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砂漠の王

短いので本日2話更新しています。

こちら2話目です。

「小鳥、か」

「はい。何やら不思議な歌を歌うと、南方で評判が高く……それを捕まえましたので、王に献上をと」

「……良いだろう。許可する」

「はっ」


 退屈な毎日。退屈な会話。砂漠の国、サハリールの王アサディーンは、日々に飽いていた。兄弟に殺されるくらいならと、自分が王になった。しかし、王に待っていたのは、退屈な日々だけだ。政治など、口を出さなければ大臣が回す。戦争もなく平和な今、王に求められるのはより強い子を成す事だけだ。


(くだらない……)


 大方、多少歌の上手い娘を後宮に入れる名目だろう。もう何人もそんな女を見てきた。自分の後宮に、女が何人居るのかも興味が持てない。アサディーンは、死んだような毎日を送っていた。



「お聞きになりましたか? 小鳥の話を」


 食事時、同席を許した妾の1人がそう言ってしなだれかかってきた。


「ヒトでしょうに、素晴らしい歌で……わたくし、感動してしまいました」


 わざとらしく表情を作って見せる豹の顔に、内心怒りを覚える。王が許可をしなければ、後宮で大掛かりなことはできない。小鳥の鳥籠を許可したのは自分だ。小鳥の存在くらい知らないはずが無いということを知らないのだろうか。無知で、浅はかな会話。これにもうんざりする。いっそ、口の利けない娘のほうがマシだとすら思えてくるほどだ。


(……しかし、小鳥か……)


 妾には何も答えず、ぼんやりと自分に献上されたもののことを思う。ただの歌なら、聞いていても不快ではないだろう。

 翌日中庭に向かうと、ちらほらと人影があった。視線を向けているのは、金色の鉄格子だ。


(まさに『鳥籠』だな……)


 下から見上げれば、湾曲した鉄格子がせり出しているのが分かる。カーテンは閉まっており、中までは分からない。しかしすぐに、歌が聞こえてきた。


(これは……)


 心の中を見透かされるような、切ない歌。アサディーンは思わずその場に立ち尽くした。歌詞は分からない。それなのに、心を掻き乱される。


(何だ、あれは……)


 カーテンの向こうで、どんな小鳥が歌っているというのか。アサディーンは、小鳥に心を鷲掴みにされた。

 それからというもの、毎日のように中庭に出ては歌を聞いていた。明るい歌、悲しい歌、様々あるがどれも心を揺さぶられる。昼間だと言うのに、砂漠に浮かぶ月を連想するような時もあった。

 カーテンが開いた時に見た小鳥は、何の変哲もないような小娘だった。一瞬侍女かとも思ったが、小鳥の名はチェスミスィヤフなのだと聞けば、あの小娘が小鳥だったのだと分かった。


(今日も、聞こえる)


 噴水の淵に腰を下ろし、ぼんやりと歌を聴く。王が聞いていることを知り、女たちも中庭に集まるようになった。しかし多少睨みつけると、噴水には誰も近寄らなくなった。歌を聴く時は、それだけでいたい。くだらないおしゃべりや香水の匂いに、煩わされたくはなかった。

 幾日、そうしていただろうか。ふとある日、いつもの時間に中庭に行っても歌が聞こえなくなった。理由は分からない。しかし、歌っている時間は確かにあるのだと聞く。


(俺が、聴きたいのに)


 この後宮の主はアサディーンだ。後宮の全ての女は、アサディーンの奴隷である。アサディーンに逆らうことは許されない。

 その日中庭に出てみると、鳥籠に居るはずの小鳥は噴水で水と戯れていた。


(逃げていたのか……!)


 閉じ込めておかないから歌わないのだと察する。アサディーンは、振り返ったチェスミスィヤフの腕を思わず掴んだ。


「……歌え」


 歌を聞きたい。自分に捧げられた、小鳥の歌が。だが小鳥は言葉が分からないらしく、困惑の表情を浮かべている。


「―――、――――――――――――――――……」


 聞いたこともない言葉だった。どんな辺境から連れてこられたのかも分からない。歌わないのかと思っていると、チェスミスィヤフの眉がさらに下がっていく。掴んでいる腕は細く、アサディーンが少し力を入れれば簡単に折れてしまうだろう。


(……歌わないのか)


 この退屈な場所で、多少心を動かされるもの。王として全てが自由であるはずなのに、不自由だらけのこの場所で今アサディーンが欲しいもの。


(外になど出すから、歌わなくなったのだな)


 ではこれ以上、外に出すわけにはいかない。アサディーンは、困惑するチェスミスィヤフの腕を掴むと、再び鳥籠へと放り込んだ。


「お前はこの部屋から出るな」


 そう言って、戸を閉める。そしてそこに居た宦官に告げた。


「ここから出すな」


 出さなければ歌うだろう。部屋の鍵は、自分が持っていればいい。新しく付けられた鳥籠の鍵を受け取り、アサディーンはその場を後にした。

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