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第六十四話 vs『悔恨』の魔女①

「――っ!? 貴女は!?」

「――会いたかったですよ! 魔女さん!」



 私を魔物の攻撃から庇ってくれたユージンを助けようとした一撃は、謎の第三者によって妨害された。

 闇属性の魔力により強化された一撃を、難なく受け止めた相手の正体は、私にとって驚愕に値する人物であった。

 その人物の正体は、この場にはいるはずのない騎士団第四部隊の隊長であるアリシアだった。



「――くっ!?」



 私はとりあえず距離を取る為に、魔剣に込める力を少しずつ抜き、アリシアの意識が緩んだ瞬間に右足で蹴りをお見舞いする。

 落下する中、体勢を整えて地面に着地するとすぐにアリシアの方に視線を向ける。

 彼女の方も、何事もなかった風に地面に降り立っていた。



「いきなり蹴ってくるだなんて、女性として少々品がないのでは? そんな暴力的なことばっかりしていると、好きな子に振り向いてもらえませんよ?」



 闇夜よりも尚漆黒のドレスについた埃を払うような仕草をした後、アリシアは私に対してこの場にそぐわない説教をし始めた。



「……それが貴女に関係があるの?」

「いいえ。別にありませんが、年上として少々下の子にはお姉さん風を吹かしたいだけなので」



 油断なくアリシアを見つめる。私の警戒に満ちた視線に気づいていながら、大したことはないと態度で示していた。

 背後で大蛇に拘束されているユージンは、今の所無事のようだ。と言っても、尾による締めつけはかなり強力なことは、苦痛に歪むユージンの顔が物語っている。

 私を庇ったことで、彼は武器である『調停の聖剣』を手放してしまっている状態だ。そのせいで、大蛇の拘束から抜け出すことが不可能になっている。

 だが、しばらくはユージンの命だけは保証されるはずだ。殺す気なら、とっくに実行しているだろうから。



 しかしユージンを助けようとした場面で、アリシアは妨害してきた。仲間の救出に駆けつけたという訳ではないようだ。

 それに前回顔を合わせた時――私が魔女の力で暴走していた――とは、明確に異なる点があった。纏う雰囲気や、騎士団共通の銀色の鎧姿ではなく彼女本来の性格であれば決して着ることのないような、露出の多い黒色のドレス。

 極めつけは、その体から垂れ流しにされている闇属性の魔力。



 見間違えるはずもない、今のアリシアは魔女そのものであった。あの討伐作戦からどのような経緯があったか一切不明であるが、今のアリシアはとてもではないが正気とは思えない。

 登場したタイミングも考えれば、現在王都中に出現した魔物達の存在に一枚噛んでいるのだろう。



 情報収集も兼ねて、私は薄気味悪い笑みを浮かべるアリシアに話しかけた。



「……何故あの騎士を助けるのを邪魔したの? 貴女の仲間のはずだけど」

「お仲間を連れて王城に襲撃を仕掛けてきた魔女さんは言うことが違いますね。素晴らしい人格の持ち主で。ええ」

「っ……!?」



 出だしで話の腰を折られてしまい、歯ぎしりをしそうになる。明らかに正気を失っている相手から、正論を言われると何とも言い難い心情に陥る。

 反論をしてこない私の様子に、気をよくしたアリシアは饒舌に口で言葉を紡いでいく。



「あの日にあった出来事を……私自身の手でベオウルフさん――義父の首を刎ねたことを、一日たりとも忘れたことはありません。あの時もっと他にできることがなかったか、『後悔』しない日はなかったです。そして、そんなことになった原因である貴女の顔、声。どれも、どれも私の中で貴女に対する憎悪に焚べる良いものになりましたよ。少し前までの私でしたら、この感情を表に出す訳にはいかないと思って、『良い子』を演じていたでしょうけど、あの人が私の背中を押してくれましたので。心置きなく、貴女に復讐が――!?」

「やっぱり防がれるかっ!」



 思った以上に話が長い上に、役立ちそうな情報は一つもなさそうだ。一応敵対しているとはいえ、今の王都は魔物が跋扈する危険地帯に様変わりしている。

 ユージンとは条件次第だが、協力体制を築くことは不可能ではないはず。そうなれば、フィオナ王女を確保し、国王を無理矢理に交渉の席に座らせるという目的を達成するという必要もない。



 そう結論を下し、アリシアに切りかかったが、彼女が持つ剣によって難なく防がれてしまった。

 よくアリシアが持つ剣を見てみれば、あの晩に彼女が装備していた剣とは別のものだ。黒く、見た者に恐ろしさを抱かせる程の刀身に纏わりつく魔力。

 奇しくもそれは、私が持つものと同種である忌避すべき魔剣だった。



 入手経路も気になるが、今は重要視すべきことではない。そもそもアリシアが何故魔女になっているのか。

 原作知識を思い返すが、アリシアが魔女化するような展開はない。私がベオウルフの一件で憎まれるのは、自業自得でもあるが最後の後押しをしたのは、彼女自身が話した第三者だろう。

 恐らく王都に魔物を何らかの手段で連れてきたのも、その人物のはずだ。



(だけど、どういった意図で……もしかして前々から気にしていた私達と王国を争わせようと画策している存在が本当に?)



 アリシアと剣戟を重ねる中、思考が横に逸れていく。それが隙になり、元々拮抗していた力関係が崩れてしまい、私の体は地面に叩きつけられる。

 完全に無防備な姿を晒した私に追撃することなく、アリシアは再び口を開く。



「人が話しているんだから、遮っては駄目ですよ。本当は直接いたぶってあげたいけど、できるだけ貴女達は無傷で確保するように言われてるし、どうしましょう?」



 アリシアは顎に手を当てて、何やら考え事をしているようだ。しかしその発言の中で、引っかかる部分があった。



「貴女『達』……?」



 私の小さな呟きが聞こえたのか、アリシアはその顔に満面の笑みを浮かべこう言った。



「そう言えば、魔女さんの好きな子って、あの黒髪の子よね? 魔女さんに対する復讐は、貴女の目の前でその子を虐めることにしましょう。私も一番大切な人を害されたんですもの。これでおあいこさまです」

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