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家を案内してもらいました

不定期というか不定時になっている気が…。

ブックマークやポイント、ありがとうございます!

「ひっっっろ……」


 雪のない、歩ける部分だけでもと庭を案内された悠花は、敷地の広さについそんな声を出した。広い。とにかく広い。下手にこの冬に庭に出たら、遭難しかねない。


「フィン……は、貴族……?」

「はい、そうです。他国であれば侯爵位に相当しますね」

「……他の国と、違うんですか?」

「我が国は、爵位によって職が決まるのではなく、職によって爵位が与えられるのです。この邸宅も使用人も爵位に付属しているので、職を辞せば別の住まいを探す必要があります。まあ、使用人は場合によっては住み替えをする主人についていく場合もありますが……」

「なるほど……?」


 社宅のようなものなのか。しかし、長い間世襲で職に留まるという腐敗は防げるのかもしれない。


「私の場合はたまたま父も高位職だったので、生まれた頃からここに住んでおります」

「引っ越しも普通なんですね」

「そうですね。騎士などは独身であれば寮に入りますし、上級職になれば小さな家から支給されるようになります。ただ、面倒だからだと寮に住み続ける者も当然居ります」

「フィン、も寮に?」

「いえ、私は軍に入る前より魔力量が多かったので……色々と、短縮されて」

「短縮」


 その結果が軍の最上級職だ。どれほど短縮されたのかをなんとなく察した。


「ケルノンも私と同程度の邸宅を持っていますよ」

「えっ、お城の部屋に住んでそうだったのに……?」

「……帰らないんですよね。魔法馬鹿なので登城の時間が惜しいと」

「ああ……」


 さっき通された、ケルノンの巣のような研究室。雑多に積まれた本やなんだか分からないものが転がっていた。


「まあ、確かに思い付いたらすぐに実験をしないと気が済まない人なので……仕方ないとは言えます」


 悠花たちも、呼ばれて行ったのに最後は適当に終わったのだ。あれでは確かに、思い付いて登城するまでの時間は無駄に思うだろう。


「次は中を案内しましょう」


 人の通り道だけは雪もなく、温かい。温度差を感じること無く室内に入ると、まずは玄関ホールの広さが目に飛び込む。


「貴女がどこへ行っても、咎めるものはおりません。お好きな場所へ行ってみて構いませんよ」

「……歌の練習は、部屋ですればいいですか?」

「ホールがあります。そちらなら声も響くでしょう。……また、何か聴かせてください」

「はい!」


 歌う許可は貰えた。それだけでも十分だ。

 真っ先に案内してもらったホールは、ちょっとした広さがあった。


「……広すぎません?」

「時折夜会も催す場所です。もっと狭い場所の方が良かったですか?」

「1人でこの広さは……ちょっと」


 どう考えても、テニスコート1つより広い。そこでぽつんと歌う自分を想像しただけで、少しさみしくなってくる。


「って、あ……! わたしのスマホ……!」


 はたと、大事なものの存在を思い出した。あの砂漠の国の自分の部屋で見たのが最後だ。有無を言わさず風呂に連れて行かれ、フィンヴィールの前に連れてこられ――今である。


「ど、どうしよう……」


 あれが無くては何もできない。それ以上にあれは、悠花と元の世界を繋ぐたった1つのものだった。日々日本のニュースを見、戻っても遅れを取り戻せるようにしていたのだ。それを失ったと思うと、眼の前が暗くなる。


「悠花……?」

「どうしよう……」


 悠花は力なく腕を落とし――スカートの中の違和感に気が付いた。


「え……?」


 ワンピースのサイド。腰のあたり。もしかして、と探ってみると、手の入る場所がある。恐る恐るそこに手を入れると、馴染んだ硬質な感触がした。


「……なんで、ここにあるの……?」

「……それを探していたのですか?」


 どう説明すればいいのだろう。思えばこれは、常に悠花の傍にあった。奴隷商の館で、荷物の全てを取り上げられた後も、何故か。


「……ケルノンさんへの相談事項が増えました……」


 自分で考えても答えが出る訳がない。悠花は他人(ケルノン)にぶん投げる事を決めた。


「何があったかは知りませんが……貴女の目当ての、厨房に参りましょう。元気が出ますよ」

「楽しみにしてました」


 いつまでも悩んでいても仕方ない。悠花はすぐに頭を切り替えた。



「ここも広い……」


 厨房をこっそり覗くと、何人もの人が忙しそうに立ち働いている。どうやら既に、夕食の仕込みが始まっているらしい。


「おや旦那様……と奥様」

「違います」


 誤解は早いうちに修正しておくに限る。悠花が即否定すると、フィンヴィールが泣きそうな顔をした。


「あの、ご飯美味しかったです。ありがとうございます」

「旦那様はあまり菓子に興味を示されないので……こちらこそ張り合いが出ております」

「え、甘いもの嫌い……?」


 先ほども自分と一緒に食べていなかったか。悠花がフィンヴィールを見ると、困ったように微笑まれる。


「嫌いという程ではありません。苦手でもないですが、自分から食べたいと思うことが少ないだけです」

「じゃあ……さっきは無理してました……?」


 もし付き合ってもらっていたなら悪いと、悠花は様子を伺った。しかしフィンヴィールの笑顔には曇りはない。


「いいえ。貴女と共に過ごし、感想を語り合う時間はとても好きです。料理長には今後とも腕を振るっていただかなくては」

「……噂には聞いていましたが、竜の人ってこんなに変わるものなんですねえ」

「あれ、料理長……は、竜ではない……?」

「俺はただのヒトです。ヒトの料理人が一番評判が良いんですよ」

「種族差……?」

「そうですね。私達竜は色々と大雑把なところがあるので……。料理や庭造りといった創造分野は、竜以外の種族の方が向いているのです」

「そうなんだ……」


 ところ変われば就職事情も変わるのだと、悠花はぼんやりと思った。


「ああそうだ、悠花は作ってほしい料理があったのでは?」

「そうだ……!」


 米はない。しかし小麦はある。それなら作れるものは多いだろう。


「パスタってありますか……!」

「……賄用なら」

「賄限定なんですか?」

「庶民は食べますが、お貴族様にわざわざ出さないですね」

「わたしは食べたいです。大好きです」

「……旦那様」

「彼女の望むように」


 あんな美味しいものを食卓で食べられないのはもったいない。


「美味しいレシピならいくらでも教えます!」


 そう、悠花にはスマホがある。言葉が通じるようになった今、勝手に言葉が翻訳されるのなら材料を伝えるのにも困らないだろう。現に『パスタ』は通じているし、原語は間違いなく悠花の知らない言葉だ。


「パスタが夕餉に使えるなら、料理の幅も広まりますね」

「あと、それだけじゃなくって……!」


 パスタは美味しい。しかし、悠花が作ってほしいのはラーメンである。悠花はその場で検索しながら、料理長に豚骨スープのレシピとパスタを中華麺風にするやり方を教えた。


「なかなか手間がかかりますね。それに、動物の骨…………あまり、上品な味にはならないかもしれません」

下品(ジャンク)でいいんです……! わたしの故郷の料理なので」

「旦那様……」

「作ってください。彼女の故郷の料理は、なるべく食べさせてやりたいので」

「かしこまりました。試作にしばらくお時間を頂いてもよろしいですか? 奥様」

「奥様じゃないです。時間はかかってもかまいません。よろしくお願いします」


 奥様ではない。しかし自分の我儘を聞いてもらえるのはありがたい。


「ありがとう、フィン。おかげで懐かしい味が食べられそう」

「この程度、容易いことですよ」


 『奥様ではない』にまた泣きそうな顔をしていたフィンヴィールが、嬉しそうに微笑んだ。

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