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身体強化というものを知りました

不定期更新です。

「そう言えば、この間結局どうしてわたしがフィンを突き飛ばせたかっていうのの理由を聞いてなかったんですけど」


 魔法陣の話が一段落したところで、悠花は聞きたかったことをケルノンに尋ねた。


「ああそれ? 身体強化だね」

「は?」

「えっ、悠花が?」


 さらりと答えを言われ、悠花の頭にクエスチョンマークが飛ぶ。


「……最初から、説明してもらっていいですか? まず、身体強化ってなんですか……」

「それは僕よりフィンヴィールの方が専門だねえ」

「そうですね。この間、強さについてお話をしたでしょう? 魔力があればあるほど、力が強くなると」

「うん……」

「それを『身体強化』と呼んでいます。魔力によって、己の身体を強化する方法です」

「なるほど……?」


 魔力があれば力が強くなる。それは分かった。しかし悠花には、魔力の使い方など分からない。そんな力があるということすら、最近知ったところである。


「すごいよー、フィンヴィールの身体強化。この細さなのに大量破壊兵器みたいなんだもん」

「え……」

「悠花を怖がらせるような事を言わないでください……!」


 フィンヴィールが強いことは把握している。この国で一番強いのだということも理解している。しかしどれくらいの強さかということまでは知らない。


「……そんなに? 国で一番強いことは聞きましたけど……」

「うん。桁違い。お父上は竜の中では平均的な魔力量だったんだけどねえ」

「強ければ宰相ではなく軍事職に着いていたでしょうね」

「え、宰相?」


 それは今のフィンヴィールやケルノンに匹敵する偉い人ではないのか。悠花の言葉に、ケルノンは不審そうにフィンヴィールを見た。


「……ちゃんと会話してる?」

「してますよ! 悠花の好きな食べ物とか……!」

「君の方の話はしてる? ……聞いてる?」

「……そう言えば、あんまり……」

「ほらー!」


 家で一番偉いのは、まだ若いフィンヴィールだ。フィンヴィールの両親という人は居ないし、どうしているかも聞いたことがない。


「いや、でも……ここに来てから毎日の情報量が多すぎて……そこまでは気にしてなかったと言うか……」

「あー……僕としても、異世界からの番なんて初めてだからねえ。通常ならこんなにお城に呼び出したりしないんだけど」

「いえ、こちらも分からないことが解決したりするので……」


 分からないことが多すぎて、何が分からないのかが分からない。気になったことは都度聞いてはいるが、それでも膨大な量になるだろう。


「まあとにかく、フィンヴィールのお父上は先代の宰相。この国の貴族制度については聞いたかな?」

「はい。役職に応じて貴族位が与えられると……」

「そうそう。ちなみに僕の生家は伯爵位程度の官僚。文系の貴族位だと、宰相の侯爵位が最高位。軍務系だとフィンヴィールの将軍職が同等の侯爵位。僕の魔法研究所所長の肩書もそうだね。あんまり無いんだよー、2代で同等の貴族位って」

「……何だか、親が高位だと子供が苦労しそうですね……?」

「そう? 子供なんて好きにやればいいし、気にする人は少ないよ」

「そうなんだ……」

「ええ。子供は伸び伸びと育つのが一番ですから。それに魔力量が分からなければ、適正職も分かりません。本人の好みは優先されますけどね」


 この国は、本当に子供に対しては手厚いらしい。


「親の職で進路が強制されるなら、そもそもフィンヴィールが将軍職してないでしょ」

「た、確かに……!」

「ほんっと小さい頃から魔力量が多くて、どこまで増えるかと思ってたけど……とんでもない量になったんだよね」

「……子供の頃の話は止めてください」

「ちょっと興味はあります」

「! 帰ったら昔の肖像画をお見せしましょう……!」


 フィンヴィールがものすごい勢いで掌を返した。どうやら自分に興味を持ってもらえたのが嬉しかったらしい。


「ははは、ついでに両親の肖像画も見せてもらいなよ。すっごい母親似だから」

「そうなんですか……?」


 フィンヴィールの容姿は女性的だ。顔だけ見れば、女性に見間違えてもおかしくはない。この顔の女性が居るのなら、大層な美女だろう。


「そのうち母の元へも連れていきましょう」

「生きてるの!?」


 家にも居ないし、亡くなったと思っていた。悠花の反応に、ケルノンが苦い顔をする。


「……フィンヴィールさあ……」

「話す機会が無かっただけで……! ……私の両親は、今は母の故郷で暮らしています」

「そうなんだ……」


 まさか両親揃って元気だとは思っていなかった。


(本当にわたし、フィンのこと何も知らないんだな……)


 家にお世話になっているのに、今まであまりにもフィンヴィールに興味がなかったのではないか。これからはもう少し色々と尋ねてみようと、悠花は思っていた。


「母が都会を好まないので……私が成人したら即父が隠居し引っ越していきました」

「フィンヴィールの家も番の家だからねえ。番が望むなら仕方ないよね。逆に森人が、よくフィンヴィールが成人するまでこっちに居てくれたと思うけど」

「森人……? 知らない種族かも……」

「ああ、あまり南の方にはいませんし、自分の森から出ることが少ない種族なのですよ。我が父ながら、よくそんな種族を番として見つけたものだと……」

「人間の中でも、植物に近い種族だね。魔力も高いんだけど。特徴としては植物食、性格は気が長くて温厚。あんまり感情の起伏はなくて、自然の中で暮らしてる」

「なるほど……?」


 人間という分類の中でも、色々な種族が居るのだろう。動物に近い獣人が居るのだから、植物に近い人間が居てもおかしくはない気がする。


「髪と眼の色はお父上似だねえ」

「そうですね。容姿はそれ以外似ませんでしたが……」

「じゃあ、フィンは竜と森人のハーフ……?」

「種族的な話? 親の種族の魔力が高い方の種族が生まれるよ」

「そんな仕組みなんですか!?」


 悠花の知っている遺伝とは全く違うプロセスだ。そもそも身体の作りが全く違うのだろう。魔臓などというものがあった時点で、それに気付くべきだったのかもしれない。


「外見の特徴は混ざったりするけど、種族としては魔力の強い方が出るよ。だから竜は、どんな種族と番っても竜が生まれる」

「え……じゃあ、竜の人がみんな番を見つけたら、やがて世界が全部竜の人になる……?」

「そこまで増えるかねえ」

「どうでしょうか……。番であっても、私は兄弟もおりませんし……」

「あ、そういう感じなんだ」


 人口問題というのは、なかなかに難しい話のようだ。


「あっ、それで、魔力が強いと身体が強くなるって考えでいいんですか?」


 大元は、『身体強化』という聞き慣れないものの話だ。悠花は思い切り脱線していた話を元に戻した。


「肉体の力を1だとすると、魔力でそれがヒトなら2とか3、獣人の強いのだと8とか10とかになったりするわけ。魔力があるから常に強いってわけじゃなくて、使う時に筋肉に魔力を流して強化してるの。普段から強い力があるのなら、フィンヴィールとかまともに暮らせないよ」

「……じゃあ、わたしは……?」

「無意識の身体強化だろうねえ。君が居た塔は根本から持ち帰ってきてるんだけど」

「『持ち帰ってきてるんだけど』!?」

「うん。調査にいるかと思って。君が言ってた『落下した』って話、どう考えてもヒトの身で怪我もなく済む高さじゃないんだよね。あと外壁が割れてたんだけど、壁蹴ったりした?」

「あ……」


 覚えがある。必死でバタつかせた脚が当たり、多少勢いを殺せたのだと思っていた。


「君が落ちて無事だったのは、壁を蹴って勢いを殺したことと身体強化だと思う。無意識で発動したんだと思うよ。後さあ、塔から出て、森に入った後ってどうやって移動した?」

「えっと……ひたすらに、走って…………あ、途中で、赤い竜を見ました!」

「……フランですね」

「だろうねえ。で、走って……それもきっと、『逃げる』って意識で夢中だったんだろうね。多分身体強化を使って、ヒトからしたら信じられない速度で信じられない距離を走ってると思う」

「そうだったんですか!?」


 自分の知らない事実がぽんぽん出てくる。悠花は情報量の多さに、また頭を抱えた。


「私達は、ずっと塔から脱出した悠花を探していたのです。ヒトの身で移動できるであろう距離から範囲を絞り……しかし身体強化で、その想定を大幅に越えた場所に居た」

「えっ……それはご迷惑を……」

「いいえ。もしその速度で移動していなければ、貴女は旅の一座と出会うことはできなかった。だから良かったのです」

「フィン……」


 ずっと探していてくれていたのだ。それすらも、悠花は知らなかった。ほんの少し、胸が熱くなる。


「……ありがとう」


 悠花は心から、そう礼を述べた。

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