とんでもない人が来ました
不定期更新です。
「ここにフィンヴィールの番が来ておると聞いたぞ!」
(えーと……誰?)
にこやかに扉を開けたのは、ロウシーンではなかった。その美少女――いや、美少年は、歳の頃は14あたり。和服のような、他の者とは違ったオリエンタルな服を、だらしなく――緩めに着崩して着ている。長い黒髪には一部紫が混じり、眼力のある瞳はミントグリーンに輝いていた。
「陛下! またそのような格好で……!」
「謁見ではない故な。問題無かろ。あと服装に関してはケルノンには言われたくないぞ」
「それはそうでしょうね……」
「僕は家に帰ってないからいいんです。陛下は何人も世話係がいるじゃないですか……」
「居るのと使うのは別であろ? 余は必要ではないと何度も言っておるのに」
「一応ねえ、皇帝陛下ですからねえ……」
(皇帝陛下……!)
この人が。あどけない少年に見えるのに、フィンヴィールを始めとした竜の頂点に居るのだ。そう思い、つい目を瞬かせる。
「で、こっちがフィンヴィールの番だな? 余は国を統べる者、ブラナガンである。この国では番の生活は保証されておる。ヒトの住む南とは違って外は寒いが屋敷の中は快適、心配せんでも良いのだぞ」
「はあ……えーと……波多野悠花、です。出身は南の方じゃなくて異世界みたいで……」
「何?」
「あ、その件まだ報告してなかった」
「まあ……番の出自なんてあまり関係ありませんからねえ……」
どうやら悠花の経緯については、上に報告が行っていなかったらしい。
「とりあえず詳しく。興味が出た」
「あー……アガリスの魔法陣、あったでしょう? あれは実際に番が召喚できるシロモノだった訳ですが……」
「うむ。人口減少に歯止めが掛かりそうで、余も大変期待しておる」
「それで……フィンヴィールの、アホみたいな魔力を使って召喚したら、どうやらこの世界じゃなくて別の世界から召喚できちゃったみたいなんですね」
「は?」
ブラナガンが、大きな目を更に丸くして悠花を見る。
「なんか、そうらしくて……わたし、魔法とか何も無い、全く違う世界に住んでまして……」
「そんなことある?」
「召喚できちゃったんですねえ……フィンヴィールの魔力がアホみたいに高いばかりに」
「しかしこの魔力量が無ければ悠花とは出逢えませんでしたので……」
「証拠とかはあるのか?」
「魔臓を見てみてください。あり得ない作りをしてるんで」
「うわ、ほんとだ」
悠花の中の何を見たのか、ブラナガンが目を瞬かせた。
「余も大分長く生きてはいるが……異世界などあるのだな」
「僕ですら初耳ですねえ。文献ですら見たことないんで、もっとご老人に聞いても同じ答えが返ってきますよ」
「面白いなー。異世界というものにも興味がある」
「食文化は多様なようです。悠花のおかげで、夕餉に新しい料理が出るようになりました」
「なにそれ気になる。しかし魔法は無いのであろ?」
「魔法は無いですけど、科学というものが発展してまして……」
そう言って悠花は携帯で男たちを写真に撮った。
「何ぞこれは……! 何と精巧な絵!」
「こんなこともできるの? 転用……いや悪用したらまずくない?」
「まあする人は居ないとは言いませんけど……でもこの機械は、国民のほぼ全員が持ってましたよ。それこそ、小さな子供じゃ無い限り。いや、子供でも持ってるかもしれませんね、こんな写真が撮れる程度のものなら」
「これがあれば一気に軍事力に差が出そうですが……年端もいかぬ子供ですら持っているというのなら、この程度ではもう差にならないのでしょうね」
「そうですね。動画……動いてるものも記録できますし」
「そんな技術まで……? ねえ、それ、詳しく分かる?」
「後で調べれば……?」
ググればきっと分かるだろう。きっと。
「もしその魔道具が実現したら、ケルノンにやる報奨がついに無くなりそうだな」
「要りませんよ! 品物も! 押し付けられた妻も! 僕は番と結婚するんですから!」
「まあ、遠くない将来そうなるであろ。捨て身とは言えフィンヴィールの手柄ではあるのだよなあ」
「……それで奴隷にされた時点で、手柄では無いですけどね……」
「どちらにせよ民が番と結ばれれば、余もやっと妻が娶れるであろ。期待しておるぞ」
「妻……?」
この幼さで。しかし竜は番の幼さは気にしないのだ。自分が幼くても、番が見つかれば結婚してしまうのかもしれない。
「あー……悠花、陛下は私より少々年上ですよ」
「えっ……えっ!?」
「ははは、他所から来たのであれば竜帝の生態は知らんやもしれぬなあ。竜帝は、竜にして竜に非ず。番と出会うまで成長期が来ぬのだ」
「??? なるほど?」
「普通の竜は年齢に沿って成長します。しかし陛下は違う。番に出会わぬ限り、成長が止まってしまうのです」
「じゃあ、番を探したら……?」
「それがなー、竜帝の番は竜に限られておってなー、番の居らぬ老婆から赤子まで面通しをしたが、番は居らなかったのだ」
「竜帝は竜からのみ産まれるんだよ。だから陛下の番は竜って決まってるの。で、今現在生きてる竜に番は居ないから……」
「国の人口減少が解決して女児が生まれないと、余は嫁取りどころではなくてなー」
「めちゃくちゃ大変……!」
そんな事情があったのか。それでは確かに番探しに躍起になるはずだ。
「だからな、フィンヴィールとその番が子を成してくれるのが余のためにもなるのだ」
「……は?」
「まあ、それはおいおい……」
いきなり当事者にされて、悠花は面食らった。
(そうか……わたしも番だった……)
子を成す。そう言われて疑問が浮かぶ。
(わたしが……フィンと?)
全く想像ができない。求婚はされているものの、結婚すら想像できないのだ。それ以上など想像の完全に範囲外である。
確かにフィンヴィールは優しい。ゴールデンレトリバーの皮を被ったドラゴンなのも分かっている。おまけに顔もいい。結婚相手としては申し分ないのかもしれないが、何分悠花はフィンヴィールを知らない。良く知らない相手を、条件だけで結婚相手には選べなかった。
「まあ何だ、今日は登城しておると聞いたから顔だけ見に来たのだ。しかし話には興味があるから、またフィンヴィール付きで話を聞かせておくれ」
「はあ、まあそれくらいなら」
こうして悠花に、『皇帝陛下』というちょっと信じられない肩書の知人が増えた。




