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第五十九話 王都襲撃②



 ――パトリシアとユージンが交戦を開始しようとしている時。一方のクロエとシオンは、王城の広い庭園にいた。

 シオンの召喚魔法『サモンモンスター』によって呼び出された黒竜――『ブラックドラゴン』の背に乗り、次から次へとやって来る騎士団達を撃退していた。



 シオン達が陽動を行っている間に、パトリシアが別行動している隊長格の騎士を各個撃破していく。そういう作戦である。

 この作戦の穴は、王城に残留している隊長格の騎士が何人いるか不明である点だ。複数人の魔女を相手にした討伐作戦を決行する為に、ほとんどの戦力をそちらに割くと予想していたが、実際の所は不明だ。

 『ブラックドラゴン』の対処に出て来ていない所を見るに、自分達の作戦は上手く進行している。そう信じるしかなかった。



 現状シオンは『ブラックドラゴン』の制御、クロエはそのシオンの負担を軽減する為の魔法行使。

 それにより敵の本拠地のど真ん中であっても、戦況は均衡を保っていた。むしろシオンの『ブラックドラゴン』は騎士達を殺してしまわないように手加減をしているので、クロエ達の方が優勢と言えるかもしれない。

 尤も無駄な殺害を控えたいクロエ達の思惑を知らない騎士達からすれば、舐められているとしか思えなかった。それが余計に彼らの神経を逆撫でる。



「ちっ……! 面倒だな……! 近づくことすらままならない! 魔法が使える奴はいるか!」



 全く好転せず、押され気味の状況にその場で臨時の指揮を取っていた騎士が歯ぎしりをしながら、全体に大声で問いを投げる。

 人間と竜。両者の間には決して埋めることのできない差がある。これは人間側がどれだけ装備を整えようが覆りようがない。

 近接戦闘で竜に勝てるような人間はまともな部類ではない――それこそ伝説に語られるような勇者ぐらいではないだろうか。



 近距離での戦闘で勝てないのであれば、別の手段を取れば良い。手加減をされていることに苛立ちながらも、騎士団の精鋭中の精鋭が集う第一部隊の中で、臨時の指揮を任せられる程度には優秀なその騎士は、この場で最適な判断を下す。

 魔法による遠距離攻撃に切り替えれば良いのだ。所詮目の前の『ブラックドラゴン』は使い魔に過ぎず、呼び出した術者を倒せばその存在は消失する。



「黒竜の背に乗る女と少女。どちらが召喚者は分からないが、一人でも魔法を当てて引きずり降ろせば、もう一人への人質として機能するはずだ。散々こけにしてくれた分の償いはしっかりとさせてもらうぞ……!」



 そう吐き捨てた騎士は、すぐさま魔法が使えると名乗り出た騎士達を中心に隊列を組み直させる。

 その間も注意を逸らす為に、何十人もの騎士達が『ブラックドラゴン』に挑み続けていた。シオンとクロエは互いに魔法の行使または維持に精一杯なせいで、そのことに気づく余裕がない。



 しかしこの場には大多数に見えないシオン達の協力者の存在がある。そう『前借りの悪魔』だ。クロエが権能を乱用しないように、出力を調整しながら彼女は戦場を俯瞰していた。



 他の二人に比べて精神的にゆとりがあった『前借りの悪魔』は、警戒を促す。



(二人とも! 向こうが何か仕掛けてくるわ!)

「そう言われてもどうすれば……!?」



 クロエが慌てた風に声を出す。

 依然としてシオンは二体分の『ブラックドラゴン』の維持及び制御に魔力と神経を割いている為、頼ることができず、騎士団達の攻撃に対処できるのはクロエのみだ。

 『ブラックドラゴン』に回避行動を取らせて、王城から撤退する選択肢もなくはないが、目的を果たしたパトリシアがいつ戻ってくるか分からない為、それは得策ではない。



 そうこう思案している間に、『ブラックドラゴン』の動きを食い止めていた騎士達が素早い動きで距離を取り始めた。

 そしてクロエ達が対応するよりも先に、大声で指示が下される。



「……今だ。放て!」



 魔力によって形作られた無数の矢。それが号令の下、一斉に放たれる。一発の威力は堅牢な鱗を持つ『ブラックドラゴン』には大して効果を見込めないだろう。

 全弾が命中してもそれは変わらない。

 当然そのことは承知済みだ。だから彼らが狙おうとしているのは、シオンとクロエの二人である。この攻撃で仕留めることができなくても、『ブラックドラゴン』の背から振り落とせれば良い。そういう考えの下で、彼らは行動していた。



 迫りくる魔法の矢に対して、クロエは余力として残していた魔力を使い、一つの魔法を発動させる。



「――『セイントシールド』!」



 その魔法はパトリシアから教えられたものであり、効果は確かなものであった。

 クロエとシオンの二人を取り囲むように、光属性の魔力による障壁が形成される。騎士達の魔法攻撃が何発も被弾する。



「ぐっ……!?」

「クロエちゃん!? 大丈夫!?」

「シオンさん……! 私のことは気にしなくて良いですから……! 『ブラックドラゴン』に命令をして下さい!」

「……分かったわ!」



 『セイントシールド』によって構築された障壁には多少のヒビがあれど、破壊には至らずクロエ達に攻撃が届くことはない。

 『ブラックドラゴン』にもいくらか被弾しているが、案の定効いている様子は見られない。

 それらを考慮し、クロエの意図を察したシオンは『ブラックドラゴン』にとある指示を下す。



「『ブラックドラゴン』! 突撃しなさい!」

「Gaaaa!」

 


 シオンからの命令を受けた『ブラックドラゴン』は鳴き声を上げ、前方からの攻撃を意に介さず突撃を行う。

 もちろん手心を加えている為、結果としては相手側の陣形を乱すだけに留まる。

 しかしそれでも戦場の支配権は、再びクロエ達の方に戻ってくる。



(これならもう少し……パトリシアが帰ってくるまで持ち堪えられる!)



 クロエがそう思った瞬間。『ブラックドラゴン』のものとは、似ても似つかない悍ましい咆哮が王城だけではなく、王都中に響き渡った。


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