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番外編:水晶龍事変 (中)

 時間経過による状況説明に文字数取ったんで本文三分割にエピローグ付き、になりました……

 年内完結とはなんだったのか。

 王城での質疑応答は、滞りなく終了した。


 現状の魔の森は、魔物の発生自体がほぼ止まっている。

 ただ、予想通り魔獣の数が増えた。


 しかも、これまで記録になかった生物が原種であろうものが、やたら多い。

 いやまあ、ズボラ討伐より前にアスカベ村を襲撃した魔物なんかも、ゾウだかジラフだかいう、やたらでかい、この世界的には未知の生物が原型だった説があるんだけども。


「やっぱりこれ、魔の森、大穴空いてる……よね?」

 サクシュカさんが、グリフィン族にも協力して貰って作成した、魔物と魔獣の推定発生数を記録したグラフを見て唸っている。


 ”あいているけど 入ってくる段階では 普通の動物”


 そして世界の声は、穴を抜けて来る段階ではごく普通の動物しかいない、と教えてくれる。


「……ああ、穴は確かにあるそうです。ただ、侵入の段階ではごく普通の動物なのだと」

 つまり、魔力世界での変質に晒されたり、残留瘴気の影響で魔獣化したりしているのだという事ね。


「ねーちゃん、塞ぐ手段ある?あるなら場所くらいは探ってくるぜ?」

 サーシャちゃんが手当出るよね?と顔に書いて聞いてくる。


「現状では直接塞ぐ手段はあたしにはないわね。

 メリエン様の力も、残留瘴気との相殺が厳しくて、まだ全然魔の森には手が伸びない状態だし」

 それに、その穴には……どうも、なんだか別の、塞ぐために排除すべき要因があるような、そんな気がするのよね。


「そうよねえ、カーラちゃんでも手詰まりよねえ」

 あれ?サクシュカさん、何かを知ってる?


「サクシュカさん、何か御存知なんです?」

 普段は余りこの手の場面で喋らないワカバちゃんが珍しく、目ざとくツッコむ。


「魔の森だけが理由じゃない、ってことだけね」

 そして、サクシュカさんはそれだけ言うと、口をつぐんだ。



「ふむ、魔の森の大穴、か」

 今日の王城には、なんとランディさんも招かれていた。


 最近はランディさんは主にフラマリアで活動していて、ハルマナート国には年末年始くらいしか姿を見せないんだけどね。


 あ、ズボラ討伐後に帰ったら、ランディさん、ちゃんととびっきりの御馳走を用意して待っていてくれたのよ!

 あの時の所謂多国籍料理は、本当に絶品だった。サーシャちゃんが負けたっていうレベル。


 なお、グルメ真龍様は、年末年始に来るときに、毎回ロロさんとココさんの卵を買い付けるようになった。

 食べても良い聖獣の卵なんて他に手に入る当てがないのだから当然だ、とは本人の弁。


 唯一無二の絶品卵だからね、しょうがないね。


 そうそう、ムフ鳥もあっちこっちで増やしたので、皆で賞味した。

 なかなか面白い味……鶏肉とも鴨肉とも違う、淡泊で後口さっぱりな不思議なお肉だった。



「魔獣の発生頻度と出現場所のデータで見る限り、場所としてはほぼど真ん中、なんだよな」

「俺が最初に落ちた辺りに検知できるような大穴はなかったがなあ」

 書類を整理しつつ、アスカ君が指摘し、実地のかなり奥の方から脱出してきた経験のあるサーシャちゃんが反論している。


 ケット・シー達の地図は相変わらず活用させて貰っているけど、流石に彼等も魔の森の部分は地形の概要以外、完全白紙だ。


 魔の森も、辺縁部はそれなりに調査が進んでいて、食べられる系椰子の木の種類が増えたり、マンゴーとパパイヤが見つかったりしている。


 あとは、外来系魔獣がたくさん。

 意外な事に、食べられるものが結構多いので、我々の食卓は捗っているけど、新種として固有化できるほどの数は居ないのが現状だ。


「我らは旨いものが増えて嬉しいが、大半がサイズが小さいのが困りものじゃな、食いでが足りぬよ」

 これまた状況報告の為に呼び出されていたハイウィンさんも、案の定な台詞。


 まあグリフィン族、だいぶんと増えてるらしいし、美味しい獲物が増えるのはそりゃ嬉しいよね。



 その夜だ。

 今日は皆で王城にお泊まりで、そろそろ寝る支度かなーと思っていたら、サクシュカさんが訪問して来た。


「こんな時間に来るなんて、珍しいですね」

 今回以外だと、あの、国境城塞から当時のアンキセス村に連れられて行った時が、今より大分遅い時間だった気はする。


 あの時から、何年か経ったけど、サクシュカさんも、あたしも、見た目に関しては全然変わっていない。


 女王様はそれなりに老けたし、亡くなる前のサーラメイア様は、食欲の減衰が激しくて、最後の方は随分お痩せになって、それに伴って加齢が理由かどうか判らない皺が増えてしまっていた記憶がある。


 とはいえ、今のあたしは……その答えをも、知っているのだけど。


「カーラちゃん早寝だから、そろそろ寝る時間なんでしょうけど、ごめんなさいね。

 どうしても今日中に、片付けてしまわなくちゃいけなくて。

 今日以外に、条件が揃う日がもうないのよ」

 そして、サクシュカさんの答えには、肝心の理由、そう、条件が揃う、その条件が満たすものの説明が、ない。


 いやもう技能判定がぎゅんぎゅんしてるんだけどね。

 これまであたしがずっとサクシュカさんとして認知して来たこのひとは。


 水晶龍、ラハーリ・ファリーゼ様、そのひとだ。


 ガワは多分『サクシュカさん』のそれなんだけどね。

 少なくとも、あたしが最初に遭遇した日以降、中身が本来のサクシュカさんだったことは、ないはずだ。


 確信したのは、例のバングルから力が流れてきた時。

 サクシュカさんのそれと認知していたものが、流れる様に水晶龍様のそれに変じた、その瞬間だった。


「本体を動かす、という事で宜しいんです?」

 端的に、そう口にする。

 わざわざあたしに念押しするような用事、そうそうない。


「流石ねえ、カーラちゃん。本体アレを見せたらバレるよね、とは思っていたけど」

 そしてサクシュカさん、いや、ラハーリ・ファリーゼ様は、それを否定しない。


 水晶龍様の本体は、王城横の森の中にある旧城塞跡の遥か地下で、眠っている。


 最初に見た時には、水晶に変じているように感じたそれは、今ははっきりと、生命としての輝きを備えた……五色、いや虹の七色を備えた龍、に感じられる。


「……本来のサクシュカリアはね、未成年の頃のカル君が海で死にかけた時に、彼に命をあげてしまったから、この身はヌケガラなの。

 だから、わたくしが借りて、あれこれ、世界が簡単に滅びに向かわないように画策していたのだけど」

 だからこそ、彼女は外交官という職を選んだのだという。


「その前から契約して貸し借りはしていたから、ばれたりはしなかったけどね」

 三つ所持していると見えるスキルは、元々のサクシュカさんが持っていたものだという。


 そのひとつ、〈スケアクロウ〉は、他人へのダメージを肩代わりするものだった。

 適用可能なのはひとりだけとはいえ、この世界で唯一、死すらも、書き換える異能。


「でもそのせいで、カル君はちょっと性格が歪んじゃって、闇の力に惹かれてしまった。

 幸い貴方が闇の鳥共々、あの子にちょっかいを掛けてくれたお陰で、今はすっかり安定しているけど。

 わたくしの計画だと、あの子が抱えてしまった、死の闇を利用して、創世神の堕落を取り込み、わたくしの本体共々対消滅させる、そんな酷い結末を想定していたから」

 そして、流れるように語られる、選択されなかった結末。


 うん、あたし、とてつもなくいい仕事をしたらしい……


「このままここで暮すのも悪くはなさそうだったけど、流石にもう歳を取らないと都合が悪いかな、なんて思っていた所に、大穴が存在するのを貴方たちが確定情報としてくれたでしょう?


 あの穴、わたくしが最初に落ちた時に開いて、そのままなのよ。

 だから、わたくしが、あそこを通って、ずうっとわたくしが欠けたままの元の世界を埋めないと、閉じないの」

 なんとまあ、魔の森の大穴は、ハルマナート国の歴史とほぼ同年の歴史を持つ穴だった、のだという。


 流石にそれは想定外。


 ラハーリ・ファリーゼ様は、元の世界では神の龍と呼ばれる存在だったのだそう。

 膨大なリソースをその身に抱え、世界を調停する存在だったのだと。


 彼女がこの世界に落ちたのは、彼女自身にも理由が判らないという。

 ただ、流れ込んでくるモノ達を見る限り、彼女の世界自体は、健在なのだという。


「わたくし以外にも優秀な守護者がおりますからね、流入の状況を見ると、防戦一方になっている可能性はありますが」

 なので猶更、戻らねばならぬのです。


 ラハーリ・ファリーゼ様はそう言うと、見慣れた顔に、見た事のない、美しい笑みを浮かべる。


「そのためには、子供たちにわたくしから譲り渡した、全ての鱗を回収しなくてはなりません。

 貴方には申し訳ないのだけど、あとを、お願いしてよろしいかしら」


 当然あたしの答えは……はい、一択だ。


 そして、いくつかの追加情報を置いて、彼女はサクシュカさんとしてちょっとカル君に会ってくる、と、一旦出て行った。


 今日は徹夜決定です。仕方ないけど。

 こんなとこで100話番外編の謎回収すると思わんやん。

 ※消えたルートは最終バトル案のひとつでした。結局色んな意味で不採用。

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