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番外編:水晶龍事変 (後)

 本編エピローグとカル君番外編で触れたあれこれの回収。

 ずいぶんと短い時間で戻ってきたラハーリ・ファリーゼ様に、どうせなら観て行くと良い、と言われたので、中庭に出る。


 寝静まった王城(これも変といえば変、警備の人すら、否、王都の民全てが、眠っている気配)の中で、動いているのはあたしとカスミさん、いつも通り肩の上にいるマルジンさん。


 そして、あたしの動きにつられて、不思議顔で顔を出した三人組とアスカ君、それだけだ。


「ねーさん、こんな時間にどうした」

「ねーちゃんがこの時間にまだ寝間着に着替えてないって何事?」

 ふたりの疑問には、答えない。ただ、森の上を見る。



 するりと、白く強い光の一筋が、宙に浮かぶ。

 やがてその光は、城からの何本もの光と、何処か遠い所から飛んできた光を回収し――


 現れたのは、虹の七色をその身に宿す、巨大な龍種。

 サクシュカさんを思い出させる長い身体も、手足も、三対の翼も、全てが虹色に煌めき輝く、光を編んで創られたかのような……


 これが、ラハーリ・ファリーゼ様の本来の姿。

 彼女はもはや水晶の龍ではない。


 満ち溢れる生命の輝きを身に纏う、異界の『神の龍』。


 彼女は一度だけ王城の上をくるりと旋回すると、とてつもない速さで、南へ――国境城塞を越えた先にある、魔の森へと飛んでいき、姿を消した。


「……あんなパワーがあっても、移動は物理なのか」

 アスカ君が、ずれた感想を述べたところに、おもむろにランディさんが転移してきた。


「今飛んで行ったのは、あの地下に在った龍か?」

「そうです。魔の森の穴を塞ぐのは自分でないとできないから、と」

 焦った様子で尋ねるランディさんって珍しいな、と思いつつ頷いて答える。


「……おのれ、封印が解かれている……!

 いや、あやつが回収したのなら、是非もなし……だが、こうも早くなくとも、よかろうに!」

 そしてランディさんの言葉は、何か不安と不満を全面に押し出す、彼らしからぬもので。


「ああ、孫弟子の寿命程度の間は、この暮らしができると思っていたのだが。

 ……異界の子等よ、短い間だが、世話になったな。


 我は――我も、行かねばならぬ。あの龍とは違う道へ、だが」

 そう一気に言い切ると、ランディさんはあたし達の返事を待つことなく、上空へ転移し、そこで例の白い美しい龍の姿に変じて、これも南へと、飛んで行った。


「……追う?行先、判る?」

 アスカ君が、呆然と空を見上げたまま、言う。


「ラハーリ・ファリーゼ様は追わなくていいの。あの方はもう後は穴を塞いで本来の世界に帰還されるだけ、だから。

 ランディさんの行先は……国境城塞よ。

 解かれたという封印は、イードさんの、それだから」

 技能の赴くまま、いや、かつて自ら封印した知識の導くままに、言葉を紡ぐ。


「……城塞のヌシのあんちゃん?」

 サーシャちゃんが思いのほか不思議そうな顔をしている。ああいうものには敏感そうなタイプだと思っていたんだけど。


「あー、あのバンダナの下になんかあったっぽいやつ。じゃあ飛ぶぜ」

 そしてアスカ君はそれに気が付いていたと述べ、速攻で全員で転移すると宣言する。


 多人数を飛ばすときは、結界で希望人員を包んで、それに触れて転移すると魔力の節約になる、のだという。

 今回はワカバちゃんがささっと結界を展開していた。


 そして、その陰で、分身を一人リリースして城内に戻すカスミさん。

 そうね、今は寝静まっているけど、皆が起きたら大騒動になるのは間違いないもの。


 我々が朝までに戻れるとも、限らないのだし。



 転移したのはいいのだけど、なんかすっごく変な場所に出た。

 あと、天気というか、嵐?吹き荒れる魔力に、慌てて結界を張り直すワカバちゃん。


「中庭指定したのに、弾かれた、だと?」

 首を傾げるアスカ君が見回したそこは、城塞の裏手、夏場にゴーヤを育てている場所だ。

 温暖なハルマナート国とはいえ、年末近いこの季節には流石にゴーヤは生えていないけど。


【マスター!!大変だ!!】

 そこにどうやって我々を検知したのか、ジャッキーがミモザを連れてすっ飛んできた。


【城塞のおにいさんが!こわれた!】

 ミモザ、流石にその言い方は人聞きがよくないわよ?!


「封印が解かれたと聞いているわ。何があったの?」

【突然大声で叫んだと思ったら、人間の使うのと違う魔法を乱発し始めて、部屋が壊れた。

 それでも魔物じゃなくて人間判定だから、生き物と住民だけ纏めて裏に避難させたところ!】

 なるほど、ジャッキーの解説通りなら、語彙の少ないミモザが壊れた、と評するのも、やむなしか……


「なあ、あの兄さん魔力はあるけど属性力は全然感知できないタイプだったよな?

 今ほぼ全属性が暴れてるように見えるんだが」

 そしてアスカ君から、新たな情報。というかアスカ君にはそう見えてたんだ。


「そうね。というか……今暴れているあれは、イードさんではないわ」

 あたしの感知できる情報に存在する、暴れる魔力の源の名は、グルームドゥルーム、であったもの。となっている。


【そういえば、庭師の兄ちゃんたちが変な事言ってた。あれは誰だって。

 イードさんじゃないの?って聞いたら、誰だそれ、って】

「……あー、もしかしてあれ、仮初の人格っていう奴で封印を掛けてたパターン?

 封印が消えると仮人格の存在情報自体が消える系?」

 ジャッキーの情報で、サーシャちゃんがさらりと真相の一端に辿り着く。


 そう、本当は、モンテイード・ハルマンなる王子は、存在しなかったのだ。

 女王様が産んだ最後の男子達の卵の、最後の一つは、本来なら生まれる前に死んだ卵、だった。


 そこに、どうやってか潜り込み、一年以上の時間をかけて、仮初の命と身体を得たのは、かつて神々に討伐された、壊乱龍グルームドゥルームの残滓。


 潜り込んだものを討伐する力がなかった当時のラハーリ・ファリーゼ様は、鱗の一枚を彼に割き、二十番目の王子としての仮初の人格と設定を与え、グルームドゥルームを封印した。


 ただ、それだけだと、化身してしまった場合に、グルームドゥルームが確定で復活してしまう。

 よって、その一枚の鱗は定着直後に再度どうやってか取り除かれ……


 ……マグナスレイン様の身の内に、隠された。

 だから彼は、二人分の大きさの巨龍として化身するようになったのだ。


 だけど、今回ラハーリ・ファリーゼ様は、全ての鱗を回収した。

 自らが、全き姿に戻る為に。


 よって、龍の王族からは化身の術が喪われ、同時に、イードさんだったものの封印も、解かれた。


「倒さないとだめなやつ?」

 カナデ君が不安げにそう質問してくる。

 魔法陣構成の相談とかで、イードさんに一番お世話になっていたのは彼だから、情があるのは判る。


「それは、あたし達の仕事ではないの」

 問いには首を横に振る。


 あたし達が今できることは、荒れ狂う魔法の嵐から、他の皆を護る、それだけだ。


 結界はとうに展開している。

 グルームドゥルームだけを覆いこむのが意外と難しかったから、個別に保護して……



 世界が、教えてくれる。


 グルームドゥルームは、壊乱龍と呼ばれるようになる前は、皆覧龍、と言われていたのだそうだ。全ての属性を知る龍。


 本来闇属性を持たない真龍族だった彼は、本当に全ての属性を手にするべく、闇属性の強い何者かを取り込み、そして、壊れ、人を喰らう龍に堕ちた。


 世界龍への道を、中途半端に知ってしまっていたのも、その要因。

 でも、彼は最後生まれの真龍である、という条件を満たせていなかったが故に、決して成功する事の出来ない存在だった。


 彼が道を誤った時には、既に彼の下にマーレ氏が生まれていたからだ。



 そして、今。

 真の世界龍への道を歩み始めるのは、ついにこの場に飛び来たった、白い、真龍の末子。


【愚かな……愚かなるもの、壊乱龍よ……!我に、この様な真似を為させるとは!】

 ランディさんの叫びが、魔力嵐を突き抜けて聞こえ。


 ぴたりと、嵐が止む。


「……終わった?」

「これから始まるの。あたし達には関わりのない道だけど」

 サーシャちゃんの問いに、ついそう答える。


「いやそんな先の話じゃなくて今のなんだっけ壊乱龍だっけ」

「多分ひと吞みね」

「え」

 いかな元は真龍であったグルームドゥルームであろうとも、既に鱗を持たぬ身に、龍の姿を取る術はない。


【見物しにきておったのか、物好きどもめ】

 そこに、不満そうなランディさんの声。


 見上げると、城塞の壁の上から覗く龍の顔。

 だけど、その色は。


「白かったにーちゃん、だよな?」

 サーシャちゃんが呟く。


「ごめんねランディさん。見物なんてつもりはなかったのだけど、他の生き物とか庭師一家とか保護したくて」

 今のランディさんの色合いは、何故か、イードさんだった存在の彩に、染まっている。

 藍色の身体、琥珀色、というより金色の、瞳。


【ああ、それは考えていなかったな、済まぬ。

 ともあれ、我と其方らは……これからは交わることない、違う道を行く。


 異界の力あるものを喰うと、腹を壊すらしい故、な】

 それだけ述べると、龍の姿のまま、ふわりと音もなく飛び立ち、何処かへ去っていくランディさん。


 あたし達は、答える言葉を持たないまま、ただ、彼を見送った。

おうっふ(5000文字行きそうになったので更に分割しました……)

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