第42話 ジジィ戦記
1544年(天文13年)9月中旬 高山国 朝倉宗滴
「朝倉殿、この辺りの海賊共は概ね始末致しました。そろそろ越後への帰国も視野に入れる頃合いでは?」
うむ。
参謀局より今回の出征に同行しておる山本殿の言は確かに正しかろう。
援軍と合流し、5千となった我等水軍は、この高山国西側の海岸沿いにあった海賊共の拠点を軒並み占拠し、賊共を撃滅している。
いや、ほんに海戦も中々に心躍るものよな。
戦場を求めて長尾家に仕官したが、真正解であったわ。
何よりも……あの若き英明な君主にお仕えできた事は、我が生涯において最も幸運な出来事であった。
儂が初めて殿にお会いしたのは、殿が10歳の時、あの仇敵である一向宗門徒を殲滅させた田近越の戦いの直後であった。
まだ童と呼べる歳でありながら、我等に物怖じしない振る舞いとその見識、長年苦労させられた一向宗を殲滅させたその手際に、随分と感服させられたものだ。
この儂が『この童の行く末をみてみたい』と思わせる程にな。
最も、この小僧に付いて往けば面白い戦場に出会えるという思いもあったのは確かじゃ。
さて、此度の戦は随分と楽しませて貰った。
7カ所の賊の拠点を占拠し、4つの敵船団を殲滅、沈めた船は300を超え、鹵獲した船もその倍となる。
賊の拠点で確保した金銀、宝石や陶磁器、絵画等の鹵獲品も莫大な物となっておる。
戦果としては充分過ぎるものだ。
山本殿の言う通り、そろそろ帰国の頃合いであろうが……。
捕えた賊の捕虜の話では、この拠点の東部の山岳地帯には、タイヤル族と呼ばれる首狩りの部族が居住しておるそうじゃ。
殿は占拠した賊共の拠点を、そのまま商いの拠点として使う心算のようじゃが、そのような物騒な連中が近くに住まうなら、安心して商いも出来ぬだろう。
間もなく五島殿も合流し、我が軍は7千となる。ここは儂らが骨を折り、後顧の憂いを絶つべきじゃろう。
「その件ですがな、山本殿。儂は撤兵は時期尚早と考えておりまする。」
「まさか……あのタイヤル族と呼ばれる首狩りの者共と一戦交えるお積りですか?」
「殿はこの周辺を商いの拠点となさる御心算であろう。そのような物騒な輩が近くに居れば、それはままならん。この機に解決すべきじゃ。」
「う~~む、確かに理はあり申すが、余り派手に現地の者と揉めると、殿の不興をかうのでは?」
「その辺りは、この宗滴に策がございまする……。」
フフフ、この宗滴がただの戦狂いでないことを思い知らせてやるとしよう。
1544年(天文13年)10月初旬 高山国(現台北周辺)
「クククク、釣られてノコノコと現れよったな。」
「ガハハハハッ、結構な数居るじゃねぇか!」
「弓の数は少のう御座いますな。あの武装では我等の敵ではありませぬ。」
儂等は五島殿と合流した後、周辺の拠点の安全確保のため、東部の山岳地帯に住むというタイヤル族の討伐を決めた。
しかし問題はそのタイヤル族が山の民であることだ。
正面からぶつかれば、まず負けることはあるまいが、流石に地の利の無い敵地に飛び込む気にはなれん。
殿よりも「決して奥地には向かうな!」と五島殿が言付けられておるしな。
タイヤル族と始末を付けるには、どうしても奴等に山地より出て貰らいたいと考えた我等は、山本殿の策で首狩りに現れた数十人のタイヤル族の男を捕え逆に首を刎ねて奴等の村付近に晒して置いた。
人の首を刎ねようと云うのだ、当然刎ねられる覚悟も持って然るべき事であろう。
そんな事を数回繰り返し後に、遂に怒り狂ったタイヤル族の大首長に率いられたタイヤル族が山を下り、我等が籠る拠点に向かっているとの知らせが届いた。
せっかく出て来てくれたのじゃ
儂等は拠点近くの平原にて陣を構え、奴等を迎え撃つ事とした。
現在、目前に展開する敵勢は3千程。鎧ではなく、朱色と白を基調とした衣装を身に纏い、額と顎に入れ墨を施した蛮族の男達は、主に槍や山刀で武装している。
山本殿の言う通り、飛び道具を持つ者は少ない。数少ない弓も狩猟用の物で、飛距離は出ないだろう。対して我等は五島殿が合流し、その数は7千。皆、和弓矢や石弓で武装している。大殿と儂、山本殿に五島殿までが加わったのだ。正直、負ける要素は皆無と言って良いだろう。
これは戦では無い、虐殺だ。
さっさと終わらせたい所じゃな
「左様、我等の敵ではござらん。戦ともならぬでしょうが…」
「宗滴殿よ、本当にあんな手で上手くいくのか?」
「上手く行かねば、殲滅するまでですな。」
「ガハハハハッ、それもそうか!」
さて、そろそろ動き出しそうじゃが。
敵勢の中より一層派手な装飾品を付けた男が前に進み出て、こちらに向け大声で何か叫び出した。
憤っているのはわかるのじゃが、何を言っておるのかさっぱりじゃ。
幸いなことに、倭寇との戦の折に捕虜にした者の中に、奴等の言葉を解する者が居た。近くに置いていたその者に話を聞いてみると、
『我等先祖伝来の神聖なる首狩りの儀式を穢す蛮族共に天の裁きを!』
そのようなことを言っておるようじゃ。
「奴が大首長か? 石弓砲の射程に入っておるが、いっそのこと討ち取っておくか?」
今回の戦では船から20程の石弓砲を降ろして、ここまで待ち運んできている。分解できて持ち運びも楽とは、中々便利な物じゃ。
「大殿お待ちを。それもありですが、せっかく宗滴殿が策を用意したのです。策の成否を見てからでも遅くないかと。」
「まあ、そうだな。そこまでせずとも良いか。」
敵首領の演説らしきものが終わった後、敵勢は雄叫びを上げながらこちらに向け突撃してきた。
うむ。勇敢ではあるやも知れぬが、それは蛮勇の類ぞ。敵の武器、その射程も知らずに突撃するなぞ、己を無智と言うに等しい。
敵勢との距離は400メートルを切った。既に石弓砲の射程圏内であるが、敢えて打たない。
我等の陣は、現状布で覆われて見えないが、2重の防護柵で囲われておる。早々突破できるものではない。
敵勢との距離が200を切った。そろそろじゃな。距離に敵が到達したところで、予め命じておいた我が陣を取り囲むように設置されている防護柵に掛けられた布が全て取り払われた。
其処には先だっての戦で討ち取った、海賊共の首が全ての柵に串刺されている
その数は3千を超える
中々に、凄惨な光景じゃ
これが儂の策じゃ、何も死んだ者に鞭打つ心算は無い、ただ役に立ちそうじゃから利用させて貰っただけじゃ
このタイヤル族と云う連中は首狩りを神聖視する民らしい、首を狩らねば一人前の男とは認められず、婚儀を上げる事も出来ない。
部族の中で出世する者も当然多くの首を刈り取った者だ、要人と成るには10の首を、首長と成るには30の首を少なくとも上げねばならぬという
そんな奴等が、この光景を見たらどうなるか?
フフフ、足が止まったな。
それどころか震え、膝を付く者達までいる。
ふん……馬鹿馬鹿しい。
たかが10や30の手柄首で、いい気になるとは、とんだ蛮族どもよ。
しかもこ奴等、戦場ではなく、路行く女の首まで狩り誇っておるという。
真に何も判っておらん奴等じゃ。
『然らば真の首狩りとはどういうモノか、この宗滴が奴等に知らしめてやろうでは無いか』
そう思い至り此度の策と成った
ドドッド-ン
逃走しようとした敵勢の一部の前方に石弓砲が放たれる
フフフッ、逃がさんわ
敵勢の周囲に向けて次々と石弓砲が放たれる
当てる心算は無い。威嚇だ
多少巻き込まれた者も居る様だが・・まぁ構わぬだろう
これで敵勢の心は完全に折れたようじゃ
次々に武器を捨て地に伏していく
フフフフ、待っておるが良い蛮族どもよ、真の首狩りと云うモノか、この宗滴がおぬし等に存分に教育してやろうぞ!
はい、この時代世界最強の首狩り族は日本人でした!というお話でした
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