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エピローグ:――最果ての龍――

唐突に出現するエピローグ。


時系列は最終話のずっとずっと先。

 気が付けば、そこは何もない空間。


 はて、いつのまにこんなところに?と周囲を見回すものの、ただ、真っ白な場所に、ぷかぷかと浮いているあたし。


 視界の端に映る長い髪は相変わらずの魔力の黒。

 結局、年齢をどれだけ重ねても、その色は変わらなかった。


 そりゃそうだ、魔力量、全然減らないままだったものね。

 流石にカンスト以後は、それ以上は増えようがなかったけど。



 ……今のあたしは、死者だ。ただの、魂。

 とっくに死んでいるのに、何故か技能は相変わらず機能していて、そんなことをあたしに伝えて来る。

〈書庫〉だってそのままだ。


 ただ、今のあたしは……カーラでも、シエラでもない。

 メインはカーラと名乗っていたあたしなのだけどね。


 この世界(セイファーリア)に来てから、およそ百五十年。

 元の年齢を足せば、あたしの元の世界の寿命からも遥かに遠く、ましてやこの世界の民でも、龍の王族に稀に出るかどうかという長い期間。


 気が付けば、二つの魂は一つに綺麗に統合されていた。

 混濁もなければ、破局的要素も、全くなく。


 こうなったのは、シエラの方が〈書庫〉の番人、ガイドとしてその魂を変換されて、そもそも人の魂とは言えないモノに変わっていた、そのせいだ。


 時々記憶が混ざるな、と思っていたこともあるけど、人生半分くらい過ぎた辺りで逆にきれいに整理され直した記憶は、いまだにあたしの内にある。


 まあでも、百五十年ずっと、世界中を走り回りっぱなしだったのは、面白かったけど、今思うとなんであんなに余裕がなかったのかなぁ。


 人生そのものは楽しかった。

 玄孫の顔を見る前に娘が死んでしまって、自分が長生きしすぎたのに気付いた時くらいかな、凹んだの。


 玄孫の顔はバッチリ見た。

 流石に成人するところは見られなかったけど、そこまではぜいたくが過ぎるよね。


 恋愛とか抜きに、成り行きと慎重な合意の上で夫となったマグナスレイン様だって、あたしよりよっぽど前にあの世に行ったし……いや元々相当年上だったけど……



 アスカ君は、あたしが生きている間に、この世界を出ていくことに成功した。


 流石に外の世界は観測できないから、元の世界に帰れたかどうかは定かでないけど、キャスパリーグ氏が手伝っていたから、恐らく上手くいったんじゃないかしら。


 三人組も、御神鶏たち共々、アンダル氏に連れられてこの世界を去っていった。

 といっても、こちらはあたしが死んでからの事だから、出て行った、としか判らない。


 出ていく前は最初の予定通りアスガイアを再開拓していた。

 その地には、異世界人の漂流者(相変わらず、なくならない)や、転生者が集い、黒髪だらけの村ができている。


 トレント種やアルルーナさんを誘致することに成功したので、今はすっかり森もできていて、かつてあたしが見た幻影の風景はそのまま、再現されたと言えるだろう。



 そもそも、あたしが死んでからも結構な時間が経っている、そんな気がする。

 天に昇ろうとした覚えはあるんだけど……はて?



【……よもや。このような場所で逢おうとは】

 ふいに聞こえた発話は、懐かしい響き。


 ああ、ランディさんだ。

 もうずっと、あたしが老いるよりも前から、長い間、会っていなかった。


 声のした方に意識を向けると、巨大な、真龍。


 ただ、その色は、白ではない。

 イードさんの髪の色を思い出させる、深い藍色だ。


 それは、かつての壊乱龍の彩でもあった。


 実は、イードさんは壊乱龍グルームドゥルームの生まれ変わり、みたいなものであったらしい。

 その本質情報を鱗ごと奪い、自分の内に隠したのはマグナスレイン様。


 だけど、とある理由で水晶龍様が龍の王族全ての鱗を回収したために、封印は解かれてしまった。


 ただ、封印が壊れても当然回収されてしまった鱗は戻らなかったから、真龍の魔法だけが解禁され、過剰化した魔力のせいか、理性を喪失して暴れたイードさんはあっさりと、討たれた。


 それを為したのは、ランディさんだ。

 人の姿から化身できずにいたイードさんを、一呑みにして。



 それが、最初の儀式だったのだ。

 世界龍、世界の全てを喰らうものへの進化の道の。



《久しぶりね、ランディさん。ずいぶんでっかくなっちゃって》

 その事件以後、彼は化身姿を決して取ることはなく。

 少しずつ、世界を構成するものを喰らうようになっていき――


 イスカンダルおじいちゃんも、ケートスさんも、つい先日からはキャスパリーグ氏も、今は丸呑みされて、彼の腹の中だ。

 実は、消化されたりはしてないけどね。


 小さなものから大きなものへと、順に力あるものを喰らい、身の内に囲い、自らの大きさを増していき、更に大きく力あるものを喰らうという、見ようによっては血に塗れた道程。


 喰らう、という形式が、余りにも凄惨故、彼が耐えられるかどうかを心配されていたのだけど……


【さっき爺を仕留めてきた。よりにもよって、混ざられた……】

 でっかい溜息を吐くあたりは、昔のランディさんの雰囲気がちゃんと残っている。


 案外と元の性質が強いのだな、ああそうだ、彼も光属性が特段強いじゃないか。

 精神を護る、光の力。


【だが、何時まで喰らえばいい、世界が滅びるまでか。

 世界を、喰らい尽くし、終わらせるのが我、ということなのか】

 あれ、まさか、まだ迷ってるの。


 メビウスおじいちゃんが混ざったなら、知識も確保されて、迷うラインはもうないのでは?


 ああ、本人が心情的に拒否してるから、知識の流入が阻害された状態か!世話の焼ける!


《終わらせるんじゃないと思うわよ。

 確かにもうちょっと大きくしないと世界は呑み込めない気はするけれど》


 なにか食べ忘れてないかい?既に身体のないあたしじゃないのは確かだけど。


【否、否……我が名は、ランズエンド。

 最後の真龍にして、大地を喰らい、ひいては世界を終わらせる者、だ!】

 珍しく、ごう、と音もなく吠えるランディさんは、うっかりなのか本気なのか、己の真名を晒す。


 ははーん。全て呑み込んだら一人になると思って、寂しいんだな?人好き真龍め。

 しょうがない、全部ネタバラシ、だ。


《いいえ、貴方の名は、貴方が至るべき先は、【世界龍ランズエンド】!

 そう、大地のみならず、この世界全てをその身の内に取り込み再構成し、世界の果て(ランズエンド)となるものよ。終わらせるための存在じゃないわ!》


 唐突に発生する強烈な契約の繋がり。

 あ、やべ、真名復唱しちゃった!!


 きょとんとした顔のランディさんが、真龍の姿なのにちょっとお茶目だ。


【契約、可能、だと?

 ……それになぜ世界龍の話を、ああ、爺めか!】

《そうよー。二回目に真龍の島に行った時から、ずーっと、秘匿してました!

 道程を始めてどころか、過半終わってからですらそんなに思い悩む貴方に、始まる前からそんな話、できないもの》

 これに関しては、本当におじいちゃんは流石の慧眼だった、と思う。


【ぐぅ……で、契約が成ったからには、其方、我を導けるのか】

《多少は?先に大の月を食べちゃったら丁度いいと思うのよ。

 小の月はこれからこの世界を離脱するから、だめだけど》


 導くというほどではないけれど、次の目標を示唆する。

 今の彼なら、大の月までくらい、余裕でひとっ飛びのはず。


【……成程、確かに今の我は、あそこまで飛べる、な?】

《多分、それで準備は整うはず。

 足りなかったら今も無人のライゼル方面を軽く齧ってから始めるといいわ。

 今の世界にできるだけ近く再現を行うなら、丸呑みが一番だけど》


【……流石だな、巫女よ。手順が綺麗に揃った……

 成程、世界龍とは……我が新たなこの世界となる、ことか】

 喪うのではないのだな、と、納得した様子でランディさんが天の月のある辺りを見上げる気配。


【……小の月は何処に行くのか】

《小の月に住む小神様は異世界の紐付けがされていて、貴方には食べられないから、紐付け先の世界に戻るんですって。

 その際あの月を乗り物代わりにするから、これも異界の民な、そこの住民も連れて行くんだそうよ。

 どうしてだか判らないけど、あたしもついて行くように言われているわ》

 何故か、あたし、小月の神様にご指名を受けちゃったんですよ。ついてこいって。


 メリエン様の巫女としての義理はきっちり果たしきったし、自分も死んでいるから、この世界に未練はあまりないし、お受けしてしまったんだけど。


【……そうだな、今の我には、其方の存在は重すぎるし、其方が主として契約してしまったから、喰らうこともできぬ。

 だが、この契約は魂に対して行われたもの故……


 ……いつの日か、どの生でか、必要になったらぶが良い。

 呼べる力がその時にあれば、だが】

《判ったわ。約束ね》


 約束を交わしたところで、微かに小月の御方の気配と、雷の強い属性を感じる。


【サラマ、そんな所にいたのか。其方が最後になるとはな】

【……あの月の住民に、電気……雷属性が重宝がられちゃってね、すっかり長居してしまったよ。

 お待たせだよ、ランズ。ここまでよく頑張ったね、もう一息さ】

 どうやら小月から、雷の真龍が降りてきたらしい。姿は見えないけど、その声は優しい。


 それと入れ替わるように、あたしが小月に引っ張られていく。


【……暫し、さらばだ、巫女よ】

 ランディさんの声が遠ざかる。姿はもう、見えない。


《ばいばい!()()()!》

 大きく声を届けたけれど、聞こえたろうか。


 大丈夫、契約は繋がっている。きっと、聞こえたはずだ。


 ばいばい、ランディさん。


 また、いつか、遠い時間の先で逢いましょう!

最後の最後で、主人公、やらかす。

実はイードさんの正体、第六部の番外編にヒントが出ていたりします。


なおこのあとの物語は一作目「まぼろしのひつじ」後半あたり参照。

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