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86.事務書類と格納魔法。

実はこの世界にはないもの。

 兄弟の最後の対面、ぽいことも終わって、サクシュカさん以外の二人は帰っていった。本当なら会っちゃだめっぽいのを、こっそりサクシュカさんが連れ出してきたんだそうだ。

 サクシュカさんのほうは、まだあたしたちに用事があるというので、残っている。


「いやはや、男子らしくはあるけど、もうちょっと手加減は覚えるべきだねえ」

 そんな風にさっきの出来事を評するのは、この屋敷の主、本物のフェアネスシュリーク様だ。

 成程、現物にお会いすると、確かにランディさんが化けてたより属性力が控えめなのが、一目で判る。でも属性配分は本当によく似てるから、力量がほどほどの人だと見破れないかも。


「口下手が過ぎて手が出るとか、子供じゃないんだから、後で御説教だわ」

 サクシュカさんがラングレイさんを酷評している。まあ確かにその通りなので、誰も反論しようとはしない。殴られたカル君ですら苦笑しただけだ。


「でも龍辞めるとメッシュのとこも普通の色になるのねえ、あれが他国で目立って困るから短髪にしてたんでしょ、カル君?」

 サクシュカさんが新情報を。成程、そういえば一番似てたクラレンスさんも、襟足辺りだけ青かったな、今までのカル君が短髪だったの、本当ならああいう髪色になる部分を刈り上げてたのか。


「そうだなあ、これならもう短髪に拘る必要はないかな、床屋代結構かかってたんだよな、あの髪型」

 本人も同意している。今は一様に金色の髪が、肩を少し過ぎたあたりまで伸びている。

 ランディさんがその会話をちまちまメモしているのは御愛嬌だ。


「ところでサクシュカさんはどうして残ってるんでしょう?」

 取り合えず速攻で直球の質問を投げる。どうもあたしはそういう役回りが多いなあ?


「ああ、仕事よ!兄上がうっかりやらかしたんで、その尻ぬぐい?これ、渡しに来たの。解任及び除隊通知書と、こっちは除籍告示書の写し」

 あまり大きくない封筒をふたつ、その答えと共にカル君に渡すサクシュカさん。まさかの事務処理忘れかい!マグナスレイン様らしくないなあ。まあ結構感情で判断が揺れたりとか、動揺するところとか、通告現場で意外な姿、見まくったけどさ。


「……なんか足りねえなあって思ってたんだよ、不名誉除隊通知だったねーうっかりだねー」

 後半は完全に棒読みで、そんな戯言を言いながら受け取るカル君。しかし、除籍告示、か。そっちは公表されるのね。


「対外的には事故で押し通す気みたいよ。そのほうが動きやすいだろうって」

 そうねえ、世間には邪推も揚げ足取りも溢れてるしねえ……


「へいへーい、おぜん立て有難うございますっと」

 久し振りに随分と雑な返答をしながら、書類をこれまた雑に封筒ごと畳んで、背負っていた鞄に突っ込むカル君。なんでも、鱗を失くした時点で、格納魔法も使えなくなったらしい。ただ、それに関してはランディさんが疑問を呈している。あれは血に結びついてるタイプの魔法じゃないから、適性と必要魔力が残っている以上使えないのはおかしいし、そもそも格納していた物が散らばったりする現象が発生していないから、格納状態自体は持続しているはずだ、ということだそうなんだけど。

 カル君本人は、元々格納してたのなんてシャツと靴くらいだし、それもあの日は着ていたから中身は空だったよ、というのだけど、残念ながらあの日はまだ寝たり起きたりしてたから、シャツはともかく、靴は履いてなかったのよ、それは、あたしが覚えてる。

 実はあたし、他人の空間属性がいまいち見えないのよねえ。異世界人なのに空間適性がない状態なのも、それと同根の問題っぽくて。シエラのは辛うじて見えたんだけど、それも最初に話題にしたときの、ほんとに一瞬だけなのよね。今は、それも判別できない。ほんと謎だ。


《確かにあなたが見えない、というのはちょっと変ですね。わたしの方ではちゃんと見えてるんですけど。カルセスト様の空間属性自体はそのままですわ》

 やっぱり見えないの、あたしだけか。ってことは原因はあたし側なんだろうけども……なんだろうね、これ。


「それにしても、なんだかとんでもない面子で移動してるわよね。というかそのカル君そっくりのちびはなに?隠し子とか聞いてないわよ?」

 サクシュカさんまでそのネタいくの?フレオネールさんと被ってるよ?いやまあ知らんだろうけど。


「隠し子ネタの天丼はちょっと……」

 発言こそカル君だけだけれど、同時にげっそりした顔になる同顔二人。時々、繋がりがあるせいなのか、二人で表情も感情も連動するのよね。それはそうと、天丼ってこの世界で通じるの?今ガチでそのまま天丼って聞こえたんだけど。存在するの?


《演芸用語ですよね?通じますね……ただ、貴方の文献知識にあるような、食品としての天丼はないんですよ。コメでしたっけ、該当する植物が導入されていないみたいです》

 はい?お米、ないの?いやまあ、あたしはそこまでお米に拘るタイプではないんだけど。

 でも、そういやお粥も各種麦だもんな、この国。気候的にはお米も作れそうなんだけどなあ。


 なお、蕎麦はあるらしい。基本的に、小麦が育たないトゥーレやレガリアーナの特産品だそうだ。確かに寒そうだもんね、あのへん。


「あらもう誰かがかましてたのね、カーラちゃんそういうネタ言うタイプじゃないし、面子的にフレオネールかしら」

 さっくり先達を言い当てるサクシュカさん。まあそうよね、あたしはその手のちょっと生々しさのないでもない系の冗談はあんま言わないし、ランディさんは恐らくイメージ的に冗談自体言わなさそう、で除外してそうだ。実際には割と洒落っ気の多い人だけど。


「ええ、そうですね。色はともかく、あんまり似ていたので、つい」

 フレオネールさんも、事実なので簡単に肯定の返事だけしている。


「でもなんで聖獣の化身なのに、そこまで似てるのかしら?」

 疑問を軽い調子で口にするサクシュカさんだけど、その表情にいつものお茶目さはどこにもない。まあ、あたしほどではないそうだけど、サクシュカさんもなんだかんだで、色々見えるクチだからね、しょうがないね。


「俺が許可を出して顔貸したからだな。色目が違うから、一緒にいるなんてことがなきゃ、気が付かれないだろうって思ったわけだよ、当時は」

 実際、どこぞのお姫様とか気が付いてなかったしな、と呟くように付け加えるカル君。

 ん?お姫様?どこの?


「まあ実際は今こうやって並んでると、サイズ違っても良く判る、わけだね」

 小さい方が補足するように、むしろ誤魔化すように付け加える。


「多分だけど、本来の大きさじゃないよね、君」

 サクシュカさんの矛先が、ちびっこに変更された。乗せられてるのせられてる。


「うん?そうだね。なんか変な呪いだか儀式魔法だか、食らっちゃってて?」

 特に隠すような情報ではないと判断したのか、そこまでさらっと喋るレン君。サクシュカさんは解呪の才はないそうだから、別に言わなきゃ判らなさそうではあるんだけどね。


「ほー、そこに解呪の得意な子がいるけど、頼んでないんだ?」

 あれー、なんであたしにターゲットが移りますかー?


「え?いや現状効果止まってるから、後回しでいいかなって」

 つるっと言葉が漏れる。一応解除しようと思えばできるんだけど、ちょっと術式に引っかかりがあって、もうちょっとしっかり解読したいので止めてるのが理由その一。あと、これを解除すると神罰の効果の方で何が起こるか判らないから、保留してるってのが理由その二。

 まあどっちもサクシュカさんにばらす予定はないのですけども。


「カーラちゃんらしくない事言うわねえ。解けるものはガンガン解いてくイメージなんだけど」

 胡散臭い、と表情に出してサクシュカさんがあたしを見る。


「流石に時と場合によりますよ。ヘッセンの時は基本的に緊急性の高い事象ばっかりだったからですし?」

 割とタイムアタックなところがあったからね、あの国での出来事は。

 そして、今回の件はタイムアタックではなく、万全の状態の形勢を作ってから臨むタイプのミッションだと認識している、今のあたしです。


 で、カル君はともかく、鳥小僧の現状は、こうじゃないと、多分、だめなのよ。

 少なくとも、アスガイアに入るまでは、なんだけど。

多分創世神が田んぼを嫌がった気配。

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