第37話 安東家
1544年(天文13年)7月下旬 出羽国 湊城
「真に、申し訳ありませんでした!!」
俺の眼の前にて土下座して頭を下げるの壮年の男は安東 舜季
安東一族の本家である檜山安東氏の第七代当主だ
そしてその隣で、縄で縛られまるで結婚詐欺で全ての財産を毟り取られたかの様な絶望の表情を浮かべている初老の男が、湊安東氏7代当主、安東 堯季俺の居るこの湊城の元城主である
秋田沖の海戦から既に4日が過ぎようとしている
秋田沖の海戦での大勝利の後に、俺達はそのまま土崎湊を占領し湊安東氏の居城湊城を占拠した
湊安東氏当主である堯季は先の海戦で我が軍の捕虜となっている状況であった為に
湊城は抵抗する事無く開城した
そして昨日国境を越え安東方の諸城落としながら北進してきた柿崎景家率いる一万の兵がこちらに合流した所である
そして今日檜山安東家の当主安東 舜季が僅かの供回りを連れ駆け付けてきた
そして俺の前に出るやいなや、速攻の土下座外交である
話を聞くに
今回の件は完全に湊安東家の独断であり、檜山家は一切合切関わっておりません
横に座る詐欺被害者を指差しながら
そうです、コイツが全部悪いのです!
そんな感じの言い訳を聞かされた
安東家は概ね出羽北部山本郡に根を張る檜山安東家と土崎湊周辺や牡鹿半島を勢力圏とする湊安東家に別れている
本家に当たるのは檜山家だが勢力的には7湊の一つ土崎湊を支配する湊家の方が優勢といえる
安東水軍の指揮権を握っていたのも実質湊家当主の堯季であった
本家である檜山家の舜季も
『長尾家には絶対手をだすな』と
命じていたらしいが本家より力を持ち普段から本家である檜山家と仲の悪かった
堯季はその命令を完全に無視し、自分達安東水軍の縄張りを悠々と進む越後水軍に我慢できずこの度の戦となったようだ
「それで、御本家には一切の責は無いと言われるのか?」
今回参謀局より同行していた真田幸綱からの叱責である
「いえ、そうは申しません庶家とはいえ同族がしでかした事で御座います、当家の責も免れぬかと」
「ほう、ならばどう責任を取られると仰せか?」
「はい、当家の所領を長尾家に差出し、以後は御家の一被官として励みたいと思っておりまする」
「なっ!?何を申すかこの若造が!東海将軍の誇りを忘れたか!」
舜季の言葉に真っ先に反応したのはずっと項垂れていた湊家当主堯季だ
気持ちは判らんでもないが・・・
「ふん、元凶が何を言っておられる?其方の所領などその殆どが既に接収されておるではないか」
「グ・・・グヌゥ」
そう、湊家に最早選択肢は残されていない
ここで処刑されるか、家に仕え蝦夷の開発を頑張ってもらうか位だろう
ただ檜山家は少し事情が違う、今回の衝突は完全に湊家の独断で有り檜山家はそれに関わっていない
先程の幸綱の叱責も蝦夷の支配権について妥協させる心算で俺が予め幸綱に命じていたものだ
今回の戦の落し所として安東家に蝦夷の支配権を手放して貰うつもりだったのだが
それを檜山家は出羽の所領までを手放すという
これは中々不味い事態になった
何が不味いかというと具体的には内政畑の連中の負担がである
一瞬脳裏に、頭を抱える景綱の姿が浮かんだ
今回の遠征で俺は蝦夷、対馬を手に入れる予定である
それだけでも内政畑の連中には随分と反対されたのだ
『越後、越中、信濃だけで手一杯で御座います』
と、まあごもっともな意見である
家の場合内政には手を抜かない
新たな領地を手に入れると様々な施策が行われる事となる
先ずは人口の把握の為の戸籍の作成に始まり
河川、用水の建設計画、街道整備、新田の開発計画
商業の振興の為の関、座の撤廃から地域に合った特産品の奨励
人材育成の為の学舎の建設と
内政に関わる仕事は挙げだせばキリが無いほど多岐に渡る
その事務作業は膨大な量となるのだ
そんな膨大な事務作業に携わる政務官達に
現状定時と言う言葉は存在していない
一日の残業が8時間を超えるのは当たり前で
下手すれば徹夜で作業を行う日も月に何度も有るようだ
実にバブル期のサラリーマン、24時間戦う戦士となっている状況である
それはホワイト長尾を目指す俺にとっては非常に宜しくない
このままではブラック長尾として名を馳せる事になってしまう
脳裏に貞勝が膝から崩れ落ちる姿がよぎった
しかし、この舜季の申し出を断る事は出来ない
檜山家にも色々事情が有る、陸奥の南部家による圧迫により本拠地である津軽地方を奪われかつて『海の豪族』と謳われた力を失っている
そんな時に此度の戦で仲が悪いとはいえ南部家との戦を支援してきた
同族である湊家が消え去ろうとしている
湊家の支援が無ければ檜山家が南部家に飲み込まれるのは時間の問題だ
それは長尾家にとっても都合が悪い、南部家は南部 晴政の時代に入りこれから本格的に陸奥、津軽地方で勢力を拡大していくはずだ
俺はこの地域に強大な勢力を望まない、南部に下手に安東を吸収されれば蝦夷と越後を結ぶ日本海航路を脅かしかねない
うん・・・この話受けるしか無いな
脳裏に親父殿が泣きながら俺に縋り付く姿がよぎった
「相分かった。檜山家の当家への仕官受け入れよう大隊長格で召し抱える。頼む」
「ははぁ!有り難き幸せ、必ずやお役に立ってみせまする!」
そう言って舜季はニコニコ顔で下がっていった
それにしても舜季君は中々見所が有りそうだ、機を見るも敏であるし能力も高い
特に政治力がが高いのは今の長尾家にとっては非常に助かる
名前:安東 舜季 男
・統率:65/75
・武力:58/65
・知略:70/78
・政治:80/88
・器用:70/79
・魅力:62/72
適性:政務 外交
取り敢えずは激務と名高い景綱の所(政務局)にでも放り込んで頑張って貰おうか
それとも外交で上杉君とこに預けるか迷う所だ
湊家当主の堯季は結局、処刑よりはと蝦夷の開拓を快く引き受けてくれた
涙目だったのは見なかった事にした。自業自得だし、まぁガンバレ
さて内政畑の連中に苦労を掛ける事にはなるが長期的には長尾家にとって
安東家を吸収できたのは大きい
今俺が居る、土崎の湊は日本海航路の重要な要湊であるし
この周辺には日本最大級の油田がある
原油が手に入れば様々な製品の製造が可能となる
それに安東家は何と言っても蝦夷の実質的支配者である、蝦夷や樺太のアイヌとの伝手をもっている上に山丹と呼ばれる大陸の黒竜江下流域の人々とも交易を行っていた、流石、海の豪族と呼ばれた家である
そんな安東家の持っていた交易のネットワークまでも長尾家は今回手に入れる事が出来た訳だ
うん、考えれば大成果じゃないか!
その線で攻めてみよう・・・舜季君という援軍も手に入れた
しかし舜季君だけでは足りんか・・そう言えば将次郎や昌豊辺りも内政はいけたな
あいつ等を生贄に・・いや内政を学ばせるのも悪く無いな
よし一時的に配置転換も有りだろう、なんとか彼等にはこの危機的状況を乗り越えて貰わねばならん
よし、そうと決まれば俺がする事は決まっている
思わぬ寄り道を喰らったが時間はまだある
勿論、北海道旅行の再開である
一瞬悲痛な叫び声が聞こえた気がしたが・・まぁ気のせいだろう
さぁ、待ってろよ北の大地よ!




