表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/88

番と

2話目です。

(彼女は、まだでしょうか……)


 悠花を渡すと言われたものの、なかなかその姿は見えない。フィンヴィールは身体を縮こまらせて、中庭で大人しく待っていた。

 やがて、女たちに伴われて人影が見えた。


「!」


 忘れるはずもない、愛しい姿。一瞬で瞳が金に染まる。


(彼女だ……)


 髪は少し伸びたのだろうか。サハリール風の衣装に、髪は纏められてベールをかけられている。血色も身なりも悪くはない。奴隷とは言え、それなりに大切にはされていたのだろう。その身を宝飾品が飾っているのが少し気に入らなかったが、王は約束を果たしてくれた。


「ありがとうございます。これで無事に彼女を連れ帰れるでしょう」


 用意してもらったのは、バスタブだった。ガリュオンであれば専用の籠があるが、仕方ない。しかし硬いバスタブの底にはクッションが敷き詰められ、番も不快な思いはしないだろう。

 戸惑いを隠せない顔の番が、宦官であろう男によってバスタブに抱え入れられる。気に入らない光景だが、自分で直接掴んで入れるよりはマシだと思えた。


「この御恩は必ず。長き生で忘れないと誓いましょう」

「……早く行け」

「はい。ありがとうございます。サハリールの偉大な御方」


 サハリールの王は不機嫌そうだが、こういう顔なのだろう。


「では行きましょうか。私の国へ」


 バスタブを持つと、番の顔色が一際悪くなる。翼を羽ばたかせて飛び立つと、番が不安そうにバスタブから地面を見下ろした。


「ガリュオンまではすぐです。心配は要りませんよ」


 通じないと分かっていても、番に声をかける。もう少しで、会話だってできるようになる。あの可愛らしい声で名を呼ばれたら、どれほど嬉しく思うだろう。


「貴女は何がお好きですか? 貴女に、贈り物をいっぱいしたいのです」


 他の人間が贈った花束でなく、サハリールの王が贈った装飾品でなく、自分が贈ったもので満たしたい。番が居ると言うことは、それだけで幸福だ。


(ケルノンの実験が、上手く行けば良いのですが……)


 全ての竜が番に出会える幸福を味わって欲しい。自分だけではどこか後ろめたい気がする。


「貴女のお部屋も、勿論用意してありますよ。気に入らなければ、何でも言ってくださいね」


 バスタブの縁にもたれかかる番の姿は、あまりに小さくて可愛らしい。


「ああ……愛しています」


 フィンヴィールはたまらずに頬を擦り寄せた。


「うん?」


 と、番が横へ倒れ込む。ぼふりとクッションに埋もれた番は、気絶しているように見えた。


(高い場所が苦手だったのでしょうか……。悪いことをしてしまいました)


 番を入れて運ぶ専用の籠は、外が見られないものにした方がいいのかもしれない。移動する度に気絶させてしまっては、可愛そうだ。

 望めば背にだって乗せるが、竜の背に乗るような番はあまりいない。だいたい皆籠に入れて運ばれている。


(苦手なら、気絶している間にガリュオンに向かいましょう)


 手で守ってやれば、そう風も当たらないだろう。フィンヴィールは一層翼を羽ばたかせ、ガリュオンへと速度を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ