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第五十五話 VS騎士団②




 違和感に気づいたロナウドが他の部隊長に伝令を送ろうとした瞬間。



 ――大地震が起きたのかと錯覚する程の揺れを感じ、僅かな月明かりすらも隠す巨体がロナウド達の上に影を落とす。



 それは黒く硬い鱗を持ち、荒々しい息を吐きながらその姿を現した。数々の英雄譚にて打倒される敵として描かれる、生ける災害。

 その災害の名は竜。現代においては人前にほとんど姿を現すことがない、伝説上の生き物の出現にロナウド達は驚きを隠せなかった。



「Gaaaa!」



 黒竜が咆哮を上げる。そのとてつもない音量に、この場にいた人間達は反射的に耳を塞ぐ。幸い鼓膜が破れるようなことはなかったが、目の前の脅威が消えた訳ではない。



「――黒竜!? 何故こんな所に!? まさか……!」



 突然の黒竜の出現に、歴戦の強者達の集団である騎士団といえども動揺を隠せない。しかしその中で総指揮権を預かっているロナウドは、数多の戦場で磨かれた観察眼や第六感で黒竜が現れた原因を導き出す。



 自分達がこれから挑もうとしていた敵は誰であったか。現在の王国が成立する以前に存在していた国々を滅ぼしてきた、悪名高い『破壊』の魔女。

 それと目の前の黒竜。両者の間に関連性がない訳がない。多少は魔法に心得があるロナウドは、この黒竜が『破壊』の魔女に呼び出された存在だとあたりをつける。

 彼が戦場でまみえた敵国の魔法使いの中には、遠く離れた生物から抵抗力が弱い下級の魔物を召喚する者がいた。その者達と同様の魔法を使用したのだろう。



 しかしいくら高位の魔法使いや魔女とはいえ、竜のような格の高い生物を呼び出すのは不可能に近いはず。基本的に術者側と呼び出される側の間に、圧倒的な魔力の差がなければ召喚魔法の類は実現しない。

 だが現に黒竜は今にもロナウド達に襲いかかろうとしている。魔女達がどのようなからくりを用いて、この黒竜を従えているかを解明するのは後回しだ。



 少し離れた場所には小規模ながらも村が存在し、避難誘導すら行えていない。王国の矛であり盾である自分達が退くなんて言語道断だ。

 そう一瞬の内に結論づけたロナウドは、未だに混乱から立ち直れない――各部隊長を含めた一部は既に腰の剣に手をかけている――者達に向けて、発破をかける。



「――お前達! 元々俺達は何と戦う為にここへ来た! ベオウルフを無惨にも利用した、あの『破壊』の魔女だろう!? 臆する暇があったら剣を取れ!」



 ロナウドの声の大きさは凄まじく、黒竜の咆哮すら上書きしかねない程であった。この場に集った騎士達の意識が、ロナウドの声によって恐怖を押し殺し戦士のものに変わっていく。



「行くぞ! お前達!」

「「おおー!」」



 今ここに騎士団達の調子は最高潮に達する。それを野生の勘で察した黒竜も呼応するかのように、鳴き声を上げる。



「Gaaaa!」



 会合した際のものと気を抜けば、それだけで戦意が挫けそうになる程の威圧感。しかし今の彼らは一人一人がその心を含めて、護国の英雄である。

 現代で綴られる最新の英雄譚。その頁が開かれようとしていた。





「――来るぞ! 構えろ!?」



 ロナウドの声が辺りに響き渡る。地面に降り立っている黒竜の動きがゆっくりとした動きで、尻尾を振り上げ叩きつけようとしてくる。

 緩慢な動作と言ったのは、あくまでも遠くから見たらそう感じるだけだ。実際には風圧を発生させながら、それなり以上の速度を出して迫ってくる。



 ロナウドの指示を受けるまでもなく、回避行動を取る騎士達であるがそれは叶わない。重量のある鎧を纏った集団の全員が、攻撃を避けられる訳ではないのだ。

 黒竜からすればたったの一振り。それだけの動作で、何十人という騎士達が纏めて吹き飛ぶ。



「くそっ!? 無暗に突撃するだけ無駄だ! 一旦下がれ!」



 警戒を怠ることなく、戦線を下げる騎士達。それに対して黒竜は追撃を――することはなかった。



(……何?)



 ロナウドの中で疑問が湧く。騎士達が移動している間に、この黒竜は何手行動することができただろうか。その場合どのくらいの被害が出たのかは、想像もしたくない。

 ふとロナウドは視線を黒竜に向ける。尻尾を一回振った黒竜は、その場から動こうとはせずに騎士団の出方を伺うかのように眺めていた。



(こちらを警戒している……? いやこっちはまだまだ全然手札を切っていない。しかも術者は狂った魔女だ。様子見なんていう理性的な判断なんぞできる訳がない。動かないならこちらにとっても好都合だ。最高火力をぶち込んで――)



 指揮権を預かるだけあって、思考速度も早いロナウドであるが、そんな彼であっても対応できない事態が発生する。

 目の前の黒竜に騎士団全員の注意が釘付けになっている時、黒竜の背後にある廃屋からとてつもない魔力が感じ取れた。



(何……!? 魔女達が何か仕掛けてこようとしているのか……!? しかしこれは――)



 この魔力の持ち主が討伐対象の内、どちらかの魔女であることは瞬時に思い至る。そして今その者が行使しようとしている魔法の種類にも察しがついた。



「Gaaaa!」



 ――二体目の黒竜の出現。魔女達は二度目の召喚魔法を使ったようだ。戦況が絶望的になる。そう全体が思った瞬間、廃屋を突き破って姿を現した二体目の黒竜は、ロナウド達には目もくれず、その翼を広げて大空へと舞った。

 遠目だが黒竜の背に三人の人間が乗っているのが確認できる。恐らく魔女であろう。少々派手であるが、逃げの一手を選択したのだろうか。



 次から次へと考えが浮かんでは消えていく。だが黒竜が飛び去って行く方向を理解した時には、ロナウドは激しく歯ぎしりをした。



「――あの魔女達めっ!? 俺達をこの場に足止めして、王都に襲撃を仕掛けるつもりかっ!?」

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