クソッタレな街と初めての味1
アタシはリア。旅一座『香風の巡り』の踊り子をしている。少し前まではアタシが看板だったんだけど……今は落ちてしまった。
どうしてかって? ネレイアよネレイア! あの、森で拾った子! あんな歌を聴いたら、嫉妬すら起きないわ。ネレイアが来てから、アタシたちはちょっと……ううん、前と比べたらだいぶ裕福になった。街に着いたらあのケチな座長がお小遣いをくれるくらい! それに、馬車だって新しい天幕だって増えたわ。それだけでも、ネレイアに文句は言いづらい。
それにネレイアは、言葉が話せない。耳が聞こえない訳じゃないのに、どうしてか言葉だけが通じない。でも身振り手振りで分かったりするし、頑張って一座の仲間になろうとしてるのも分かる。だから放っておけないのよね。アタシと同い年か年下だし、アタシからしたら妹分が1人増えたみたいなものよ。だから、何も分からないネレイアの面倒を見てあげてるの。
ネレイアのことは、何にも分からない。『ネレイア』だって座長が付けた名前だし、前に何をしてたのか、何でも森にいたのか、全部分からない。でも、悪い子じゃないのは分かる。アタシと一緒に街に行って、お揃いの髪飾りを買って……そういう、普通の友達に憧れていたの。だってアタシたちは旅の一座。どこかの街で誰かと仲良くなっても、すぐにアタシたちはまた旅に出る。一座には年の近い子は狼獣人のニコくらいしかいなくて、近くても小さな子ばっかりだった。だから、そういう子がずっと一緒に居るのは嬉しい。
アタシとネレイアは、基本的にはずっと一緒にいる。座長に目を離すなって言われてるのもあるけど。まあ、目なんて離せないわよね。だってあの子、喋れないし文字も読めない。街中で目を離したら、一座のところまで戻ってこれないんじゃないかしら。
夜に寝るときだって一緒よ。言葉が通じなくても、なんとなく何を話しているのか分かる。今日あったことを話して、笑って、そのうち一緒に眠りに落ちる。最近は、チビたちが傍に居ることもあるわ。ネレイアの子守歌が聴きたいんですって。
ネレイアの歌は不思議よ。歌詞は全く分からないのに、感情が揺さぶられる。アタシだけじゃなくって、みんなそう。ネレイアの歌には、不思議な力がある。
座長はそれを良く分かっているわ。ネレイアの歌は人を呼べる。悔しいけど、アタシの踊りよりもずっと。最近は、楽師のリカルドと組んでいることもあるわ。ずっと世捨て人みたいに死んだ目をしてたリカルドも、ネレイアと組むうちに、ちょっとマシな目をするようになった。昔は顔と音楽で随分女を泣かせてたって聞いたけど、今なら信じられる気がするわ。だって本当に、演奏人形みたいな奴だったんだから。
アタシたちが新しくやってきたのは、エスギルの中でも大きな街、アトゥス。このあいだのレグダムより大きくて、エスギル第2の都市って言われているくらい。……ほんとは、この街は好きじゃない。もっと小さい頃ここに来た時は、アタシたちが旅芸人だからって差別されたから。
アタシたちは自由なの。風みたいに、街から街へ旅をするのが好きなの。街の中に凝り固まって過ごすのなんて、まっぴら。でも、そんなアタシたちをよく思わない奴らはいる。特に言葉も分からないネレイアは、何をされるか分からない。人目に触れる時は舞台の格好をさせておけっていう座長の言葉に、アタシも賛成した。まあ、ネレイアは1人で勝手に出かけるような子じゃなかったけど。
「ネレイア、これあなたに」
「―?」
ネレイアってすごいのね。この街で公演を始めて、一気に贈り物が増えたのよ。花なんて、もう飾るところが無いくらい。山みたいな花束を見せたら、ネレイアは昼公演の舞台に飾っていたわ。自分の花束が並べられてるのを見たのか、もっと大きな花束が贈られてくるようになったけど。
花束以外ももちろんあるわ。お酒や金目のものは、座長が抜いていく。ネレイアに手渡されるのは、お菓子くらい。でもネレイアは気付いてもいなさそうだった。……ちょっと心配になるわ。座長がネレイアの前ではいつも上機嫌だからかしら? あんまり信用しちゃいけないって教えたいのに、ネレイアは気付かない。
ネレイアの分け前を手渡すと、その場で包みを開けた。
「―、――、―――――――!」
(えぇ……何よそれ……)
一気に上機嫌になったネレイアとは反対に、アタシはその焼け焦げたみたいな塊に苦い顔をした。どう見たって食べ物に見えないんだもの。
(嘘でしょ……)
ネレイアが嬉しそうに、一粒口に放り込む。見ているだけで口の中が苦くなりそう。ただそれを眺めていたアタシに、ネレイアがその黒いのを押し付けてきた。
「! 何を……! …………甘い?」
「――――――」
見た目からは想像もできないような香りと甘さ。
(なにこれ……こんな美味しいものが……!?)
食べたことのない美味しさに、感動する。ふとネレイアを見ると、いたずらを成功させた子供みたいな顔でアタシを見ていた。
「―――――、―――――――……?」
黒いのと、その中に一緒に入っていたカードをネレイアが交互に指差す。
(えーと……多分これを売ってる店ってことよね)
今、アタシの懐はちょっと温かい。こんなに大きな箱は買えなくても、ちょっと楽しむくらいは買えるかもしれない。
「分かった、ちょっと待ってて!」
街は広い。アタシ1人じゃ探すのも骨が折れるわ。だったら協力者を増やせばいいのよ。
「アンタたち! ネレイアがお菓子をくれるわよ!」
遊んでいたチビたちに声をかけると、一斉に寄ってきた。
「今度は何くれるの!?」
「おいしい!?」
「それは食べてのお楽しみよ」
チビたちを引き連れて、ネレイアのところに戻る。
「ねえ、この子たちにも」
こういう時、ネレイアは気前よくお菓子を分けてくれる。何も言わなくても、お菓子なら分けてくれる。そういうところがあるから、アタシより実力があっても憎めない。もう少し、ずるくなったっていいのに。そんなだから、座長に利用されるのよ。でも、仕方ないわよね。アタシが助けてあげなくちゃ。
「アンタたち、口を開けなさいよ」
チビたちを並ばせると、ネレイアが口に黒いのを放り込んでいった。
「……!」
(忘れられなくなるくらいの美味しさよねえ……)
旅の芸人が、食べられるようなものじゃない。もっと金持ちが食べるようなもの。そんなものを貰えるんだから、座長がネレイアに目をかけているのも分かる。
「いい? これが描かれた店よ」
チビたちに、入っていたカードを見せる。
「これを覚えなさい。お店が見つかったら、もしかして買ってこれるかもしれないわ」
「やる……!」
「さがしてくる……!」
チビたちはあまりまだ仕事もない。だから街に放りだしても問題ない。だからアタシはチビたちを使うことにした。チビたちは街に散っていって、すぐにお店を探してくれた。
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