第34話 引き篭もり
久し振りの更新です。遅くなり申し訳ありません。
書き溜めた分を全て吐き出したのと、誤字が多かった為色々手直し入れながらボチボチと書き続けています。
一応メインの投稿先は『カクヨム』さんで行っておりますのでそ、ちらの方が更新が早いです
こちらでも投稿は続けて行きますが、「早く続きが読みたい」と思って頂ける方はそちらも確認してみてください。
1544年(天文13年)6月 越後国 春日山城
春日山城は、長尾家の4代—為景、晴景、謙信、景勝—の居城として、また難攻不落の堅城として後世にまで有名な山城である。そんな春日山城は現在、俺の居城となっているのだが、とにかく広い春日山という山、丸ごとが春日山城なのである。たとえ城主の俺でも把握していない場所は存在するのだ。というか、把握していない場所の方が多い。
季節が変わり、シトシトと雨が降り続く梅雨の季節、今日の越後も雨模様である。
そんな時勢のおり、俺は千代と共に春日山城の麓に近い場所にある庵を訪れていた。
「こんなところに庵があったんだな」
「ほんとですね、私も知りませんでした」
城の大手道とは少し離れており、俺達が普段過ごしている主郭からも遠い場所にひっそりと佇むその庵は、建物の大きさはそれほどでもないが、丁寧な造りで管理もしっかりと行き届いているようだ。
「本当にこんなところに一人で暮らしているのか、義姉上は?」
「はい、母上からそう聞いておりますが…」
俺達がこの庵を訪ねたのは当然理由がある。千代の母である虎御前とはよく食事を共にする親しい間柄なのだが、その彼女から頼まれたのだ。
『引きこもりの娘を何とかして欲しい』と。
最初はなんのことか分からなかった。『千代に姉妹っていたか?』そう思ったのだが、虎御前の話をよく聞いてみると、大殿の亡くなった先妻の娘で、先代晴景と同腹の娘で千代より6つ年上で、今年18歳になるそうだ。名前は綾というそうだ。
その亡くなった先妻と虎御前は仲が良かったそうで、その先妻が亡くなる時に綾のことを頼まれていたのだと。
以来、色々綾のことを気にかけていたそうだが、その綾が引きこもってしまったのだとか。虎御前が幾度となく足を運んでも顔を見せることもしないと、ほとほと困り果てた様子で俺を頼ってきたのだ。
話を聞いてピンときた。
それって、仙桃院のことじゃね?
謙信の姉にして、謙信の跡を継いだ上杉景勝の生母である。
そう言われれば会ったことがなかったわ。千代との祝言にも顔を出していなかったし、城内で見かけたこともない。
確か、史実では上田長尾家の長尾政景に嫁いだはずだけど…。
先だっての越後の乱にて家に最後まで抵抗した上田長尾家の当主長尾房長、その嫡男が政景である。現在、父子共に直江景綱の元、政務局で鬼のような過酷な日々を過ごしている。
取りあえず会ってみることにする。
虎御前は基本的に優しい女性であるが、春日山城の奥を取り仕切る存在で、女衆や在番の者に隠然たる影響力を持っている。恩を売っておくのはやぶさかではないのだ。下手に機嫌を損なわれては困る。俺の食事のおかずが一品減らされかねん。
『どうなるか結果は分かりませんが、会って話してみます』
『最早頼りは景重殿しかおりませぬ、どうか良しなに』
そんなやり取りがあった翌日、綾が引きこもっているというこの庵に、俺は千代を連れてやって来た。
竹の生垣を越えて敷地に入る。取りあえず大声で来訪を告げるが、返事はない。
仕方がないと入り口を開けようとするが、中から蝶番されているようで開かない。
庵の周りを回ってみるが、鎧戸で中に入ることはできなかった。
中々の堅城である。
仕方がない。
俺は後ろに控えていた近習、森 可成に入り口の板戸を指差し言った。
「やってくれ」
「よろしいので?」
「構わん、気にせずやれ」
「任せといてくだ、せぇい!」
「きゃっ!」
ドッコーン。
可成の渾身の蹴りにより板戸は砕け散り、奥から女性の悲鳴が聞こえた。
やっぱ、ちゃんと居るじゃねぇか。
庵に入ると、そこには床一面に散らばる書籍、散乱する紙束の散らかった部屋に、青白い顔をした、ぼさぼさ髪の若い女性が部屋の奥で家の柱にしがみつくように居た…この人が綾さんだろう。
一応、女性の暮らしている家なので、まずは妹の千代に入ってもらう。
「あ~~!千代!あんたこんなことしてどういうつもりよ!」
「どうもこうもありません!母上に頼まれて来たのです!何時まで母上にご心配をかけるのですか!」
「あ~~!やっぱりあんた母上の回し者か!この裏切り者!」
「誰が裏切り者ですか!さぁ行きますよ!」
「いやだぁぁ~~!」
無理矢理連れ出そうとする妹に必死で柱にしがみつく姉。
中々カオスな状況だが、それじゃ駄目だ、千代。
俺の経験上、無理矢理引きずり出すのは逆効果でしかない。
「落ち着け、千代」
「しかし!旦那様!」
「!?・・・・・・・・・・・・・・・あっ、あんた・・・・誰よ?」
今まで千代しか見えてなかったのか、俺の存在に気が付いてあっという間に先程までの元気が消え失せた。
今度は千代の腰に抱き着きながら蚊の鳴くような声で俺に訊ねてきた。
俺を見る眼は既に涙目である。
まるで空気の抜けた風船のような有様だ。
はい、あんたの住むこの城の城主してます。
うん、この人極度の人見知りのようだ。
こういう人種と信頼関係を築くには、まずは相互理解が必要となる。
俺はこの部屋に入ってすぐ、この部屋をまず観察していた。彼女の趣味や嗜好を知るためである。
部屋に飾られた絵、散らばった書物、床に散らばっている紙束。それを見る限り、彼女は絵を描くことが好きなようだ。
俺は床に散らばった紙束を拾い上げながら話す。
「千代の旦那になりました景重と申します、初めまして綾さん。にしても、この絵、綾さんが描いたんですか?随分お上手ですね」
「・・・へぇー、あんた絵、分かるんだ?」
お、少しだけ空気が入ったようだ
「少しだけですけどね、お!これなんていいですね、まるで今にも飛び立ちそうな迫力がある」
俺は、枝に止まった鶯が飛び立つ瞬間を描いたであろう絵を大仰に褒めた
実際に上手いのだ。誉め言葉も自然に出て来た
「あ・・あんた、若いのに中々見所があるわね!それ、私の自信作なのよ!」
お。大分膨らんできたな、あと一押し
「私もこんな綺麗な絵を描いてみたいと思ってたんですけど、僕才能が無いみたいで・・・・・」
「旦那様・・・?」
「ちょっと才能が無い、なんて事は無いのよ!努力すればきっと・・・・そうだわ、お姉さんが教えてあげるわ!」
ほぼ風船一杯だな
「ちょっと、こっちに来なさい」
俺は彼女に手を引かれ、彼女の書机の有る所まで連れていかれた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
「ねぇなにこれ!?凄い凄いわ!」
「これは!?こんな技法があったなんて!」
「新ちゃん!あんた中々やるわね!」
「いえいえ、綾ちゃん程では無いですよ」
「そんなの決まってるじゃない、この天才画家に勝てる者など天下に居ないわよ!」
あれから2時間程、風船はパンパンに膨らんでいた
何時の間にやら新ちゃん、綾ちゃんの仲である
「にしてもこの万年筆だっけ?凄いわねこれ。墨じゃ表現出来なかった繊細な表現が、これなら簡単に描けるわ」
「この洋墨を入れればずっと使えますよ、気に入ったのなら差し上げますよ」
「ホントに!?いいの?ほんとにいいの?もう綾のだから返せって言われても返さないよ?」
「返せなんていいませんよ、家で造ってる商品なんで、まだ変えもありますし」
この万年筆は先頃工房で完成した試作品の一つで間もなく量産し販売する予定となっている
「へぇー新ちゃんひょっとして良い所の御坊っちゃんなの?なんにせよありがとうね、大切に使わせて貰うわ!」
「・・・・だから姉上、私の旦那様だと言っているじゃないですか」
俺、最初に名乗ったよな。千代の旦那だと
「ん・・・?千代じゃないの・・そういえばあんたも居たわね・・・・あれ、あんたの旦那様って事は・・・・」
「第9代長尾家当主・長尾景家、この春日山城主ですよ姉上。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あぁ!せっかく膨らんだ風船が見る間に萎んでいく
「そんな事は気にせずとも良いのです。義姉上、千代の姉ならば身内です。何より同好の士なのですから、時には絵画の話なぞ気楽にしましょう」
「・・・・ほんとに、いいの?」
「構いません、ところで綾ちゃん、先日明の巨匠の名画が手に入ったのでが・・・」
「見たい!見に行く!」
こうして虎御前からのミッションは無事達成する事が出来た
うん、ちょろすぎる。詐欺師や変な男に騙されないか心配になる程だ
にしても思わぬ拾い者だった
先日工房で遂に輪転印刷機が試作段階に入ったのだ
俺の目的の為にはどうしても国民の識字率、知識レベルを上げて行く必要が有る
それには大量の書籍が必要となるが、この時代書籍は手書きの物がすべてだ、それでは数も限られるし途轍もない高額な物となってしまう
そこで俺は工房に大量に印刷できる印刷機、質の良い紙、インクの開発を糸魚川に移った頃より研究を依頼していた、それがやっと実用段階に入ったのだ
先ずは識字率の低い庶民でも理解できるような書籍を発行していくつもりだ、そうなると文字だけではおそらくは無理だ。
そこで考えたのが絵本や漫画の様な形式にすれば庶民でも手に取り易くなるのではと考え、絵師をさがしていたのだが中々才能のある者を見付けるに苦心していた所だ
彼女の鶯の絵を見てピンときて
能力を見て確信した
名前:長尾 綾 女
・統率:1/30
・武力:1/19
・知略:50/75
・政治:1/38
・器用:92/99
・魅力:30/72
適正:絵師
探していた人材がまさか家の城にいるとはな、まさに灯台下暗しだ
フフフ、日本の為政者達はプロパガンダ(情報戦)の恐ろしさを未だ知らない
これで家は情報戦に置いて圧倒的優位な立場となった
何故なら現在、庶民に大量の情報を発信できる家など存在していない、
その唯一発信元が長尾家になると云うのだ
家は当然、当家に都合の良い情報が流し放題となる訳だ。
家の暇人の某姉上と一緒に頑張ってもらう予定である
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仙桃院
謙信の後継者となる景勝の生母で謙信の姉として有名な人です
この方1524年生まれで謙信の6つ年上で、結婚で上田長尾家に嫁いだのは
1551年の27歳の時と伝わっています。
この時代の武家の娘としては信じられない程の晩婚なんです
筆者は、どこかの家に嫁いだが夫と死別して離縁した後に上田長尾家の政景に嫁いだんじゃないかな?
と思いますが、そんな資料は残っていませんし、生誕年や嫁いだ年にも諸説あります
ちなみに、引き籠りだったという資料も勿論残っておりません




