スマホの謎が分かりました
「ところでさあ……その魔道具、何?」
悠花の処遇が一段落付いたところで、ケルノンが携帯に興味を示した。
「わたしがずっと使ってたもので……これ単体では無理ですけど、同じものがもう一つあればそれを持っている相手と話ができたり、文章のやりとりができたりします」
「……めちゃくちゃ便利じゃない?」
「そうですね。ただ、こっちに来てからはそういった連絡が全くできないようになってて……あと、電池……使用に使うエネルギーも、ずっと減らないで使えてて……なんか不思議なブツになってるんですよね……」
「借りていい?」
「どうぞ」
ケルノンに携帯を渡すと、四方八方から眺めだす。そして悠花がしていたように画面を見ようとし――……。
「あれ? 見れない?」
「え? そんなことは……」
ケルノンに携帯を差し出され、画面に触れる。いつもどおりの画面が表示された。
「あれ?」
「見れますよ?」
そのままケルノンに渡すが――……。
「ダメだねこれ。僕じゃ動かせない」
「!?」
興味深そうに眺めるに留まり、悠花が瞠目する。
「あー……え……? 成程……?」
「え……いったい何が……」
携帯を眺め回し、悠花と見比べ、ケルノンが首をひねった。
「……信じられないけど、実物があるもんなあ……」
「何か問題でも?」
「んー…………魔道具ってさあ、使うときにだけ魔力流すタイプと常時魔力使うから何らかの手段で魔力供給しなきゃいけないタイプがあるでしょ?」
「そうですね」
(そうなんだ……)
「で、どうやらこれは常時タイプ。さて問題は何でしょう?」
「この小ささからして、魔石の使用はしていないでしょう。となれば宝飾品型のように、使用者の魔力を使用するものになりますね」
「そう。でもこれ……君の番が持ち込んだものでしょ?」
「……そんなエネルギーでは動いてなかったですねえ……」
携帯は電力で動くものだ。魔力という謎のエネルギーではない。
「どう動いてた?」
「電力……雷みたいなものって言えばいいですか? あれのエネルギーを利用して……動かしてるというか……」
詳しいことはググらなければ説明できない。悠花は本当に簡単な概要だけを話した。
「……それはそれで興味のある話だなあ」
「必要なら後で図説とかするので……文章はフィンに書いてもらって……」
「じゃあそれでレポートよろしく。君の世界もなかなか面白そうだねえ」
「雷を発生させる魔力とは関係が無いのですか?」
「そもそも魔力が無いから……。発電っていって、雷のエネルギーを人工的に作り出して、それで色んなものを動かしてた感じかな。魔力そのものじゃなくて、雷。純粋に雷だけ」
「自然発生する雷は魔力とは関係が無いからね。確かにあれもエネルギーだ。下手に落ちれば火災にもなるし、人も死ぬ」
やはりケルノンは理解が早い。思考が柔軟なのだろう。……実験に関しては頑固そうではあるのだが。
「んー……【世界の壁】を超えた弊害……いや、こっちは恩恵かな? やっぱり分解されて再構築されたんじゃないかと思うんだけど」
「私の魔力でですか?」
「うん。君と、君の番と、この魔道具。魔力の色が大分似てる。揺れ方も、全部」
「悠花が、私の……」
「?」
どこか感慨深げにフィンヴィールに見つめられ、悠花は首をひねった。
「魔力って人によって違いがあるんですか?」
「あるよー。色とか、魔力の出方による揺れとか……ある程度魔力が高くて、視点を合わせればそういうのが見える。僕はそういうの得意にしてるけど、別に珍しい技術じゃない。常識レベルの話だね。書類の偽造を防ぐために、本人の魔力を使って署名させることもあるくらい」
「魔力で……署名……?」
「貴女に渡した手紙です。己の血を用いて署名をする。血液には魔力が多大に含まれていますから、唯一無二の証明になるのです」
「! あれ……そういう意味だったんだ……」
DNA的な検査方法だと思っていたが、そうではなかったらしい。
「魔力の色が似ることってあるんですか?」
「血縁関係があると似てる事があるねえ。でもどれだけ似てるかはまちまち。君たちみたいにほぼ同じなんてことはありえない。特に魔道具なんて、作り手の魔力が乗るから、もっと複雑な色味になる。だからこれは君みたいに、フィンヴィールの魔力で再構築されたものなんじゃないかな」
「私の魔力を吸っているものの一部ではありませんか?」
「可能性はあるねえ」
「え……! じゃあ、使わない方がいい……?」
「いや、君本体に比べたら微々たるものだよ。無視していい」
「ええ……」
自分という存在の魔力消費量はそこまで多いのか。しかしこれからもスマホが使えるのなら、有り難い。
「しかし面白い魔道具だねえ。やっぱり全体から魔力を感じる。普通は魔力素材じゃない場所に魔力は感じないし、魔力も素材別でムラがあるんだけど、これは本当に均一。君に近い」
「えー……」
携帯と近いと言われても、どういう顔をしていいのか分からない。
「あれ、でも、これの他にもいろいろ持ち込んでますけど……そっちも同じことになってるんですか……?」
「それは見てみないと分からないねえ」
「あ、それと、この携帯、何をしてもいつの間にか手元に戻ってるんですけど……!」
「え……なにそれ……」
「えぇ……」
ドン引きしたようなケルノンの表情に、悠花は微妙な顔をした。
「……ちょっと説明してもらってもいい?」
「えっと……まずは奴隷商のおっさんのところで、鞄に入れてた携帯ごと取られたんですけど、牢で気付いたら足元にあって。次に砂漠の国で、最後に置いてきちゃったと思ったんですけど……服の、ポケットの中に知らないうちに入ってて……」
「……フィンヴィール、君の番は話してて飽きないな」
「あげませんからね!?」
「そういう意味じゃないよ。まったく……次から次に興味深い事を言う。その魔道具以外は手元には戻ってこない?」
「はい……」
「その他の物品は、全く?」
「はい……」
「そちらは私が買い戻し、うちに届けてもらいました」
楽譜にリュック、踊り子ちゃんといっしょに買った、思い出の品などである。どれも勝手に悠花の手元に戻ってくるようなことはなかった。
「うーん……他の品との差は何だ……? 素材? 何らかの条件? どうして差がある?」
「携帯と、楽譜と、リュックと、筆記用具やお財布の差……」
「……『携帯』と言うことは、常に携帯していらっしゃるのですか?」
「え? うん、そうだね。楽譜は持ち歩かないけど、携帯は持ち歩くよ。お財布は家の中では持ち歩かないけど、携帯は持ち歩く」
「使用頻度の差? だとしたら……【世界の壁】にその魔道具も君の一部として認識された……?」
「そんなことあります?」
「分からない。【世界の壁】なんてものを超えた人間を見たことが無いから。ただ君の一部だと認識されたってことは、同一魔力のものとして常に近くに在るのかもしれない。僕たちでも例えば腕がふっ飛ばされたとして」
「すごい例え出てきた」
「ふっ飛ばされた腕の位置くらいはなんとなく分かるんだよ。自分の一部は自分の魔力があるから」
「えぇ……」
悠花の知らない生物の生態である。悠花の常識では、自分の一部が切り離されたとしても知覚などできるはずもない。
「でも……わたしは携帯の位置は分かりませんよ……?」
「身体強化がちゃんとできるようになれば分かるんじゃない? 仮説が正しければだけど」
「……参考までに聞きたいんですけど、その吹っ飛んだ腕って繋がるんですか……?」
「魔力の繋がりが濃いうちならば問題なく繋がります。己の魔力であればある程度引かれ合う性質があると考えられているので、治癒に関してもそうなのではないかと」
もし時間が経ってしまったら、さすがに繋がらないらしい。悠花はまたひとつ、竜の生態を知った。
「……ん?」
ふとフィンヴィールが視線を扉へ向ける。
「どうかした?」
「足音が。あの足音は……多分……」
(まさかまたロウシーンちゃんが……!)
扉を見ていると、確かに悠花の耳にも軽い足音が聞こえてきた。また美少女に会えるとわくわくしてる悠花の前で、扉が勢いよく開けられた。




