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87.家族というもの。

サクシュカさん、拗ねる。

「そもそも、今解いて、元に戻るならいいけど、そうじゃないと色々考えなきゃだからさ。

 この用事はなんかこの格好のほうが都合がいいらしいし」

 レン君が自分で状況を解説してくれている。


「ふーん?危険がなくて本人が納得してるのなら、まあいいんだけど。

 私の事じゃないし、私は付いていけないしねえ」

 ああ、サクシュカさんも本来なら接触制限があるんだろうか。

 仕事で必要だから此処に来た、だけなのか。


「で、予定通りレメレに来たってことは、この後船なんだろうけど、行先と目的は?」

 おおう、そう言えばイードさんしかその辺の情報持ってなかったな!


 あ、移動そのものに関しては、カル君に国を出るまでの所在報告義務があるので、国内移動部分に関しては、イードさんに連絡をお願いして旅程を提出済みです。

 でなきゃ流石に待ち伏せはできませんよね。


 というか、相変わらずあの人、伝えてって言った事以外教えてないのねえ。

 お陰で彼からの情報漏洩の心配はしなくていいのだけど。


「最終目的地は今んとこアスガイア。

 諸事情で陸路直は却下になったんで、海から回り込んでマッサイト経由の予定。

 マッサイト行きは明日出る客船があるんで席を押さえて貰ってる」

 カル君がその質問に答えている。

 まあそのへんはサクシュカさん達に隠す必要は現状ではないので、問題ない。


 実は、夜行便を選択した乗合馬車強行軍は、マッサイト行きの船が週二便しかないせいだったのよ。

 ランディさん、旅慣れてるからそこらへんの手配や計算はお手の物だった。


「まあそうよね、陸路は空飛べないと無理だしね。小さい子達もアスガイアまで行くの?」

 なんで陸路じゃないのかというと、神罰当時にハルマナートとアスガイアとの国境には巨大な谷が出来ていて、橋がない。

 ので空飛ぶしか越える方法がないんだそうだ。


 谷を降りて上がる、というのもアスガイア側に魔物が多くて、現実的ではないそうで。

 ハルマナート側に漏れてくるほど増えたときだけ魔物の間引きはするけど、それ以外は不干渉だそうだ。


 あとそっちルートだと、カル君が戻って来れないからね……

 で、フラマリアかマッサイトだよね、となったんだけど、どうせ最終的にサンファンに行くしかないのなら、マッサイト経由のほうが確実だよね、って言うことになったのよ。


 船がサンファンに行くかどうかが怪しいけど、最悪マッサイトからなら陸路で行けるし。


「俺は行くけど、リンはマッサイトの、ある程度内地寄りの所でレオーネさんと留守番予定だよ」

 これもレン君が答える。

 リンちゃんはアスガイアにも狙われてるから、入国させるなんて危険は却下だ。


「ああ、成程、そっちの目的が終わったらその足でサンファンなのね?

 カーラちゃん、マッサイトで待機する人員は足りてる?

 足りてないならシャル君あたり置いておくわよ。

 カル君の後任も決めないといけないから、見極めできる用事が要るのよね、こっちとしても」

 サクシュカさんがピンポイントに懸念事項を突いてくる。


 そうなのよ、麒麟のリンちゃんはフレオネールさんと待機予定なんだけど、流石に友好国とはいえ、ハルマナートほど治安がいいとは言えないマッサイトの国境にほど近いあたりでふたりで待機は、ちょっとまずいよねって話はしてたの。


 サクシュカさんは今回の計画の内容までは把握してないはずだけど、リンちゃんを連れてきた時点で目的は察したようだ、話が早い。


「シャルクレーヴ?コムサ兄のほうがまだ……いや、俺がこれだから、あいつはだめなのか」

 渋い顔になるカル君。

 コムサレンさんはカルホウンさんのほうの同腹で、カル君とお父さんが同じ、なるほど?同父兄弟は回避?


「ううん、そこは別に関係ないの。コム君は今別のとこで試験中なだけよ。

 まあそれとは無関係に、ホウ君じゃ絶対無理だし、ルガ君も悪戯やらかしたときのあれがあるんで却下だし」

 ルガくん?……ああ、イードさんに酒呑ませたクルガランさんか。

 成程そりゃ却下したくもなるわね。


 で、カル君と同腹の二人も、まあ見るからにそういうのには、向いてない。

 いや、前にも思ったけど、龍の王族の皆さん、だいたいそういうの、向いてないよね!


 で、シャルクレーヴさんてどういう人だっけ、確かイードさんの同腹兄弟の名前だから……

 藍色の髪に金メッシュがちょっと入ってて、あ、イードさんとベースが同じ色だ、って思った人がひとりいたから、その人かな?


「レイ君が生きてたらなー、って久々に思っちゃった、ってごめんね」

 ぼやいた直後、何かを謝るサクシュカさん。


「ん?別に名前を出すくらい、謝ることじゃないだろ」

 カル君は何の話か判っているようで、気のなさそうな顔でそんな返事をしている。


 そういえば前はちょっと何かあるとサク姉って呼んでたのに、名を呼ぼうとしないな。

 ああそうだ、マグナスレイン様を伯父上って言った時にも微妙な顔してたし、そのあとイードさんをさん付けで呼んで、気色悪いからいつも通りにしてくれってめっちゃ嫌がられてたな。

 籍を抜けたから、以前通りではいられないと本人は思ってるのね。


 でも、家族っていうのは、そうじゃないよ。

 家族との縁があまり強くなかったあたしですら、判るのに。


 ほら、サクシュカさんがすっかり膨れっ面だ。


「んもう!なんで名前を呼んでくれないのよ!戸籍がどうのこうの以前に、私たちは血の繋がった、家族よ?

 そもそも、髪の差し色こそ消えたけど、その眼はそのままそこにあるじゃない!」

 そう、化身ができなくなったら色が変わるのかと思ってた彼の琥珀の眼の色は、そのままなんだ。


 変わってくれたほうが紛れ込みやすいのに、って酷いぼやきは、それに気付いた時の本人の台詞。

 今回、目立たないように少し色の入った伊達メガネで目元を隠してるのは、目立つ龍の眼を隠すためでもあるの。


 すっぴんのままだとイケメン王子過ぎてシンプルに目立つってのもあるけどね!


 そんなふうに言われたカル君は、きょとんとしている。

 そして、何故かレン君の眼から、ぽろっと涙。


 ほんとちっちゃくなったこの子泣き虫だな?!

 あ、横合いからリンちゃんがぱっと手を伸ばして、レン君を引っ張り寄せた。


「めー」

 リンちゃんの短い台詞に、つられちゃだめ、みたいなニュアンスを感じる。

 カル君が泣きそうになってるわけじゃ、ないように見えるけどなあ。


 でもそうね、カル君は、前から自分の感情そのものを表に出すことを、あまりしないわね、そういえば。

 偽悪的な表情を作って見せたりはしていたけども。


 そうだ、そういうところも、気に入らなかったのよねえ、あたし。

 今は特に気に入るとかいらないとか、そんな感情は特にないけども。

 実年齢は思いのほか近いけど、彼はなんていうか、完全に弟枠?だなあ。


 ああ成程、こんなこと考えてるのがばれてあたしがねーちゃん役か。

 配役、自分のせいだった!


 後で教えてもらったけど、レイ君というのは、カル君たちが成人するかしないかの頃に墜死したという、カル君の同腹の兄弟のレイクランさんという人のことだった。

 東の海で落ちたせいで遺体が見つかってないままなんで、諦めきれないところがあって、そのせいで逆に余り話題に出さないようになっちゃってるんですって。


 というか、なんでこの情報を家族じゃなくランディさんの念話で教えて貰ってるんだろう、あたし?いやまあ直接聞ける雰囲気ではなかったけども。


(我は直接現場を見ていたからな。何もない空に突然水光属性乱気流、などという奇ッ怪な現象だったが故に。

 赤い龍の子が巻き込まれて着水して消えるのを目撃したのだよ。

 カル君は居なかったが、気配的にあの無口な子は一緒にいたね、巻き込まれずには済んだようだが)

 属性乱気流というのは気流に風以外の何らかの属性が乗って暴れる現象のことだそうだ。

 普通は地脈に近いところか、魔の森でくらいしか起こらないもので、知名度も発生頻度もごく低いものだとか。


(ただでさえ珍しい現象なうえに、二属性も乗っただなんて、海の上で、かつ被害者がひとりですんで良かった、と当時は思ったものだ)

 地上にうっかりそんなものが現れたら、先日のスタンピードなんて比べ物にならないレベルの被害が出る災害だそうだ。

 しかし、着水して、消える?なんか変じゃないかなそれも。


(確かに妙ではあるのだが、彼の魔力はこの世界のどこにももうない、それは真龍として断言できるよ。

 なので死亡したろうと。同行の子もそう判断したというしね)


 流石に事がことなので、当時ランディさんもハルマナート国に連絡したんだって。

 マメな真龍様だわ。

まあ最後のエピソードはこちらの本編には一切影響ないんだけどね。

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