630.人類圏への帰還!
王宮だった瓦礫の浄化も無事に完了して、ついにお仕事、完全完了だ。
ふう、と大きく息を吐く。
ここまで、結構かかったなあ。季節はすっかり冬だ。
でも今から転移で帰れるなら、新年祭には間に合うかしら?
「お疲れさん、ねーさん」
「ねーちゃん、お疲れ。なんか食う?」
アスカ君が軽い調子であたしをねぎらい、サーシャちゃんが例によって魅惑の提案をしてくれる。
アスカ君と知り合ったのは割と最近だけど、結構濃い付き合いしてくれてるなあ。
そして三人組とは、もう年単位の付き合いだ。
一方的にあたしの計画に巻き込んだけど、それでも彼らは大事な仲間。
それは、事が成った今も、変わらない。
「ありがと。時間的に微妙だけど、さっきのはお昼ごはん前の軽い食事って事にして、本格的なお昼御飯本番がいいな!」
簡単に礼を言って、リクエスト。うん、お腹が空きました!
「あ、確かに。俺も散々運動したから腹減った」
「そういやあの成長バージョンってまたやれんの?」
あたしの提案に同意するサーシャちゃん、どうでもいいことを思い出すアスカ君。
「無理!」
「バトルの報酬で権能制限掛けたから無理だな!
ちなみに普通の地元民より遅めに成長するはずだけど、あの姿になるかどうかは不明だぞ」
サーシャちゃんは無理と即答し、アンダル氏が詳細解説をしてくれる。
なんでもあの成長後風の姿は、サーシャちゃん本人の願望が多大に反映されているから、ああなる確率は意外と低い、のだそうだ。
美女にならないって方向性じゃなさそうだから、お胸がボンっとするんだったりしてね。
「僕ももう少し身長増えそう?」
「多分増えるんじゃねえか?成長期自体は終わってなさそうだからな、お前も」
アンダル氏はすっかりお兄さんのような顔で、カナデ君の疑問にも答えている。
カナデ君とワカバちゃんも、もう一回昼食にすることに異議なし、という訳で、瓦礫の山から少し戻って、王宮前広場だった場所でテーブルと椅子をセットしての本格的な昼御飯だ。
「んで帰りはどうすんだ?」
「ズボラ野郎が完全消滅して世界の名前が解放されたんで、オレの転移魔法が解禁になった。
今の魔力だと多分一気にメリサイト国までなら戻れると思う」
テーブルに肉と魚の唐揚げを並べながら問うサーシャちゃんに、流石に魔力が足りないから、いきなりハルマナート国とかは無理だな、などと説明してくれるアスカ君。
因みにメリサイト国まで飛ぶとほぼ魔力が枯渇するという話なので、成程、結構な魔力食いですね?
「ああ、それだが、ケット・シーを呼ぶと少しマシになるかもしれん」
それを聞いたアンダル氏が想定外の名前を出してきた。
いや想定外って程でもないな。あの種族も空間属性全振りだ。
少なくとも旧ディアバンド国内は好き放題移動できるって言ってたもんな。
トマトとレタスと刻んだ人参とラディッシュで構成された野菜サラダの上には茹でた小エビがトッピング。
唐揚げは蹴撃兎と白身の魚。
パンは全粒粉のロールパンだけど、かなりあっさり風味。
スープは今日はなんとお味噌汁だ。具材はキャベツと油揚げ。
「うおおおお味噌汁うううううう、米が、白米が恋しいいいいい」
「サーシャのパンって味噌汁にも合うのなんでだろうなぁ」
「お味噌汁の方に工夫があるのかも」
コメ恋しい病をあからさまにするアスカ君に対して、カナデ君とワカバちゃんは味噌汁にパンの組み合わせに完全に順応している。
「魔の森の状況が落ち着くようなら、カルダモンとか探しに行きてえなあ」
そしてサーシャちゃんの方は完全にプラントハンターの顔だ。まあ気持ちは判る。
「魔の森は徐々に落ち着く感じじゃないかな、暫くは魔獣が一時的に増えるかも」
魔力は減らないけど瘴気は減る。
そうすると、魔物の産生は抑えられ、その結果、魔獣枠が増えるんじゃないか、というのがあたしの現在の予測なのだ。
たぶんそうなるねえ 世界としては駆除はできないし
世界さんとしては、魔獣もこの世界に生きるものなので、排除はできないという方針のよう。
実際排除しきっちゃうと、グリフィン族がごはんに困るから、魔獣の出やすいエリアはあってもいいとあたしは思うんだ。
「じゃあ〈召喚:黒猫精パンジャン・キャスケット・リージェンシー・グレイト〉」
食事の後片付けのあとは、アンダル氏の提案通り、キャスケット氏を呼ぶことにする。
猫の王を呼ぶような場面ではなさそうだから、普通に中級版で呼ぶよ!
「はいはーい!呼ばれて飛び出て参上仕りましたぁ!…………おお、おおお?!」
召喚陣からひょいっと飛び出した直立歩行の黒猫は、挨拶したかと思ったら、周囲を見まわしてびっくり顔になった。
「これは!これはこれは!!我があるじ様、ついに、成し遂げなすったのですねえ!
創世神の座から転げ落ちた愚か者、セイファールめの残滓すら、何処にも残っておりません!
素晴らしきかな!我らの悲願がついに叶いましたぞ!!ありがとうございますありがとうございます!!」
「セイファール……?あいつそんな名前だったんだ」
「そうよ、力と世界との繋がりを削ぐためにずっと封印されてた名だけど、もういないから喋ってもおっけーってわけね」
アスカ君の呟きに答えたら、あいつ命名センスないんだなあ、という言葉。
確かにアスカベ村のほうが捻りがあっていい気がするから、そこは同感だ。
「時に、そちらの御仁、空間転移の魔法をお持ちになっておられますかな?」
ひとしきり感謝と感激の言葉を振りまいた後、キャスケット氏がアスカ君に目を留める。
「ああ。ここのアホを討伐したんでやっと使えるようになったんだ。
そういやこの世界でも空間魔法を使えてたんだよな、ケット・シーって。
先達として色々確認したいな」
「勿論でございますとも!
といっても我々は別の世界に移動するための機能を完全にオミットした結果、空間属性の拡張を可能にし、どうにかこうにか我らの王国を空間ずらしで開発するという無茶をしておりますから、参考にならぬ部分もございますでしょう!
当面は仕様の確認に留めたいところでございます故……この国からの移動距離を伸ばすなどはまだちと難しいやもしれませぬ」
アスカ君は自分の世界に帰るために転移魔法を改良もしくは改善したいようだけど、生憎ケット・シー達は逆の方向性で魔法を改変したようで、キャスケット氏の台詞を聞いたアスカ君がちょっとがっかり顔になる。
「ああ、お気を落とされませんよう!
あの邪魔者がいない以上、新規の開発や最終的な他世界への移転を考慮する事ができるようになったのも確かでございます!
なんとなれば、我らの技術の裏面をお知り頂く事で、貴方様の目的に近付ける可能性もございますから!」
慌てたように付け加えるキャスケット氏。
確かに、ケット・シー達は転移魔法の、別世界への移動手段としての部分を捨てたというのだから、その手順を知ることは、逆に外世界へのアプローチになり得る、のかな?
あたしは元の世界に戻る気はさらさらないから、関係ないけども。
だって、今のあたしの姿は、あちらに戻っても元のあたしとは絶対認識できないし、そもそも戻る理由自体がないしね。
《以前貴方の一族にかかっていた呪詛の事を考えると、戻らない方が安全な可能性が高いですしねえ》
そう、呪詛ってのはしつこいものだから。
何を標的にしてこっちにまた降りかかってくるか、判んないよね。
だから、あたしはこの世界で、あたし達が救ったこの世界で、生きていくんだ。
その為に救ったわけですし?
「じゃあ忘れ物、やり残しはないね?」
「準備宜しければ補助スタートいたしますぞー」
「「「大丈夫!」」」
アスカ君がまず確認し、キャスケット氏がそれに続く。
三人組が元気に挨拶し、カスミさんも頷いている。
マルジンさんはいつも通りあたしの肩の上だから問題ない。
「技能判定オールクリア。問題ないわ、始めて!」
周囲を見回す。
多分、この王都の外には、もう生きている民はいない。
ズボラが大地と一体化していた、ということは、民も一切合切巻き込まれた、ということだからだ。
星の光の魔法は癒しも振りまいたけれど、その恩恵にあずかったのは、辛うじて生き残っていた僅かな奴隷以外、殆どがヒト種ではない生き物たちだったようだ。
王宮を脱出していった魔法師達の方は、キャスケット氏が部下に命じて生き残りの奴隷達共々回収してきてくれた。
といっても、魔法師たちも、生き残ったのは二人だけだ。
あとの人はあの魔法の時点で、手遅れだった。
彼らと元奴隷達は、一足先にケット・シー達が自らの国に連れて行った。
恐らく魔法師達は、そこで、猫たちに看取られる事になるだろう。
超級魔法でも、寿命はどうにもならないので。
それでも、最後の一人か二人として、孤独に死ぬよりは、きっとましなはずだ。
「じゃあ行くよー。〈転移〉」
「目標設定が雑ぅ!でございますぞおおおお」
アスカ君が魔法を発動し、キャスケット氏がツッコミを入れながらその魔法を補助し補正していく。
ランディさんや真龍たちの転移魔法とは全く違う魔法式が、するりと発動し、あたし達を包み込み、遥か彼方へ運んでいく。
さあ、メリエン様の元へ、凱旋だ!
という訳で、本編はこれにて無事完結!大団円!のはず!
いつも通り雰囲気ぶち壊しそうな人物紹介が同時更新です!




