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第六十六話 vs『悔恨』の魔女③

 シオンが召喚した『ブラックドラゴン』の内、一体が私に向かって咆哮ブレスを放ってきた。

 凄まじい熱量を秘めた、ドラゴン系統の魔物にとっての必殺技。それも魔女の力を喪失していても、魔法使いとして優秀なシオンに使役されている個体だ。

 『憤怒』の魔女を行使中の私でも、まともに食らえば無事では済まない。



 味方であるはずの『ブラックドラゴン』の行動に、私の思考と体は完全にフリーズしていた。

 熱戦に私の体が包まれる直前に、私の眼前にユージンが躍り出た。



「――はっ!」



 ユージンは両手で構えた『調停の聖剣』で、『ブラックドラゴン』による咆哮ブレスを切り払った。

 と言っても頬には大量の汗が伝い、肩で激しく呼吸をしている様子から見て、先ほどの行為がユージンにとっても命がけであったことが伺える。

 『調停の聖剣』の加護により諸々の能力が強化されているユージンで、ようやく為せたことだ。



「……どうして二度も、敵であるはずの私を助けたんですか?」



 この一瞬の油断が許されない、混沌とした戦場の中。私は思わずユージンに質問を投げかけていた。本当であれば、作戦もこの場での戦闘を一切合切無視して、クロエ達の方に行かなければならないと理性が告げている。

 私に向かって攻撃をしてきた『ブラックドラゴン』は間違いなくシオンが召喚した個体であり、これはシオンとクロエの身に何か異常事態が起きている証拠だ。

 それでも無意識の内に出ていた私の疑問に、ユージンは目の前の『ブラックドラゴン』やアリシアから視線を外すことなく答えてくれた。



「……魔女になった者の見た目が、実年齢に結びつかないのは経験で知っている。だが、少なくとも君はそうには見えない。協力者がいるとはいえ、一国に喧嘩をふっかける程に理性を失っていなさそうだしな。何か理由があるのだろう。それに敵同士の内輪もめなら、本来静観が鉄則だが、そんな親に捨てられた子供のような顔をされたら、無視することは一人の騎士としてできなかった。ただそれだけだ」



 ユージンのその発言に、私はしばし放心してしまった。現在進行形で王城に襲撃を仕掛けてきた魔女を、ただの子供として扱うとは。優しいのか、単なる偽善か。



「それに見た所、今王都中で暴れ回っている魔物については関与していなさそうだし、アリシアが魔女化しているのも君の仕業ではないように感じられた。なら無理に敵を増やす必要はなく、一時的とはいえ協力できる可能性に賭けた。そういう打算も込みだ」



 ――流石はアルカナ王国全ての騎士達を束ねる立場にいる人物だ。感情に流されることなく、その場ごとに最適な判断をして行動に移している。

 ユージンの考えでも、この場は協力関係を結ぶことが最も最善に近いらしい。



「……分かった。私も仲間の安否が気になるけど、一人であれだけの数を相手にするのは無理。こちらからも協力をお願いします」

「ああ。了解した」



 簡単なやり取りを終えた後、私はユージンの隣に立つ。その間『ブラックドラゴン』及び増援として呼び出された魔物達、それらに命令権を握っているだろうアリシアはすっかり余裕な態度を取り戻していた。

 口角を僅かに上げて、話し出す。



「ユージンさん。よろしいのでしょうか? 国に害を成すような魔女の力を借りるなんて。第一部隊の隊長の肩書きが泣きますよ」

「何を言っている。魔女に堕ちた君が言っても説得力が皆無だな。それに私は王国を守るという騎士としての責務を果たそうとしているだけだ。その為に私の方から共闘を持ちかけたに過ぎない」



 ユージンの反論に、笑みを引っ込めるアリシア。まさか言い返されるとは思っていなかったのか、その表情は不愉快そうであった。

 しかしそれも一瞬で元に戻り、今度の矛先は私だった。



「……では、魔女さん。この黒竜は貴女の仲間の使い魔でしょう? 何でこの黒竜が先ほど貴女を攻撃したか。その意味が分かりますか? 貴女のお仲間さんは二人とも、私達の手の内だということです。もう時間も押してますし、抵抗は止めてもらえませんか?」

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