番外編:新たな世界を!
ではここからは番外編詰めです。
誰の話からいくか考えた末、エピローグから時系列を遡ることに。
という訳でまずは三人組が旅立つ話、三人称。
その日も、天気はそこそこ上等、だった。
元々、かつてアスガイアと言われていた地域は気候……天気の変動が少ない。
これは大地にかつてあった魔力が枯渇しかかっていた事で、地域全体に魔力量が少ない事が原因だ。
かつて国神がいた頃は、それを国神の力が補っていたのだが、それも喪われて既に幾星霜。
今のこの村には、神の座にあるものがいない訳ではないのだが、彼らは国神の座を、決して望むことはない。
「準備はできたか?」
その神の座を隠し続けてきた男筆頭、アンダルが、数千年前からの知己であったツレと、最近、といっても既に五百年ばかり経過している付き合いの夫婦に声を掛ける。
「おう、俺の方は万端だ。最近は特に何もしていなかったしな。
もうちょっと土地や民に愛着でも出るかと思ったんだが、そんなこともなかったのは、やっぱり余所者だからかねえ」
まず応えるのは、妙齢の、豪奢な赤毛の巻き毛の美女だ。
かつて戯れに少女から歳を重ねて見せた姿とは異なり、出る所は出、引っ込むところは引っ込む、メリハリの利いたボディに、見るからにしっかりした筋肉を纏わせる、明らかに肉体派と言った姿になったサーシャだが、相変わらず身体的には、乙女という奴だ。
ずいぶんと俺好みになったなあ、見た目だけは。
アンダルはそう思うが、相変わらず二人の関係はただのツレであり、それ以外の関係は全くない。
サーシャ自身も性自認が一切変わっていない上に、アンダル以上に色恋に興味がないタイプなので、育ってからの四百年ばかりは近寄る男たちを物理心理の両面で泣かせてばかりだ。
アンダルとしても、サーシャは古馴染みのただのツレだ。
というか、五百年ぽっちだと、古い記憶――相手がおっさん、しかも異相の獣相の持ち主だった頃の記憶の方が遥かに多いので、上書きなんて無理だよな、と、観賞枠にすら入れていない。
「こっちも大丈夫」
くせっ毛の黒髪、出身民族的な問題で、この世界の民から見ても、アンダルから見てもかなりの童顔、という印象の青年、カナデも頷く。
幸い彼の希望程度に背は伸びた。
この世界の平均くらいでいいです、という願いだったので、多分願われた何者かも叶えやすかったんじゃねえか?というのが、自分の希望が上手く通らなかったサーシャの分析だ。
「私も大丈夫、いつでもいいわ」
その隣で微笑む、黒髪ロングを綺麗に背に流した美女に成長したワカバも頷く。
カナデとワカバが夫婦になったのは、この世界に流れ着いた折に彼らを保護してくれた巫女がまだ存命の頃だった。
なんなら結婚式の儀式神官も彼女に務めて貰った。
世界でも有数、いや空前絶後の能力を持つ大巫女に結婚の面倒を見てもらった平民は彼らくらい、らしい。
本人はもっと他にもやりたい相手は居たらしいが、多忙で叶わなかったとも聞いている。
余談になるが、その巫女本人の結婚式においては、儀式神官役は女神メリエンカーラ自らであった。
あの女神様、大巫女にはとことん甘かったよね、が、今居る面子の共通認識だ。
【問題なーし】
【流石にちょっぴり名残惜しいですけど、何処までも御主人様について行きますからね】
聖獣・御神鶏改、と種族を纏められた二羽の鶏たちもいつも通りだ。
彼らの卵は更に絶品になったが、この世界にはもう食べさせたい相手が、今この場に居る者達以外に、いない。
一番評価を高くしてくれる白い真龍は、既にこの世界で人の化身姿を取ることはやめてしまい、もうずいぶん長い事、会っていないからだ。
そしてもう一人、彼らの卵を好んでいた大巫女は、現地の民より遥かに長命ではあったけれど、既にこの世を去って久しい。
だから、後はいつも通り、主であるカナデについていくだけ、なのだ。
「いよいよ出立か。名残惜しいな」
いま一人、この場には濃灰色の髪の美男子が立っている。
これは聖獣の化身である、タイセイだ。
ただ、今の彼はネットワークから外れた、純然たるこの世界の聖獣だ。
彼が、そう望んだからだ。
「すまんなタイセイ、後事を全部押し付ける恰好になっちまった」
アンダルがその声に答えて、軽く頭を掻く。
「ボクが選んだんだ、あんたらのせいじゃない」
実際、この世界を後にし、新たなる天地を求めるという話が出た段階で、タイセイはこの世界に残ると即答した。
この世界は、五百年ばかり前に、創世神を欠いた。
堕ちて壊れ、世界に悪と滅びを齎す魔に変じたソレを討伐したのも、大巫女と彼らだ。
創世神を完全喪失した世界は、徐々に縮小し、滅びに向かう。
だから、この世界に残ることは、滅びを受け入れるのと、大差ない。
ただひとり、かつて白かった真龍の末子が、滅びを回避するための茨の道を歩んではいるが……
アンダル達は、彼から除外宣告を既に受けている。
曰く、異界の力の強すぎるものを取り込むと、腹を壊す、と。
タイセイだけは、その場でネットワークから外れてみせ、まあこの程度なら、と軽い言質を貰っている。
「自分から食われに行くとか物好きな」
「どうせボクが魚を食う時と同じで丸呑みさ。ボクくらいの聖獣格なら意識も保てるのは確認済みだし」
確認といっても、既に彼の腹に収まったものの様子を微かに感知した程度の話だが。
「あ、いたいた!今日だったんだ!」
そこにひょっこりと現れたのは、白い髪の少年だ。その髪のほんの二か所ばかりは、実は黒いけれど、後ろで束ねている部分だから、普段は見えない。
「おうジャッキー、今からでも付いてきていいんだぜ?」
「だめだよ、おれの身はこの世界のものだから。いずれこの世界に還さなきゃいけない」
少年の姿の聖獣は、主である大巫女の生前には、完全に成長したのちも、決して化身姿があると述べる事すらなかった。
彼が化身を披露したのは、彼女が世を去って、この村に移転して来てからだ。
聖獣と野良兎の区別もつかない未学習の新規村民にびっくりして、思わず化身姿になった、という、笑っていいのかいけないのか難しいエピソードが付属している。
ジャッカロープってマイナーだからしょうがないよね!とは当時の本人談だ。
ただ、アンダルはその時まで、こいつ自身が化身できるのに気付いてなかったんじゃないか?という疑いを持ってはいる。どうでもいいので口にはしないが。
「見送りはお前だけか」
「だって、他の人はもう覚えてもいないでしょ?おれくらいなら、まあいいかと思うけど」
そう、アンダルは出立に当たって、村人の記憶から、自分達の存在を抜き取っている。
勿論、残る予定のタイセイやジャッキーのそれは、そのままだし、史書に僅かに残る彼らの記述も、そのままだ。
本当は、その程度の改変は、余裕で行える。それが本来の権能になくてもだ。
世界を創るなら、その位はできて当然、が、彼の持論だ。
それでも、大巫女の記録に手を出すのは、宜しくないだろう、というのがアンダルの判断だ。
神々に愛され、龍に愛され、民に愛された空前絶後の巫女。
大巫女、と呼ばれるのは、今となっては彼女ただひとりだ。
「落ち着いた頃には白いにーちゃんの仕事も片付いてるかなあ」
「会いに行けるようになったらいいね」
サーシャとカナデが、今も難事に立ち向かっているであろう真龍の友人に思いをはせる。
「まずは俺らが上手い事やらねえと、だな。
こんなズボラ作みたいな雑なシロモノを創る気はないからな、気張れよ、お前らも」
「「「勿論!」」」
アンダルが主神、残りの三人と鶏たちが眷属神、という立ち位置でスタートすることは既に決定済みだ。
なんなら、ズボラ討滅時のあれこれの段階で、そう画策されていた。
だって、三人は人の上に、ましてや神の上に立つような性格は、そもそもしていないのだから。
向き不向きだからな、当然だ。と、信仰を受ける立場も迫害される立場も経験済みのアンダルはその相談の際に、気安くそう述べた。
「それじゃあ出発だ。元気でな、タイセイ、ジャッキー」
……それに、何処かで見ている真龍、おまえさんもさ。
最後の一人には直接言及することはないまま、アンダルはその力を開放する。
空間が僅かに歪み、口を開く。
余計なものがあちらにも、こちらにも紛れ込まぬよう結界を膜のように張り、調整するのはワカバの仕事だ。
「うん、いってらっしゃい!」
「せいぜい途中でコケんように気張るがいい」
素直に出立を見送る構えのジャッキーと、最後の最後で捻くれた性格を覗かせたタイセイを置いて、神の座に至った者達が、空間の歪みの彼方へ、消えていく。
「……行っちゃったねえ」
「無事にこの世界から送り出せたのは重畳だ。龍の兄さんに……は伝えるまでもない、な」
綺麗に跡形もなく消えた空間の歪みから、天上に目を遣る二人。
「龍の兄さんがボク達に手を出すにはまだもう少しかかりそうだな」
「おれたちサイズを食べる時期はとっくに過ぎてるし、最後に世界と一緒にべろんごっくんじゃない?」
物騒な雑談をしながら、一旦彼らの村に戻る聖獣二人の化身。
終わりの、そして新たな始まりの時には、まだ暫し。
というわけで三人組グループはこんなふうな結末に。
彼らは、新たな世界に旅立つのではなく、新たな世界をイチから創る方を選択しました。
本日はもう一本番外編がございます。




