番外編:水晶龍事変 (上)
という訳で増えたのはこの話。
時系列を遡ってきた通りの順序だとここに来ちゃう。
本編同様、カーラさん一人称。
一p目は時系列の関係上、状況説明で終わるよ()
ズボラ討伐から三年ばかりが経過した世界は、現状では穏やかに、時を進めている。
あたしも無事メリエン様の巫女として就職し、ついでに正式にハルマナート国籍を取得した。
何故外国籍、しかも普段は常駐でないなどと、と、あちらの王家の一部、傍系の、名前も知らない辺りの輩が難を言い立ててきたけど、元々そういう条件で就職するのだ、とメリエン様に直接宣言して頂いたので、こともなく。
そもそもあたしの仕事は、最初っから巫女としての儀式参加や一般業務が本命ではない。
だって、あたしの魔力量で、地元民の儀式魔法に参加したらしっちゃかめっちゃかになるの、確定しているんだもの。
それに通常業務を行う巫女自体は、充分に足りている。
メリサイト国の神殿には、普段はそこまで来客は多くないうえに、選択肢が二つあるからね。
危機を脱したら、神殿への人の訪れはまた昔のように、減ってしまった。
ただ、それはメリサイト国が平和だからなので、何の問題もないのよね。
あたしの現状での本命の仕事は、ズボラという大瘴気発生源が消失した結果、これから大幅に変化していくであろう、魔の森の調査と監視だ。
メリエン様の力は魔の森とハルマナート国との境界にも当然流れているから、巫女が仕える神から遠く離れている、という判定にはならないし。
まあ、リアン兄さんを癒した結果、あたしも欠損回復ができる事が一部にバレたので、聖女様が呼べない案件に呼ばれまくる、という事故は発生している。
とはいえ、召喚術が上級になったので、ディアトリマのフライステップ君や、なんなら場所によっては、行ける場所が徐々に増えてきた、ケット・シーの移動術のお世話にもなれる。
都合が合えば、アスカ君の転移を頼る事もできる。
今は異世界向けの手段に手を付けるより先に、この世界内の移動を容易にできるよう、ケット・シー達と研究をしているようだ。基礎研究って奴ね?
三人組は、当面はあたしが雇っている。
例によって農業研修をしながらだけど、徐々に魔の森の調査を進める為に、手を貸してくれている。
そんな訳で、大きな礼拝儀式のときだけメリサイト国に出勤し、普段は地方勤務扱いになっているあたしであります。
主任務が魔の森監視なので、当然住居はこれまで通り、ハルマナート国境城塞だ。
イードさんも相変わらず城塞のヌシをやっていて、年始だけ王城に赴く、そんな暮らしだ。
あたしの方は年始の王城には行ったり行かなかったリだ。
あっちこっち飛び回ったあとだと、家で静かにしていたいからさ。
エルフっ子達は、無事二人とも学院に就職することが決まった。研究者コースね。
卒業自体は再来年なんだけど、教授たちが離そうとしなかったので……
本日のあたしは、三人組ともども、ハルマナート国王城にお呼ばれだ。
「カーラちゃーん!!久しぶり!待ってた!!」
サクシュカさんが、例によって到着時間ほぼぴったりに門前に現れる。
「オレの転移で来てるのに、なんでこんな正確に現れるのこのおねーさん」
「多分技能フルぶんまわしとか?」
急な呼び出しだったので、転移を頼ったアスカ君が呆れ、魔法じゃあないね、とカナデ君が応じている。
そう、今回は魔の森調査の中間報告と称して、三人組も一緒に来ている。
勿論鶏たちも一緒だよ!但し、アンダル氏は鍛冶の仕事があるとかで、ベネレイト村で留守番だけど。
「ああ、アスカ君も、急ぎの用事がないなら付き合ってもらえるかな?」
「おっけー、村の移転問題の進捗とかも説明したいけど、いいかな?」
アスカ君の保護していた民の子孫がつくった、アスカベ村とヤグスカ村の人々は、大半がサンファン国への国替えを希望している。
ただ、移動距離が極度に長いのと、移転する人数が結構多いため、まだ調整段階だ。
正直、オレが門を作れるようになるのが早いか、猫ネットワークがハルマナート国に行き渡るのが早いか、とは、アスカ君の弁だ。
ケット・シー達の移動魔法は、徐々にその有効範囲を広げている。
元々、限定的ながらヘッセン国やフラマリア国などでも移動ができたものが、最近ではこの王都辺りまでは範囲に入った、らしい。
旧ライゼル国辺りから、メリサイトを経由して、他の国にも。
ただ、彼らの移動魔法は、彼らの本国といえる亜空間、猫妖精郷を経由しないといけないので、彼等に嫌われたり、不適格要素を持っていると、利用できない。
あたし?実質お出入り自由だって!
猫の国、西方風の田舎っぽくって、見た目からしてかわいいんだよねえ!
時々休暇として連れてってもらうくらいにお気に入りでっす!
「それにしても、結構背が伸びたわね、サーシャちゃん」
王城本館への道を進みながら、サクシュカさんが感心している。
「背だけならいいんだがなあ……水色のねーちゃんくらいが理想なんだが」
ワカバちゃんにはまだ届かないけれど、程々に背が伸び始めた当の本人は何故か不満顔だ。
まあ、しょうがないところはある。結構お胸がボンッっとしてきてるからね。
以前仮初の成長姿を披露した時に、そんなもん邪魔だ要らない!って断言してたもんなぁ。
「えぇ……?贅沢……」
地味に体型が薄いのを実は気にしているサクシュカさんが唸っている。
といっても、サクシュカさん達龍の王族の女性が細いというか、メリハリの少ない体型なのは、龍の王族としての仕様なので、致し方ない。
鱗を持たなかったサーラメイア様も、横幅こそあったけど、体型としてはやっぱりすとんとした印象がどこかにあった。
過去形なのは、去年、寿命で世を去られたからだ。
確かに実年齢は八十歳だったけど、見た目は一般人類でも中年後半程度だし、まだまだいけるんじゃないか、と思っていたら、やれることは全てやりましたしね、という最期の言葉を残して、あっという間に旅立ってしまった。
勿論、お葬式の司会はあたしが務めさせて頂いた。
神なき国であろうとも、正規の巫女がいるなら、王族の冠婚葬祭はお願いするべき、なのだそうだ。
サーラメイア様の金工工房の方は、何故かマルジンさんとカスミさんの分身が運営を引き継いでいる。
カスミさんの炎の術は、繊細な金属を溶かし、加工することもできるのだ。
カスミさんは八尾になってからは、常時三体の分身を使うようになったので、その内の一体が工房に常駐している。
なお、必要に応じて、更にそこから追加も出せる。
それでもカガホさんには遠く及ばない、とはカスミさんのぼやきだ。
そこは年季の違いって奴だから、しょうがないと思うのだけど。
そして、マルジンさんの方は、どういう機微でか、手仕事の妙にハマってしまった。
とはいえ金工に関しては初心者なので、今は定期的に工房に通って、徒弟みたいなことをしながら、運営マネジメントを主にやっている。
石のカットなんかは風魔法を駆使できるので、既に結構な腕前になっているようなのだけど。
恐らく、ふたりはサーラメイア様の死で、一応人間であるあたしにも寿命がある事を思い出したのだろう。
いまから自立の術を磨いているのは、そういうことなんじゃないかしら。
まあそれ自体は、当分、それこそ百年は先だし、彼等は聖獣だから、そもそも無理に手に職を付ける必要自体はなかったりもするんだけど。
あたしにすら、サーラメイア様の死は、心にちょっとした穴を開けた、そんな感覚があるんだもの。
今の内に対策を、となったふたりには、むしろ頼もしさしかないわね。
サーラメイア様の同胎姉妹である女王陛下とサクシュカさんも八十歳、だけど……二人は龍の鱗を持っているので、寿命は多分百二十年くらいだろう、という。
つまりまだまだ元気いっぱいだ。
それでも、次の年明けには女王陛下は退位して、娘のセラフィレイア様が後を継ぐことがもう決まっている。
今はセラフィレイア様の縁談が進んでいるけど、結構難航中、だそうだ。
この国の場合、王配殿下は身分を問わないので、好みの相手がいるなら連れてくればいいわよ、くらいの軽い感じで相手を探しているようではあるんだけど。
彼女の好みのタイプ、ランディさんらしいんだよなあ。
ちょっと、理想が高すぎやしませんかね?
大丈夫、理想と現実の差はちゃんと知ってるから、多分。




