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魔法の庭がありました

書きたてです。

「結局……健康なことと魔力があること以外何も分からなかった……」

「まあ、今後嫌でも……ええ、嫌でもケルノンとは顔を合わせることになりますから」


 フィンヴィールの屋敷に戻り、悠花はぐったりとソファに背を預けていた。言葉が理解できるようになってからというもの、情報量が多すぎる。


「気分転換に、庭でお茶でも飲みましょう。料理長がまた、お菓子に力を入れていますよ」

「……庭?」


 窓の外は、雪である。竜は寒さに強いのかもしれないが、悠花はただの人間だ。微妙な顔をしている悠花に、フィンヴィールが笑いかけた。


「ええ。魔法の庭です。興味はありませんか?」

「あります」


 魔法の庭、というからには、珍しいものが見られるのだろう。悠花はフィンヴィールに案内され、庭へと出た。


「あれ、あったかい……」


 レンガ敷きの通路の上は、ぽかぽかと温かい。その周りでは雪が積もっているのに、通路の上はからりとして水分すら無かった。通路を進むと、東屋が見えてくる。


「花壇が……」


 そこは、雪景色の中に春を切り取ったような場所だった。暖かく、色とりどりの花が咲き誇っている。


「本当はもっと美しくなるのでしょうが……突貫で作らせたので、今はこれが精一杯です」

「作った……?」

「はい。貴女が花を愛でる場所が必要かと思いまして」


 もしかしてこの男は、とんでもない金持ちなのだろうか。よく考えれば、何の仕事をしているのかも知らない。


「……フィン、は、何の仕事をしているの……?」

「私はこのガリュオンで、将軍の職に就いております」


 これでも強いんですよ、と朗らかに笑うフィンヴィールは、とてもそうは見えなかった。男性だと分かるとは言え、線の細い身体だ。将軍と言うことは、軍人だろう。正直、悠花にはあまり信じられなかった。


「……部下を鍛えたりとか……?」

「はい。若者は血気盛んな者が多いですからね。もう子供の甘えが許される場ではないと、教育するのも私の務めです」

「負けたり、しないんですか……?」

「はは、私に勝てる者はこの国には居りませんよ」


(そんなに強いの!?)


 全くそうは見えない。悠花にとっては、大型犬のイメージしかないのだ。


「……強さって、何で決まるんですか」

「魔力量ですね。私は大変魔力が多いので、身体に込められる魔力もそれだけ多いのです。人体そのものの力を1とすると、魔力次第でそれが何倍にもできるのですよ」

「なるほど……」

「さあ、立ち話も何ですから。続きはお茶でも飲みながら話しましょう」


 東屋を見れば、いつの間にかお茶の用意がされていた。ティースタンドに乗せられた、小さな、しかし何種類もあるケーキに悠花の目が輝く。


「おいしい……」


 卵の風味と、バターの風味。それにこれは、アーモンドだろうか。焼き菓子の見事な調和に、顔が綻ぶ。注がれたばかりの紅茶も、素晴らしく菓子と合っていた。


「いっぱい食べてくださいね。料理長も張り合いがあるでしょうから」

「すごく美味しいです。そのうちお礼を言いに行きたいですね。わたしの食べたいもののレシピも教えなきゃいけませんし……」

「その時は、私も一緒に行きましょう。家人を労るのも主人の務めです」


 そういうものかと、悠花はまたひとつ口に菓子を放り込んだ。


「悠花は甘いものが好きですね」

「こっちに来てからは、あんまり食べられなかったので……その点、一番待遇が良かったのは砂漠の国ですね。いつも果物が付いてました」

「うちも付けますし、それ以上にこういった菓子も付けますよ」

「素晴らしい……」


 お菓子は貴重だ。街で売っているのすら、あまり見たことがない。ただしこことは遠く離れた国での話なので、もしかしたらこのガリュオンという国ではお菓子はメジャーなのかもしれなかった。


「そういえば……魔法の庭って、どんな魔法がかかっているんですか?」

「周辺の空気を温めるものと、湿気を消すものですね。温めるだけでは、雪が溶けて大変なことになるので」

「それ……普通の設備なんですか……?」

「空気を温めるだけのものなら、とても一般的な魔法陣です。ガリュオンは雪が多いので、屋根や道路に取り付けておかないと大変なことになりますからね」

「雪下ろししなくていいんだ……」


 日本でもそんな設備はあるが、ここまで快適なものではない。そう考えると、この世界の魔法というものは、現代の日本より進んでいる箇所もあるのだと思う。


「そういえば、先程の私の仕事の件なのですが」

「はい」

「今現在、私は怪我の後遺症で休職中です。多少出かけることはあっても、貴女に寂しい思いをさせることはありませんよ」

「え……はい」


(そんな嬉しそうな顔で言われても……)


 自分が番だからだろうか。そもそも、番という存在も、あまりまだ分かってはいない。


「番って……どうやって決まるんですか?」

「分かりません。出会った瞬間に、相手が番だと竜には分かるのです。一説には神が決めたのだとおっしゃる方もいらっしゃいますね」

「そんなにすぐ見つかるものなんですか?」

「いいえ。大抵の竜は、番が見つからずに一生を終えることになります。ああ、番というものは、長い生を憐れんだ神からの贈り物だという方もいらっしゃいますね。同じ時を歩む、心から愛しく思う相手。空想的な話だと思っていましたが、今では分かる気がします」


 そう言ってフィンヴィールは、カップの紅茶を一口飲んだ。


「じゃあ……竜の人って、たいてい独身……?」

「いいえ。さすがにそれでは人口が維持できないので、政略結婚が大半です。私もそろそろうるさく言われそうな年頃だったので、ほっとしています」

「……政略結婚した後に、番が見つかったら……?」

「勿論離婚します」

「勿論!?」

「当然です。番への想いを捨てられる竜は居りません。相手もあくまで政略の相手としか思っていませんから、別れても何も思いませんよ。私達は、番にしか恋心を抱けないのです」

「え……」

「ケルノンなどは、もう長い間政略結婚を断っていますね。まあ彼ほどの功績が無ければ、断れもしないとは思いますが」

「……すごい人なんだ……」

「魔法に関しては天才です。ただし魔法馬鹿なので…………頻繁に、さっきのような事に……」

「ああ……」


 きっと、思いついたらそれしか見えなくなるのだろう。呼び出され、話をしていたのに途中で放り投げて放置されるとは思ってもいなかった。


「まあ、疑問は全てぶつけてみると良いと思います。貴女の疑問から、また新しい何かが生まれることもあるでしょう」

「……疑問だらけなんですよね……」


 本当に帰れるのか。帰ったら、この魔力というものはどうなるのか。その辺りの、知るのが怖い疑問から『どうしてフィンヴィールを突き飛ばせたのか』辺りの軽い疑問まで様々ある。


「今日は他に予定もありませんし、後で屋敷を案内しましょう。厨房も、その時に」

「フィン……は、忙しくないんですか?」

「はい。休職中なので」


 だからいくらでも付き合います、と、フィンヴィールは嬉しそうに笑った。

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