第78話 参列者
1547年(天文16年)3月23日 越後春日山城
「旦那様、漸く即位礼の準備も目途が付いて、少しだけ落ち着いて参りましたね。」
「あぁ~。この加須底羅は美味しいですね。この甘さは至高です♪」
「この紅茶は香りが抜群ですわね。中将様、この茶葉の輸入を増やしましょう。きっと良く売れますわ。」
「我が師よ、儂までご相伴に預かり、申し訳有りませぬな。」
去年の戦以来、半年以上に渡って続いていた苛酷なデスマーチも、徐々にだが終息の気配を見せ始め漸く政務の合間にこうして、嫁達とティータイムを楽しむ余裕が出て来た。今日は即位礼の総責任者でもある上杉君こと、外交局長・上杉定実が良いタイミングで俺の所に進捗の報告にやって来たので、上杉君も誘ってのちょっとした
お茶会となっている。
「いやいや、上杉君には今回かなり苦労を掛けたからな、この位はな。即位式が終わったら、連休を取らせるからもう少しだけ頼むぞ。妙高にでも行って、のんびりと骨休めして来るといい。」
先日、信越国境に跨る高原地帯、妙高に完成した長尾家家臣向け保養施設・妙高温泉は良質な源泉かけ流しの温泉がメインとなるが、その他にもサウナやマッサージルームを完備し、玉突や卓球等の屋内ゲームから、乗馬や芝球等の屋外スポーツまで楽しめる総合レジャー施設である。春日山からの距離もそれ程離れてはおらず、定期便として運航している駅馬車を使えば半日も掛からず到着できる。
その立地の良さも相まって、家臣達からは大評判の施設となっているのだ。
残念ながら、俺はまだ訪問出来ていないがな…
現在、妙高山の麓に大規模スキー場の建設も予定しており、後々には、妙高周辺を一大リゾート地として開発していく予定だ。
「我が師よ。有り難きお言葉、かたじけのう御座いまする。流石に此度はこの老骨には些か堪えました。御言葉に甘えさせて頂きたく思います。」
上杉君も、俺は気楽に『上杉君』と呼んで居るから忘れがちだが、もうすぐ70になるはずだ。あまり無理をさせてポックリ逝かれたら、俺も困るからな。
「おう。そうしてくれ。それで、式の参列者の方はどうなっている?」
「はい。参列予定の家の者達は粗方揃っておるかと、以前の報告と重複するかと思いますが、改めて報告させて頂きまする。先ずは奥州、出羽の諸家で御座いますが、主だった所と致しましては米沢の伊達家、会津の蘆名家、山形の最上家、陸奥の南部家は各家当主が来訪し現在城下にて滞在中で有ります。他にも浪岡北畠家・戸沢・小野寺・奥州斯波家・大崎・葛西・相馬・田村・二階堂・岩城等の諸家も当主もしくは重臣を派遣し当家に服属の構えを見せておりますな。」
これでほぼ、奥州・出羽の諸大名は長尾家に服属する形となっているな。
先年の戦で、上野のジジイ達が先走って奥州へ逃れた一部の下野の敵を追って奥州に侵攻したのだが、その暴走が結果的に長尾家の軍事的脅威を知らせる良き宣伝となった事と、やはり、奥州・出羽の名門、伊達・蘆名・最上が逸早く此方側への態度を鮮明にした事が大きいな。
この3家は越後とも近しい。日本海側の湊と制海権を俺に握られて、現状は半ば以上、長尾家の経済圏に取り込まれつつある状況だ。とても、うちとやり合う気になれなかったのだろう。
南部も含めて、他の東北の諸家も似たような状況だ。
日本海航路と云う、唯一の航路を俺に握られた上に陸路も関東を征した長尾に握られている状況、それは有事にはこの時代の主要経済圏である畿内・東海・越後と云った経済圏、其処へのアクセスの一切を絶たれる事を意味する。
東北の諸家は長尾家の機嫌を損ねたならば、自国の産物を売る事も、必要な物品を買う事も出来なくなる訳だ。人口が少なく貧しい東北では、それは致命的だ。
なんにせよ、奥州征伐とか面倒くさい事をしなくて済みそうなのは良かった。
東北は徐々に領国化していく予定だ。今すぐとかは、とても無理!
もう、デスマーチは勘弁してもらいたいんです。
「…続きまして、東海の諸家の動向となりますが、美濃の斎藤家、尾張の織田・弾正忠家は既に、此方への服属を表明しておりますが、それに加え美濃の遠山・稲葉・不破・安藤・氏家・竹中、三河の松平・吉良・奥平・大久保・牧野、尾張の水野・佐知・佐々・伊勢の北畠・長野・関・神戸等からも使者が参っております。」
東海はこんなもんだろうな、美濃の斎藤道三と尾張の織田信秀が此方側に付いたのは大きい。後は伊勢の北畠ぐらいだが、こっちも一応は使者は送って来ている。どうせ伊勢は美濃と尾張を固めてからだ。暫くは、様子見で良い。
「残るは、畿内・西国となりますが、阿波の三好家、出雲の尼子家、安芸の毛利家、肥前の松浦・大村・有馬が使者を送ってきております。後は本願寺の証如からも使者が参っておりますな。」
越後までの距離の問題も有るだろが、やはり使者を送ってきている国は西国には少ない。尼子とうちは多少の縁が有るから使者を送るのも判らんでも無いが、三好と毛利とは別段親しい関係には無い。この機会にうちとの関係を深める積りか。
肥前の松浦達が使者を送って来ているのは、うちが対馬・台湾・琉球を押さえているからだな。貿易の利権を求めての事だろ。本願寺は、先の戦でのやらかしで相当不味い立場に置かれている。廻り中敵だらけで、そろそろ泣きが入ってもおかしくは無いな。
西国の大名達の参加は、元々それ程求めていない。今はこれで充分、先ずは足元を固めていかねばならんからな。
「ご苦労だったな上杉君。加須底羅のお代わりはいるか?」
「はい、頂きまする。それと、我師よ一応お伝えしておきますが、先頃から城下に滞在致しておりまする尾張の織田・弾正忠家について少々問題がありまして。」
「うん?なんかやらかしたか?」
「それが、弾正忠家当主・信秀殿が嫡男・三郎信長殿なのですが、ある時は城下の一般人立ち入り禁止区域である軍港に忍び込もうと試み、またある時は、工房の鉄砲鍛冶の鍛冶場に押し掛け、またまたある時は、軍の演習に混じって訓練に勤しんでおったり、またまたまたある時は、城の御堀に飛び込み堀の魚を捕まえたり、またまたまたまたある時は、喧嘩を売って来た街のチンピラ達と大立ち回りを演じて見たりと…」
「…中々、豪快な御方ですわね…。」
千代さん…前世では貴方がその豪快な御方を、手取川でボコボコにしてますけどね。
それにしても、、まんま【大うつけ】そのまんまやん
そうか、うつけ君も越後に来てたか。
確か、去年辺りにうつけ君は元服してるんだったか?
と云うと、今は14歳か15歳といった所か…うん、やんちゃ盛りだな。
「…挙句に尋問した兵士に対して、『神童殿に合わせろ!』等という始末。警備の者達もほとほと、困り果てている様で、師の方から一度保護者である信秀殿に注意して頂ければと…」
「いいぞ。会ってみよう。」
「…はいっ?あの…誰と面談されるので?」
「信長君に決まっているだろ。中々、面白そうな少年じゃないか。」
「…よろしいので?」
よろしいに、決まっている。
三英傑の一人にして、日本史上最高の英雄とも言われる織田信長。
史実にて、「天下布武」を掲げて巧みな戦略とその合理的かつ革新的思考により、この戦国乱世をほぼ終わらせた男だ。
そんな男に、日本人なら一度でもいいから会ってみたいと思うのは当然だ。
此度は政務にかまけて、来賓の対応は殆ど上杉君や外交局の連中に任せていたからな。今なら少し位の時間の融通は効く。
どうせなら、尾張の虎に美濃の蝮の顔も見て置くか。
フフフ、楽しみでならんわ。




