8.魔力、 #とは?
サブタイに昔のハッシュタグ仕草使うの止めなさい。
召喚術の勉強は、割とあっさり終わった。
いやだって、今のあたし、知識とか記録として見聞したものは、忘れないんですもの。
りぴーとあふたーみー、とかしなくてよい。どころか、基本の召喚陣も、見たらそれだけで完全に記憶できてしまう。
この世界にとっては不要な知識チートだけど、あたし個人にとっては、ただひたすら便利なだけだった。
無駄チートじゃなかったね、良かったね。
いやその知識チートの元になる魔法をくっつけてきた奴らのせいで、名前は盗られるし謀殺される被害者は出るしなんだから、正直全然良くないんだけどさ。
どういう理屈か、消すこともできないそうだし、なら全力で有効活用するしかないわよね。
その結果召喚した連中の鼻を明かしてやれれば万々歳だけど、流石にそううまくはいかないよね。
だから、まずは、できるところから。
まあ今なう実技で躓いてるんですけどね!
今のあたしは、莫大な魔力を持っている、らしい。
そう、あくまでも、『らしい』、である。さっぱり判んないんだわ、自分では。
その状態で、魔力を指先から細く注ぐように魔法陣に流して、とか言われても、どうしたらいいか、判らんのです。
ミモザに名前をあげたとき、一瞬だけなんかそれっぽいのを感じた気はするんだけど、今は何にも感じないのよねえ。
《ほんっとに、全然、判らないんです?溢れてこそいないけど、とんでもない魔力量ですのに》
シエラも首を傾げてるようだけど、いやほんとに魔力ってそもそも何なの?からスタートなんですよあたし。
あたしのいた世界にはそんなものはなかった、はず。
世界の全てを知ってる訳じゃないけど、世間一般的に、それは、絵空事、だったはずだ。
魔法があって、ちちんぷいぷいで病気が治ったらいいなあとか思った事くらいはあるけどね?
それは、あくまでも空想の産物であって、魔法も奇跡も、ありはしなかったんですよ、あたしのいた世界はね。
宗教ですら、何度か歴史的には流行ったけど、いつの間にかだいたい消えていたくらいだ。
神も魔法も実在しません、で済まされた世界。まあ物質的には豊かで文明は発達していたから、居心地が悪いとかではなかったようには思う。あたしの場合は、病気さえなければ、だけど。
その分、物語はいろんな魔法や神様の話があったけどねえ、暇だったからってラノベサイトよく読み漁ったもんです。
《用のない時にたまにあなたの記録から読ませて貰ってるけど、本当に色んな物語があって、でも全部架空の空想って割り切られてるの、凄いなって思いますわ。挿画も美しいものが多いですし》
え、あたしが読んだことある本、読めるんだ……
《読めますわね。お嫌でしたらやめておきますけど》
いや、別に人に読まれて困るような本は読んでないと思うから、それは構わないけど。
でもあくまでも物語は物語だから、そこは区別してね?
《そこは大丈夫ですわ。伊達に知識庫の番人なんて属性を持たされてはおりませんもの》
そっか、それなら、いいんだけど。とはいえ、たまにガチめに生活の役に立つことも書いてあるかもね……
ついつい話がそれてしまったけど、魔力だ魔力。
そもそも魔力とはなに?生命力とは別のものよね?いやまあ生命力というのも実感はないんだけども。
この世界の人は、魔力があるのが当たり前だとかで、その辺の感覚を人に教えるのが逆に難しいんだそうで。
うん、イードさんにはとっくに匙を投げられてる。
《いえね、あなたの場合、この魔力量で本人が意識してないのがちょっと変なんですよ?メリエン様の神力は感じられたのに、魔力を感じないって変ですよ?
まあ、神力と魔力は同じものではありませんけど……そもそも、巫女修行すらしてないのに神力のほうを感知できるほうが珍しいといいますか》
シエラも説明しづらいなあ、という雰囲気丸出しでぼやいている。
いやでも、あれって空間もあたしたちの在り様も特殊だったからじゃない?
お互い元の姿だったってことは、所謂魂だけの状態だったってことでは?
《あ、ああ……そういえば、そういうことですわね?だとすると、身体に魂が馴染み切っていないということかしら?》
それはどうかしら。あたしとしては、黒髪になって以降は、それこそ特に何の違和感もないのだけど。
《髪が黒くなったのは、純粋に魔力量で染まってるんでしょうね。私の数倍どころじゃありませんもの。そういう意味では、あの時点で身体に馴染んでいる、はずですけれどねえ》
ああ、そういえば、被召喚者以外の黒髪は魔力の多い証って言ってたっけ。
自分の髪をひと房、手に取ってみる。
つややかな黒。確か、最初は亜麻色だったよね。
軽く握ってみたり、じっと見つめてみたりしたけど、これといった変化は感じない。
いや?今、何か変だったな?
もう一度、ちょっと握ってから、じーっと毛先を見つめる。枝毛ないなあ、いやそうじゃなく。
あ。
髪の毛に、重なるようにして、なにかが薄っすら、見えている。これか?
《え?魔力感知じゃなくて魔力視??順序が逆では?》
ええ?違うモノなの?見えてればおっけーとか、ないの?
《見えるだけで操れはしないでしょう?》
ああ、確かに、それはそうかも。ぐるっとまわーれ……うん、見えてる魔力らしきものだけ、回りますね……?
危ない、髪の毛がぐるっと回ったらホラーか、そうじゃなくても絡まるところだったわね、自重自重。
って、えーと。……魔力と思しきものを動かすことはできちゃった、わね?
なのに、相変わらず魔力そのものに実感がないのは、最早意味不明だわね……
シエラも沈黙してしまった。呆れた気配だけが伝わってくる。
判らないことは置いておいて、この魔力的なものを、さっき覚えた、基本の小型の獣を呼び出す召喚陣の形にして……
ばりん!
わあ、まほーびん、じゃない、魔法陣が割れた。
ガラスが割れたみたいな音がしたから、びっくり。ええ、びっくりしただけ。被害は多分なんにもない。割れた何かも消えちゃったし。
「カーラ殿!!何を!しているんですか!あなたは!!」
集中の邪魔をしないようにと隣の部屋を提供してくれていたイードさんがすっ飛んできました。ご、ごめん。
「えー、えーと、なんか魔力っぽいなにかが動かせたから、魔法陣の形にしたんですけど、割れちゃった?」
取り合えず素直に白状しておく。
「は?魔力?を、動かす?……直接、ですか?」
訝し気な顔のイードさん。あれこれまたやらかしてる?イードさんの言葉遣いがちょっとおかしくなってる。
《普通は魔力そのものを直接見ながら〈念動〉のように動かすなんて、人間はやりません……》
シエラの呆れ声。アッハイこれはやらかしましたね!
「えーと、こんな感じで」
しょうがないので詳細説明代わりに実演する。やっぱり一瞬光ってから、ぱりんと割れる魔法陣。
「……あー……そなたのやっている、その、正直見ても良く判らないことは置いておいて、だね。
まずは、魔法陣のサイズに対して、使用する魔力が多すぎだ。今見えたパターンから察するに、小型獣用であろうが、今の十分の一でも少々どころでなく過剰だとも」
額のバンダナに手を当てて、明らかに頭が痛い、という顔になったイードさんが、呻くようにそう教えてくれた。
そういえば、魔力量に配慮するの自体を忘れてた、わね。すまぬ、すまぬ。
改めて確認したら、そもそも魔力で直接魔法陣を描くのは、治癒魔法や攻撃魔法とかの、それも熟練者しかやらない使い方なうえに、召喚術でそんな無茶苦茶するのは真龍とか一部の高位聖獣位だ、と言われました。
召喚術は基本的に紙や地面に一旦魔法陣のパターンを描いてから呼び出すための魔力を流す二段階式でした。
……そういえば最初そう聞いてましたね。で、流し方が判らない、でしたね。
召喚用の魔法陣は、書き間違えると発動しない、ならいいけど、うっかり変なものや危ないものを呼んじゃったりするから、たとえできるにしても直接魔力でいきなり書くのは禁止なんですって。
紙なんかに描いた場合は、召喚陣破棄で召喚をなかったことにできるけど、魔力だとそうはいかないからだそうだ。
……自重しますハイ。
ハイウィンさんは得意属性の風魔法であれば、魔法陣魔法も使えるんですって。最初にあたしを助けてくれた時の突風がそうだったのだとか。
「種の本能で適当に突風を飛ばすのだと、コントロールが雑になって、下手をすると逆に吹き飛ばしてしまうからのう。ああいう微妙な操作が必要な時には魔法陣を使うのさね」
とは、本人談。
なお、人間と他種族では魔法陣そのものの内容も違うみたい。
「そうだな、我々が使うものは言語として読み解くことができるが、聖獣たちが使うものは、我々には文様としか見えないようになっておる。
機会があれば一度見せてもらうといい、美しいものだぞ」
イードさんがいいことを教えてくれた。
機会があったら、誰かに頼もう。どういう場合がいい機会なのかは判らないけど。
視覚に頼りすぎる系主人公。
そしてイードさんは多分丁寧な方が本来の素口調疑惑。