番外編:美人姉妹と神の遺物。
本日も番外編を2本更新です。
まずは、前話で謎っぷりが曝露されたテルモナイデ姉妹。
前話からはだいぶんと前で、本編から二十数年後くらい。姉の一人称。
何かが、おかしい。
それに気付いたのは、国替えついでに就職して、十年ばかり経った頃だった。
私も、妹も、余りにも変化がない、そんな気がして。
現在の私、サンクティア・ティカル・テルモナイデは転生者でこそあるけれど、身体的にはこの世界の現地人類のはずだ。
無論、実妹である我が愛しのメルマイア・ハッチェス・テルモナイデも同様のはず。
だというのに。
成長が止まっていはしないか?
いや、年齢的には、老化が止まっている、の方が正しいような気はする。
私も、メルも、三十代半ばともなれば、本来なら肌の皺やくすみに気を遣うような年頃なのではないかしら?
確か、前世ではそうだった。
この世界でも、一般人類はそんなもの、のはずよね?
なお周囲の同僚の目はあんまり当てにならない。
なにせ、私の直属の上司達は、私よりもっと長い間姿が変わっていない、らしいので。
私たち姉妹は外国出身の転生者である、以外の身辺情報を出していないから、恐らく、同僚たちからは、上司達の同類扱いを受けているような、そんな気がする。
観察だけしつつも数年かそこら、私たちがこの国に引っ越してからは、およそ二十年ばかり経った辺りで、現在の我が国であるサンファン国にかかっていた神罰が解除されるという出来事があり、その結果、私の勤務先である国王秘書室の仕事が数倍に増え。
余りに忙しくて、その観察とか全部うっちゃってしまったのは、私のせいではないはず。
神殿勤めのメルの方も私程ではないにせよ順調に多忙となり、そちらも自分の事どころではない様子だったし。
魔力が高すぎて儀式護法が使えない妹は、気が付いたら教官職に就いていた。
私も今は国王秘書室の副室長という、この慢性的に人手の足りない国では、結構な要職にいる。
「……お二方とも、人間種族じゃなくなっておられますねえ」
サンファン王の最初の娘二人を産んだものの、娘は認知のみで王族籍に入れる事なく、本人も後宮に入ることなく、ただ狼神の巫女としてだけ暮らしていた、いわば先代の巫女長と言える立場の、そして私の収納魔法の師匠であるひとに、ある日の雑談がてら、そう判定された。
彼女、エレンディア様は、神罰解除の混乱期に国神として立ってくださった狼大神様の専属の巫女的な立場であり、娘たちが成人した折に、その職務を譲って引退され、今はお若いお嬢さんたち、神官長と巫女頭の後見を務めている人だ。
狼の巫女としてのあれこれは娘の一人、ソールヴェイ嬢に譲り渡したものの、生来の巫女技能の方は、いまだ健在であるらしい。
二児の母であり、私と大差ない年齢のはずではあるけれど、彼女にもあまり老いの気配は感じない。
でも彼女の場合は、純粋に異世界人であるので、比較対象にはそもそもならない。
「創世神の軛が外れたせいなのでしょうか」
「それも多少はありますが、恐らくそもそも、貴方方の魂がとても重いものだったから、のように思われます。
もう一つ前世を挟んでおられると以前伺いましたけど、よくそちらで事故を起こさなかったものだな、と」
言い切ってしまってから、あら?と口元を抑える仕草。
あ、巫女技能が言葉を勝手に改変するって、以前恩人であるカーラ様もぼやいていたけど、今のは、それのようね?
「カーラ様のそれとも別ということですね」
「あの方のあれは、純粋に魔力量だけから来ているものなので、別ですね。
カーラ様は、私同様、今もちゃんと人間ですわ。
でないと、この世界の神様の巫女は務められませんもの」
改めて確認したら、明快に否定された。
あの方も、微塵も姿が変わってないと思ってたけど、そういえば大魔王級魔力、しかもカンストしてるって以前お会いした時に聞いたわね……
この世界の神は、基本的に巫女、巫覡を手元に置くものが多い。
でもそれは必ず、人族の括りに入る者、狭義の人族と獣人族だけだ。
たまに異世界人もいるけれど。
それこそ今話題に出ているカーラ様や、目の前のエレンディア様のように。
この法則は、元々異界からの稀びとであったこの国の狼大神様も同じで、エレンディア様も、異世界人ではあるけれど、身体的、種族的には人族だ。
そして、今は隣国メリサイト国の、境界の女神様の大巫女として世界を走り回っている、我らが恩人、カーラ様は、サンファン国が今の形態で立ち直る為に甚大な努力をしてくれた縁で、今も不定期にこの国を訪問してくれている。
不思議なのは、あの方は今も国籍はメリサイト国ではなく、ハルマナート国に置いたままだ。
この国の神罰が解除されて暫く経ってから、ハルマナート国の元将軍を婿に迎えたけれど、それと関係があるのだろうか?
現祖国であるサンファン国と、ハルマナート国との関係は、現状では良好だ。
神罰が下されるもととなった、今となっては誰もが馬鹿げた、と断言する侵攻時に、ハルマナート国側の被害が殆どない、と公表された事が理由としては大きい。
実際には、想定外の場所で相応の人的被害が出ていたらしいのだけど、巫覡系技能以外での立証が困難だという事で、公の場で発表されることはなかった。
秘書室副長に正式に任命された時に、その辺の裏の話は教えられているけど。
この国も、実態としてはかなり被害者枠に近い、という話だった。
さて、我々姉妹、結局エレンディア様による判定では、人類ではない何か、であるとしか言われなかった訳だけど。
首を傾げていたら、ある日、連絡鳥ではなく、旧知の白い蝙蝠が伝言を運んできた。
なんでも、私とメルに、旧ライゼル国、滅びた国の東の果てにある、古い……大昔にライゼルに併合された国の廃都に行ってほしい、という大巫女様直々の依頼だという。
長年の有給休暇やら何やらがふたりして随分と溜まっていたので、それを消化がてら出かける事にしたのは、流石にそろそろ長期で旅行などして、気分転換がしたくなった、という自分でも珍しい心境にあったから、ね。
いえ、流石にちょっとここ十年ばかりは、多忙が過ぎまして。
「まあ、本当に何もない場所なのですね」
可愛いメルが、目をまん丸にして、荒地を見渡す。
その姿も、また可愛い。
老いに当分縁が無くなった現在、まだまだこの愛らしさを堪能できるのは、非常にありがたいわね。
思いのほかあっさりと到着したここ、創世当時にはカルマルフェッタと呼ばれていたという国の、廃された都の跡は、遺跡とすら呼べない、只の砂まみれの荒野だった。
「昔は穏やかな、様々な種族の民の住む静かな都だったのですよう。
ライゼルめの併合時に、この国にしか居なかった亜人種の殆どが喪われてしまい、時を経た今では、建物の基礎すら残っておりませぬが」
移動の魔法を持つというケット・シー族の案内人は、目的地に私たちを運ぶだけではなく、そんなかつての事情をも説明してくれる。
どうやら誰かが、私達に預かってほしいものがある、というのだけれど。
「……ああ、成程。この下に埋まっているのですね」
何故か、それを先に見つけたのは、メルだった。
「ええ、お嬢様。感じ取ることができたのなら、それはお嬢様のものでございますよ」
妹と契約もしているケット・シーは、そう言うと頷く。
つまり、私のものではない?
その割に、必ず二人でここに来るように、と言われたのだけれど……
メルマイアは、えい、と、簡単な風魔法で砂を吹き飛ばす。
砂の下から出てきたのは、小さな、飾り気のない木の箱だ。
「あら、素敵ね」
その木の箱の中身は、私にはよく見えないけれど……メルは、それを素敵だと評する。
メルがその中身を摘み取った瞬間、木箱は崩れて消失する。
指先に摘まれているはずの何かは、相変わらず私には見えない。
「そうですね、片方は、お姉さまに」
そう言うと、左の耳に、ピアスと思しき感触。
穴は開けていないはずだけど、するりと耳たぶを通過し、留め具が勝手にぱちりと嵌る。
同じものを、メル自身は右耳に。
付けられてしまえば、目に映るそれは、愛らしいオパールの小粒を卵に見立てた、鳥の巣を象ったピアスだ。
ってちょっと待って?ナニコレ?
神の、権能?
「亜人種を安定させる力、だそうですわ。人の軛からずれたわたくし達も、安定するようです」
にっこりと微笑む妹の姿は、なんだか既に女神の慈愛、というものを感じさせる。
「私、この手のものとは相性が悪い気がしているのだけど」
「大丈夫ですわ、これは、この世界に、埋もれる事なく存在さえしていれば良いのですって。
わたくしたちは、今後もこれといって変わらず、一緒に暮らしてゆけばよいのですわ」
一番最初の、魔族――夢魔としての記憶がまだ色濃く残る私に、女神の力は相性が宜しくないのでは?という懸念を、その辺は特に教えていないから知らないはずのメルマイアは、さらりと問題ないと受け流す。
ええ、そうね。
愛しい貴方とならば、私もきっと、大丈夫。
今はただ、そう思う事にするわ。
という訳でしれっとなんかフラグが立ったようで、きっちり「現状維持」を選ぶ、意外と抜け目のないメルちゃんでした。
……メルちゃん、君ほんとに前世迄のティカルたんがらみの記憶ないん?(疑惑の眼




