京志郎、先日嫡男も誕生して公私共に充実している。京志郎とは長い付き合いだが、荒々しかった性格も随分と落ち着き、一軍の大将として充分な風格と能力を兼ね備えた武将に成長してくれた。
因みに、御祝儀は弾んで置いた。これからも、うちに貢献していって欲しい。
京志郎に続いて姿を現したのは、越中・飛騨軍長・柿崎景家、長尾家生え抜きの猛将だな。先日の戦でも副軍長・馬場信春と共に畠山勢を相手に見事な包囲殲滅戦を敢行してみせ、ただの武勇を誇るだけの武将では無くその智謀も侮れるもので無い事を証明してくれた。
長尾家譜代として、その忠誠心も高く頼りになる男だ。
続いて駿馬に跨り登場した若者は、甲斐軍長・内藤昌豊、断絶していた武田家譜代の名門・内藤家の姫を嫁に迎えてその名跡を継承し苗字を工藤から内藤に改めた、俺の元近習だ。戦乱で荒れた甲斐の軍長を任せているが、その甲斐を巧みに纏めるその手腕は流石、史実で武田四天王の一角として称えられただけの事は有る。
元近習が、立派な大将に成長してくれて俺も嬉しい。
「俺も、あんな立派な大将に成りたい…けど…」
「大丈夫だ昌景。お前なら、近い内に日ノ本、いや世界に名を轟かす様な大将に成れる。」
「!?……精進致しまする!」
後ろで近習の山県昌景が自信無さそうな顔で呟いていたから、激励して置いた。
こいつは、優秀なんだがどうも自己評価が低いんだよな。お前は史実では武田四天王の筆頭格なんだから、もっと自信を持っていいんだぞ。
続いて【地黄八幡】の旗印を掲げて颯爽と登場したのが、武蔵軍長・北条綱成、その卓越した用兵と勇猛さにより敵兵を震え上がらせる存在だが、義理堅く面倒見の良い男で兵卒や民衆からも人気のある男だ。現に、綱成率いる武蔵勢が現れてから観衆の声援が一段上がった。
綱成は、今では我軍に欠かせ無い将と為って居るな。
そして⋯⋯問題爺達の登場か⋯
観衆達のどよめきと共に現れたのが、三頭の馬が牽く巨大な馬車に搭乗する上野軍長・武田信虎と、先の戦で手柄を挙げて新たに下総軍長に任じられた長野業正だ。
このジジイ達がそれぞれ搭乗するのは、古代ローマやペルシア等でチャリオット(戦車)と呼ばれて古代では戦の主力を務めた兵器である。
ただ、このチャリオットは地形の制約を受けやすく、コストが非常に高くつく為、より機動力の高い騎兵戦術の進歩と共に歴史からはその姿を消した。
当然、平野の少ない日本でも活躍の場は限られるが、石弓砲を搭載し高い機動力と高火力を両立させたその性能は侮れない。広大な平野の有る海外なら、その使用に問題は無いし戦術の幅も広がる。結構有効だと思うんだよな。
そんな戦車に搭乗し高笑いを挙げるジジイ達。
まぁ、ジジイ達が楽しそうで何よりだ。
そしてここからは、先の戦で六角勢を粉砕し今や日ノ本一の強兵と恐れられている長尾軍の主力軍団・越後軍だ。越後5軍長の内、氏康君には現在、近江・若狭・丹後・京の統治と畿内の敵対勢力の牽制を任せている為、今回は欠席だ。
盛り上がる観衆達の声援に迎えられながら
黒地に金字で描かれた【風林火山】の旗印を掲げ堂々と登場したのは、武田晴信、戦での差配も超一流でその上、謀略から政務も卒なくこなす。
この時代を代表する武将だ。此度の内政デスマーチでも、晴信の援軍にかなり助けられた。
旧武田の旧臣を多く取り込んだ晴信の騎馬軍団は、今では長尾家最強と呼び声も高く、現在は美雪の白龍隊を参考に銃騎兵の育成に取り組んでいる。
うん。敵に成らずに済んで良かった。
観衆達の歓声に、何処か困惑が混じった
そう、長尾家が誇るクレイG達の登場だ⋯
山科の戦いにて、天下の征夷大将軍を散々に追い掛け回した話が広まり、このジジイ達の知名度も最早、日本全国に広まっているのだが⋯
彼奴等⋯先日俺がノッブ達を驚かす為に付けた首狩族の仮面と似たような派手で不気味な仮面を着けて登場しやがった⋯そりゃ観衆も困惑するだろ。その仮面の不気味さに泣き出した子供まで居るし⋯
纏う衣装も孔雀の羽根や金びかの装飾品で彩られ、まるでハロウィンの仮装行列の様な有様である。
まったく、どれだけ派手好き、目立ちたがりの爺さん達だよ。
まぁ、観衆全体を見れば受けてる様だし、まぁいいか。
ここにきて、民衆の歓声がまた一段と上がった。その歓声には野太い男性だけでは無く、黄色い歓声を上げる若い女性からのものも多い。
そんな、歓声に澄まし顔で手を降って応えて居るのは、俺の正妻である千代さんだ。未だ十代で有るにも関わらず、俺と共に多くの戦に出陣して経験を積んだ結果、既に軍神として覚醒した感の有る彼女の、その軍略・用兵の冴えは今や他の諸将の追随を許さない。その活躍は【越後戦記】を通じて日本中に知れ渡り、今やその人気は、現代のカリスマアイドルの様になっている状況だ。
その人気は、俺を遥かに凌駕している⋯
まあ、、気にしたら負けだ。
総勢一万騎以上が参加した、このパレードも、残すは俺の近衛部隊を残すのみだ。
近衛部隊で最初に登場したのは、去年新たに新設された部隊である【青龍隊】その隊長は上泉信綱、剣術の流派・新陰流の祖と言われ現代でも剣聖とも讃えられる剣豪だ。この青龍隊の隊士は信綱の弟子や、腕の立つ剣豪達で構成されており総勢は300名と少ないが、その近接攻撃力には特筆するものがあるが。主として俺の護衛や要人の護衛を担当して貰う予定である。
青龍隊に続き、その巨体を巨大な黒馬に跨って現れたのが【黒龍隊】を率いる鬼小島こと小島弥太郎、この弥太郎は個人戦だけで見れば長尾家でも最強クラスの男だ。少なくとも俺は、弥太郎と戦場で敵として出会ったなら、一目散に逃げ出す。
この黒龍隊には弥太郎と同じく力自慢のムキムキの男達が多く在籍しており、俺を護る最後の砦的存在の、頼りになる部隊だ。
そして、観衆のボルテージが最高潮に達したのは、河越の戦いでその存在を一躍日本中に知らしめた我嫁・美雪さん率いる【白龍隊】が登場したのと同時であった。
今や強大な長尾軍にあって、その人気・実力共に頂点に君臨すると言っても、過言では無い。白銀の戦装束を纏った、女性だけの部隊【白龍隊】。
今や長尾領において、女の子が成りたい職業堂々の1位に輝く華やかな部隊で、このパレードの最後を飾るに相応しい部隊といえる。
そんな、部隊を率いる美雪さんが、観衆の声援に応えながら、部下達に何かを用意させている。
手の平程の小さな皿の様だが、何をする気だ?
観衆も見守る中、美雪の部下によって空に向かって投げられた3枚の皿
そして美雪が3丁の銃にて放つ、3発の銃声⋯
見事、空中にて砕け散る3枚の皿この光景を見て、観衆の歓声が爆発した⋯
相変わらず⋯⋯目立つのが大好きな奴だな…
最後に美味しいとこ、全部攫っていきやがった。
流石である。
なんとか、即位の礼も無事に終わりそうだ。
国内は、暫くは足元を固める事に注力だが、そろそろ南方への進出を本格化するべきだろう。
でないと、手遅れになりかねんからな……
お読み頂きありがとうございます。
天下統一まで後半分と云った所ですが、次話辺りからは、ちょこちょこと海外の話も入れて行こうと思っています。
一体、主人公は何処までいく心算なんでしょうか?
実は、作者も知りませんw
応援コメントや★レビューを頂くと作者とても喜びますので、拙作を面白いと思って頂ける方がおられれば、是非とも応援コメント・レビューお願い致します。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!




