番外編:遥かなる遠き家路に。
本日2本目の更新は、アスカ君の旅立ち。
主人公がまだ存命の時間軸、本編からおよそ二十年後、前話のちょっと前。
アスカ君の一人称。
やっと、ここまで来た。
巫女のねーさんのツテで知り合えた、ケット・シー達という、この世界での空間属性の熟練者たちの資料や手、それに恐らく神の権能を隠し持っている彼らの王、キャスパリーグ氏の力を借りることで、今ようやっと、完成したのは、『帰還の魔法陣』。
「おお、見事な出来でございます。
これなれば、アスカ氏の保持しているデータに齟齬がなければ、必ず元の、最初にお生まれになった世界に戻ることができましょうとも!
小生、キャスケットが保証いたしますぞ!」
猫妖精の姿で、キャスパリーグ氏が太鼓判を押してくれる。
なお今居る此処は、猫の国、猫妖精郷と呼ばれている亜空間だ。
猫妖精、こんな場所に国をこさえるだけの力を持っているとかホント規格外だな?
オレの目に映る猫妖精郷は、ごく普通の、アルビオンとかエーリン辺りの様式の古民家が立ち並ぶ、古式ゆかしき鄙びた農村にしか見えねえんだよなぁ。
「我等も元は異界の猫妖精でございましてな。
この世界に至りし折に、持ち込もうとしたいろんなものを力に変換されてしまいまして。
その結果と、元より得意であった幻影や空間の魔法、そしてかつての商神バンディン様とのご契約のお陰で、この場所を開拓する事が叶ったものでございましてねえ。
因果のどれが欠けても、今の我々は御座いませんのですよう」
最初にここを訪問した際に聞いた時の答えが、これだ。
そんな彼らは、この世界の元創世神を討伐した結果復活した、オレの転移魔法に大変な興味を持った。
そして、その日から、彼らはオレの手伝いと補助をずっとしてくれている。
それにしても、不老不死は捨てたはずなのに、二十年経ってもオレの姿は、あんまり変わっていない。
身長は昔くらいに戻ったから、縮んだままじゃなかったのは幸いとすべきなんだろうけど。
「それは単に魔力量の問題ね。
君も身体の再成長に伴って、魔力が真龍級に戻ってるから、老化は相当遅いわよ」
二十年前と全く変わらない姿のまま、現在四児の母になっている巫女のねーさんには、そう種明かしをされたけど。
……ねーさんが超絶年上趣味だったとは、知らなかった。
いやまぁ確かにマグナスレイン元将軍、すっげえ美形だし、元龍の王族だったからか、結構見た目は若いけど、いくらなんでも、五十歳差はとんでもねえよ……しかも婿入り、だし。
直で疑問をぶつけたら、二十五年分くらい若返ってるから問題なし。って回答だった。
オレの元世界でも、この世界でも、人類の場合、二十五歳差でも大概が過ぎるってばよ!
他人の家庭の話はさておき、帰還のための手段だ。
これはもう選択肢は魔法一択。
それもオレ一人の魔力では決して間に合わないから、儀式魔法化するしかなかった。
そうなると当然、今居るこの世界の書式に合わせた儀式陣を描かざるを得ない。
ところが、これがとことん難航した。
魔法の神の権能を預かったというカナデにも散々手伝ってもらい、魔法開発の先達でもある巫女のねーさんにも手を借りたにも関わらず、だ。
原因は滅びたはずのズボラ野郎だ。
世界そのものに、移動系魔法開発に関する制限と、世界から流出する物を許さない系の制限をかけてありやがった。
まあ前者はカナデがさっくりとまではいかないけど、なんとか解除してくれたし、後者は既に世界の果てで綻びていたのをいいことに、一部を改変する事ができた。
流石に後者は全部取っ払ってはいない。
世界のリソースを狙う輩に無制限に持っていかれるようなスキは、作っちゃいけない。
その位は世界そのものに関わる気のないオレにも判るさ。
だから、強く望むものにだけ、外に出る事を許可する、という形になった。
巫女のねーさんは、そこら辺もどうやってか、世界そのものにお願いして、通してくれたんだという。
だからなんでねーさんはそうも規格外なのか……今更だけど。
これがおよそ十年前だ。
こんなに遅れたのは、なまじ世界の中での移動の方の制限が実質なくなっていたから、ケット・シー達も使えそうな奴とか、そっちの開発を優先してたのもあるけどな。
十五年程前に、猫妖精の魔法を解析したオレは、今のこの世界内限定とはいえ、〈ゲート〉という、文字通りの門を作って遠隔地をつなぐ魔法が使えるようになった。
流石に固定式にはできなくて、都度オレが開いて閉じるスタイルだから、その結果、結構オレも忙しい身の上になった。
何せ、あの魔法馬鹿一代、この世界に既存の、召喚以外の全ての魔法を使えるっていうカナデにすら、取得できなかったので。
オレを構成する何か特別な要素が必要、なんだそうだ。なんだろうな?
でもお陰でアスカベ村とヤグスカ村のメンバーをサンファンに入植させるのはすっごくスムーズにいったから、全員に称賛されたけど。
一人か二人だと、オレに掴まって貰って〈転移〉の方が早いし安いけどな!
村の連中はハルマナート国の開拓で既に慣れていて実績もあるからと、エルフの琅環氏族が当初に入植を希望していた場所を借りて、今ではいっぱしの農村を作り上げている。
エルフたちの方は、狼神の住処や教育機関が近い王都の裏山界隈をすっかり気に入ってしまって、結局そのまま王都裏の山の麓に、立派な農村を作っている。
レア種の牛や山羊、羊の観光農園も手掛けていて、すっかり新たな観光名所だそうだ。
銀狼の旦那が、結局麒麟坊やの説得に負けて国神の座に就いたのは、ほんの数年前だ。
丁度、サンファン国への神罰が解除された頃だね。
神罰が解除された途端に、境界を越える草食動物が一気に増えて、ようやっと手を付けることができた、国境に近いエリアの畑が荒らされたり、獲物を追い過ぎて侵入する狩人や胡散臭い山賊まがいの連中も現れ始めて、麒麟坊が音を上げたんだよなあ。
そりゃそうだ、あいつの成年は、まだ十年以上先だもの。
親であるモトハク爺さんが結構手伝ってやっているとはいえ、手に負えないのは当然だとも。
だから、渋々ながらも、銀狼の旦那が国神の座に就いたのは、必然だったのさ。
「お試しは無理の、一発勝負かぁ」
完成した魔法陣の原図を頭に叩き込みながら、ぼやく。
実際の使用時には、これを魔力だけで描かなくてはいけない。
だから、隅々まで、きっちり覚え込む必要があるって訳だ。
儀式魔法の様式は、ズボラ野郎を討伐するときに、巫女のねーさんとカナデがやってたから、その仕様は知っている。
あの魔法も、綺麗だったなあ。
ふたりとも、二度とやれない、と断言していたけど。
必要ないし、とも言っていたな。
「そこはそれ、ヒト種が創る、世界を渡る為の魔法なんて、そんなものでございますよ。
生まれながらにして世界を渡る術を持つ天狼族様やら、神々ならいざ知らず、というものでございましょうとも」
そういうケット・シー達も、世界を渡ってきた存在だと聞いている。
まあ彼らのは、必死の逃亡の末、この世界に流れ着いた、のだそうだが。
「そういや君らは他の世界に興味はないのか?」
「ございません、といえば嘘になりますが、小生、現在はこの世界に欠けては困るものをお預かりしておりましてねえ!
生憎と、譲り渡す相手もございませんから、このままこの地と共に生きて参りますよう」
どこか誇らしげに、ケット・シーの王たる猫はそう口にする。
かつて喪われたバンディン神を、こいつらは本当に気に入り、実質その眷属として暮らしていたんだというしな。
昔見たバンディン神の玉座には、彼らの姿が写し取られていたのだし。
彼は、バンディン神の権能を預かるという名誉を、生涯果たすんだろう。
出発の日は、天気のいい日を選んだ。
場所は、最初にこの国に落っこちた、マッサイト国の端っこだ。
「まさか、こんなところに呼び出されるなんてね」
偉大なる大巫女様は呆れ顔だけど、どうせ帰りは……あ、いけね。最近白いにーさん居ないから、転移のアテがないんだった。
「最初に落ちた場所の方がいいかなって」
【いやお主、ここに落ちる前にいたのはワシらの世界の残骸だったのでは?】
ねーさんの肩の上で、白い蝙蝠の元魔人様がツッコミを入れてくる。
「それはそうなんだけど、この世界から離脱する条件が厳しいから、順に辿っていくしかなさそうなんだよ」
「ああ、その理屈なら判る。じゃあ、早速始めようかー」
同じくオレが呼び出したカナデは、平常心としか言えない声で、そう催促する。
使えなくても、知らない魔法は見たいし、関わりたいのだそうだ。
「ああ、皆様の御帰宅は小生、このキャスケットが万全に承ります故、ご心配なく!」
「今は世界のどこからでも、猫の国経由ができるものね、頼りにしてるわ」
猫妖精がオレの懸念を打ち消してくれたので、一安心。
「じゃあ術式起動:〈帰還陣〉」
魔力で魔法陣を慎重に描く。今のところは問題ない。
その魔法陣が完成するや、ねーさんとカナデ、それに猫王の魔力がゆっくり流れ込み、魔法陣の発動を促す。
そう、オレの魔力だけじゃ、うんともすんとも言わないんだよ、魔力不足で。
やがて魔力は満ち、魔法陣がぐるりと回りながらオレを包み込み、転移が発動する。
待ってろ我が家、それに姉さん!絶対に!帰るからな!!
多分元の世界にはちゃんと帰れる、はず。
カーラさん、実は転移した時点でカル君の2歳上なんですよね……
シエラの年齢ぶんしか成長記録上書きしてないんで実質若返ってるけど。
ホントはここで完全に完結のつもりだったんですが……
ナレ死した人に怒られたのでもうちょっとだけ、続きます。




