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侵入者が現れました

 いつもと同じ1日を終えた、その夜。自分のニュースを思い出して悠花は眠れなかった。『行方不明』『何か手がかりがあれば』『帰ってきてほしい』――そんな、自分がすっかり居なくなってしまったような文章ばかり思い出す。


(わたしは、ここに居るのに……)


 書き込みやメール、ブラウザからどうにか連絡を取ろうとしても、なぜかエラーになってしまう。ただただ情報を眺めているだけで、連絡もできない身がもどかしい。まんじりともせずに、何度目かの寝返りをベッドの中でうった時だった。


「ん……?」


 あの、重い扉が開く音がする。


「また鉄仮面さんが連れてかれる……!?」


 そう思い飛び起きたが、そっと開けられたかのように音はとても静かだ。あのときのような、何人もの兵士の足音は聞こえない。だが、何か異常な事が起こっている気がする。悠花は靴をスニーカーに履き替えると、足音を忍ばせて地下へと降りた。



「―――――……!」


(女の人の、声……?)


 そっと地下へ近付くと、女性の声がする。随分と感情的に話しているようだった。


(相変わらず、何を話してるか分からないけど……)


「……え」


 1階に降り、思わず出た声に悠花は自分の手で口を押さえた。扉が開いている。うっすらとではあるが、たしかに開いていた。


「…………」


 そっと、そっと、音を立てずに扉を開いていくと、地面が見える。気配を伺っても、周りには誰もいない。


(今なら、出られる……?)


 そう思った悠花の耳に、鉄格子を揺さぶるような音がした。


(鉄仮面さんが危ない……!?)


 何が起こっているのかは分からないが、鉄仮面に危害を加えられるのは嫌だ。


(武器とか……持ってませんように……)


 甲高い、女性の声。甲冑のような、金属的な音は聞こえない。ただ、ちゃりちゃりという小さな金属がぶつかるような音が聞こえる。


(居た……!)


 気配を殺し、階段を降りていくと、ローブを羽織った女性の後ろ姿が見えた。そして、それに対峙する鉄仮面も。


「――――……―――……!」

「…………」


 女性が、鉄仮面に向かって何かを言っている。一瞬関わりのある人なのかとも思ったが、女性のどこか熱に浮かされたような様子と、鉄仮面の冷たい雰囲気の温度差が激しい。


(何あれ……)


 階段から注意深く気配を伺うと、鉄仮面と目が合った。


(おや……)


 鉄仮面が女性に背を向け、それでも女性が格子の中に手を伸ばして取りすがる。


(なんかすごい場面に…………ん?)


 女性には見えない角度で、鉄仮面が手を動かしているのが見えた。


(『上』『払う』……逃げろって、こと……?)


 地下牢と、扉はそう離れてはいない。もしかして鉄仮面も、鍵が締められてはいないのだと気付いているのではないだろうか。


(でも……)


 逃げられるものなら逃げたい。だが、あの女性を放置してはまずい気がする。あまりにも感情的な、叫び、振る舞い。鉄仮面の背中を叩き続け、何かを喚いている。


(……助けよう)


 女性ひとり、背後から襲えばどうにかなるかもしれない。だがここは、悠花の常識から外れた国だ。それに、ローブの端から覗くドレスは、悠花に与えられた服よりも高級そうに見える。そうなれば、悠花にできることはひとつだった。

 また足音を殺し、階段を昇る。扉からそっと外を伺い、悠花はそろりと外へ出た。できるだけ静かに塔から遠ざかり――城のある方向へと走り出す。


「誰か……!」


 城壁のあたりまで来て叫ぶと、やにわに騒がしくなった。


「ここ……! ここです……!」


 松明を持った兵士が顔を出し、それに向かって必死で手を振る。


(怖い……)


 剣に、槍。松明を持った兵士だけではなく、武器を持った兵士も集まってくる。悠花は恐怖を堪えたまま、塔を指さした。そしてまた、塔へ向かって走り出す。


(付いてきた……!)


 悠花が誰なのかは、知っているのだろう。問答無用で攻撃されなかったことに胸を撫で下ろしつつ、兵士たちの先頭を切って走っていく。塔の扉をくぐり抜け、悠花は後ろの兵士たちに地下を指差した。


「――――!」

「――!? ――――!!」


 兵士たちが地下に雪崩込んで行き、女性の悲鳴が聞こえる。いくらもしないうちに、ローブの女性が兵士に囲まれて地下から上がってきた。


(こっっっっわ……!!)


 女性は悠花が居ることに気がつくと、鬼のような形相で悠花を睨みつける。


「――――……!!」

「ひぇ……」


 そして何言かを吐き捨てると、兵士に連れられて等を出ていった。


「…………」

「……おやすみなさい……」


 悠花を冷たい目で見下ろした最後の兵士に、引きつった笑顔で手を振る。


「…………」


 悠花の目の前で、また重たい音と共に扉は閉じられた。


(こわ……怖すぎる……)


 夢にまで見そうな女性の迫力に、深い溜め息をつく。


「鉄仮面さん、無事ですか~……?」


 ものすごい疲労感に襲われながら地下に下ると、鉄仮面がものすごい勢いで鉄格子を掴んだ。


「え……?」

「…………」


 悠花を指差し、上階を指差す。


(そっか、わたしが逃げたんだと思ったんだ……)


「……はは」


 へらりとした笑顔に、鉄仮面が金の眼を細めた。


「まだ、ここに居ます」


 自分を指差し、2度ほど下を指差す。


「逃げたいけど……まだ、準備も何もできてないから」


 ただ逃げても、その後がどうなるか分からないのだ。


(でも、またチャンスが来たら……)


 人間のやることに『完璧』は無い。悠花にできるのは、いつその日が来てもいいように準備を整えておくだけだ。


「今日、ここで寝てもいいですか? いろいろ持ってきますね」


 あの女性の表情が怖すぎて、夢に見そうな気がする。地下牢とは言え、誰かの気配を感じたかった。

 毛布やクッションを持ち込んで、絨毯の上に巣を作る。


「おやすみなさい、ランプ消しますね」


 クッションの上にシーツを敷いた巣は、寝心地も十分だ。ランプを消し暗くなった室内で、鉄仮面の息遣いが聞こえる。


(誰かと寝るって、久しぶりだ……)


 そんな事を考えているうちに、悠花は眠りに落ちていた。

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